潜んでいて欲しいもの
呪香ミツコは夜、自宅の部屋で携帯電話を見つめていた。
呪いの家と呼ばれる建物内で、確かにミツコを見つめ返す目があったのだ。
イノセントを中心に、携帯電話は精密機械が組み込まれていると信じている。だが、実際には中に悪魔が閉じ込められ、持ち主のために奉仕している。
それが真実ではないかと、ミツコが思う事件が起こった。
ミツコは学習机に魔法陣を広げた。毎回書くことなく、広げるだけで魔法陣になる便利な布である。
布の真ん中に携帯電話を置いた。
魔法書を片手に、椅子から立ち上がる。
「異世界から呼び出すことばかりに気を取られていたけど、こんな身近にいたなんてね。この小さな入れ物から出すだけなら、簡単よね」
自分に言い聞かせるように口に出しながら、ミツコは魔法書を開いた。
「あなたもそう思うでしょ?」
背後にいた人影に話しかけ、ミツコは違和感に硬直した。
――誰?
「……殺された」
壁際に立ったはずのミツコの、背後から声が聞こえた。背後からというよりも、耳元で囁かれているようだった。
「何の話?」
「私と、私の子供が、あの男に殺された。一緒に来た……あの男に」
「まさか、ムカサのこと?」
ミツコがわずかな首の動きと眼球の移動で背後を見ると、壁に溶けるように、髪の長い女が立っていた。
女の首が動く。
肯定だ。
「あいつなら、それぐらいのことはやりかねないわ。私にどうしてほしいの?」
「……助けて」
ミツコが眉を寄せる。
ミツコは女を恐れていなかった。呪いの家での出来事すら、気にしてもいなかった。
具体的にどうすればいいのか、ミツコが問い質そうとした時、女の姿は消えた。
ミツコは開きかけた魔法書を閉ざした。
――興が削がれたわ。
携帯電話を取り上げ、ミツコは魔法陣をしまった。
長い間使い続けた携帯電話だ。呼び出すのが少しぐらい遅くなっても、中の悪魔が気を悪くすることはないだろう。
呪香ミツコは、寝ることにした。




