ミツコの場合
呪香ミツコは、女に案内されるまま家の中を見て歩いた。女は話すことなく、ただ順番に部屋を開けていった。
誰もいなかった。広い家ではない。二階建てで、地下室があるとも思えない。
「これで全部なの?」
女はただうなずいた。
「少し試したいことがあるから、一人にしてもらえる?」
二階の一室で、ミツコは月衣から占い道具を取り出した。女が承知したかどうかすら、眼中になかった。
部屋を見回すと、殺風景で生活感のないただの空間だった。
部屋の様子に興味のないミツコは、占いをするための十分な広さがあることだけを確認すると、月衣から取り出した占い用のシートを広げ、星球儀・古式カード・水晶玉を並べた。占いには様々な方法があるが、複数の占い方法を併用することをミツコは好んでいた。複数の方法から結果を読み取り、最終的に判断するのは術者の能力である。
どこにいるのかわからない行方不明者を探すには道具が足りなかったが、この家にいるかいないかだけなら、間違いない結果を導き出す自信があった。
水晶玉に力を注ぎながら、星球儀を読み取り、カードを並べていく。
ミツコの手が止まった。
水晶玉はいくら力を注いでも何も語らず、星球儀はあり得ない運行を継げていた。手元のカードは、ミツコ自身の死を告げている。
――干渉されている?
占いの結果を改ざんされるのは、魔女にとって最大の屈辱である。
ミツコはしばらく、自分がめくったカードを見つめていた。
占いを止めることはできる。だが、何者かに結果が操作されているなら、メッセージが読み取れるかもしれない。
ミツコは占いを続行した。
どんな形であれ結果が得られるのは、ミツコの手もとではカードだけだった。
死、失敗、挫折、後悔……。
悪い結果だけが積み重なる。
「つまり、私はここでは死なない」
思わず、呟いていた。悪いことが起きるだろう。だが、死んでしまってはその悪い出来事を経験することもできない。だから、最悪でも殺されることはないだろう。
「いいえ」
ミツコの耳元で、誰かがささやいた。
空耳は、ウィザードにとって起こるはずのない現象の一つだ。
誰かが、耳元でささやいたのだ。
ミツコは全力で振り向いた。
誰もいない。
だが、ささやかれた。
誰かがいるはずだ。
ミツコはカードをまとめ、占い道具一式を月衣に収めようとした。
水晶玉に手を伸ばし、今まで何も語らなかった水晶玉に、巨大な目が移っていることに気づいた。
あまりいい目つきとは言えない。ミツコの携帯電話から見つめていた目を思いだした。そっくりだった。携帯電話はそもそも悪魔が動かしているのではないかというミツコの期待は裏切られのかもしれない。だが、ミツコは信じなかった。似ているだけで、同じ目だとは断定できない。ミツコは、携帯電話の中に悪魔がいると信じたかったのだ。
ミツコは月匣を展開した。友好的ではない何者かがこの家にいることは疑いようがない。家全体を包むつもりで、全力で月匣を展開した。そのつもりだった。
――月匣が作れない?
目玉を浮かべた水晶玉を掴みとり、ミツコはすべての道具を月衣に押しこめた。立ち上がり、叫んだ。
「ムカサ、帰るわよ!」
この家に長く居てはいけない。魔女としての、ミツコの勘だった。




