導きと招き
地裏ムカサは、もはや自分がどこにいるのかさえわからなくなっていた。呪香ミツコに従えられるように付き添い、無数の角を曲がり、隅々まで知っているはずの学校周辺の一画で、方向すらわからなくなっていた。
ミツコはふわふわとした足取りながら、目的地を知っているように見えた。ムカサはミツコの前に出ようとした。背後から話しかけても、答えが得られると思えなかったからだ。その理由は、ムカサ本人にもわからない。
ミツコの前に出ようとした。足に力を込めた。
ミツコの背中が、ムカサの少し前にある。
ムカサの脚力なら、ミツコを飛び越えることもできるはずだ。
それでも、ミツコの前に出ることができなかった。
ムカサは異変を感じ、自分の足を見降ろした。
足首を掴む、真っ白い手があった。
――人間を引きずりながら歩いている?
ムカサの足首を背後から掴んでいるなら、つかんでいる人間がいるはずだ。
ムカサが背後を振り返ろうとした時、ミツコが声を発した。
「着いたわ。ここね」
ミツコが振り返っていた。世の中のすべての存在を恨んでいるかのようないつもの視線で、不景気な表情を隠さない。示されたのは、閑静な住宅街に立つ一軒家だった。
「ミツコ、どうしてここだとわかるんだ? 途中、誰に案内されていた? ミツコは携帯電話も見ていなかったが……」
「何を言っているの? ずっと案内してくれていたじゃない」
「……誰が?」
ミツコが片手を上げ、前方を指さした。ミツコが目指した民家である。門の外から玄関が見える。
玄関の扉が、内側から開いた。
長い髪をした、ごく普通の主婦に見えた。あまり若くはない。初めて見たはずだが、ムカサは見たことがある人物だと確信した。
どこかで見た。
ミツコの背後にいた。
――あの女だ。
玄関の扉を持つ手の白さ、指の長さに、ムサカの足首を掴んでいたのと同じ指だと確信した。ムカサは指の白さを確認するため、あるいは記憶を探るために、自分の足首を見降ろした。指は消えていた。ムカサの足首は、ただ黒い靴下だけが覆っていた。
「どうしたの?」
ミツコが尋ねた。精神操作や呪いの類について、ムカサよりもはるかに長けているはずのミツコが、どう感じているのか聞きたかった。上手く言葉が出ない。ムカサは、自分が恐れているのだと理解した。
「……なんでもない。行こう」
自分の発した声が、震えていなかったことに、少しだけ安堵した。




