寄り道の先に見たもの
犬神ヤシャは忙しかった。地震による休校であり、輝明学園から近い場所に住んでいた犬神は、緊急の際には出勤するよう義務付けられていたのだ。
まず学校に行き、校舎の破損状況を調べ、避難所の設営準備をし、授業の再開スケジュールを立てる。
しかし、休憩も必要である。公共交通機関が止まり、道路状況の確認もできないため、歩くしかない。さすがに歩くのでは時間がかかる。
まっすぐ輝明学園に向かい、校舎の確認作業に入る前に、たまたま目についた喫茶店に入った。
喫茶店には花屋が併設され、店の看板に五芒のマークが入っていた。
犬神ヤシャは忙しかった。だが、現在忙しいというより、これから忙しくなるはずだという意味である。
まだ朝早い時間である。モーニングサービスをやっているわけではないので、営業時間外だった。
だが、あえて犬神は店に足を運んだ。
大きな地震があったので、気になったと言うつもりだった。
喫茶店『五芒の月』の前に立ち、深呼吸を繰り返す。
嫌な顔をされるかもしれない。
昼まで待ってもいい。
だが、犬神は取っ手を掴んだ。
鍵がかかっていても不思議ではない。
『準備中』の札が下げてある。
扉は開いた。
当然だが閑散とした店内が出迎える。
人気はなく、店長の四緑カオリの姿もない。
当たり前の光景のはずなのに、犬神は奇妙な違和感に首をひねった。
カオリの性格を考えれば、地震の跡片付けはすっかり終わっていて当然だと思われた。それが、まるで営業する気がないかのように、店内が荒れていた。グラスは倒れて床に破片が飛び散り、机の位置は雑多で椅も倒れている。
「お邪魔します。カオリさん、いらっしゃいますか?」
やや緊張しながら声をかけるが、返答はなかった。
突如、視界が赤く染まった。
裏界が開いた。
赤い月が昇る。
犬神の膝が折れ、床に両手をついた。
全身を剛毛が覆い始めたとき、始まった時と同じように、突然裏界が閉じた。
激しい変化に汗だくになりながら、犬神が立ち上がる。
同じ現象があった。
生徒たちを追って訪れた、呪いの家と思われる民家を訪れた時だった。
レジ台の向こうにある扉が、音もなく開いた。
誰もいない。ただ、まるで犬神を招いているかのように、扉が口を開けた。




