08 空間
ローランド卿は薄目を開けた。気絶していたのか。クラクラする頭を押さえ、起き上がった。目が見開かれた。ここは―。
「気付いたの?」
声がした方を振り向いた。暗くて良く分からないが、黒い長い巻いた髪。白い肌。シアーズのところにいた、セイレーン。彼女もまた、人間として生きる道を選んだのだろうか。でなければ、こんなところに居るはずがない。
「ここ、どこなのかしら。最初気付いたら一人でいて、少ししてあなたが来たの。これから一体どうしたら・・・。」
肩に手が置かれた。反射的に振り払った。
「触るな!」
シルヴィアの目が大きくなった。瞳が潤んでいる。こんな所に一人でいたのだ。いくら魔物といえど、心細いことに変わりはないのだろう。無碍に振り払ってしまった。少しの罪悪感があった。だが、無理矢理掻き消した。
「俺はお前と違うんだ・・・。」
シルヴィアがうつむいた。ローランド卿は周りを見回した。壁は今までのような岩ではなく、木のようだ。いや、自分達が木の中にいる。なるほど、これが魔喰いの木からの道か、と納得した。義父上は詳細にそのことも記していた。おそらく、自分の父、ウェン・ツェンが調べ上げたことを、そのまま書いたのだろう。ただし、どうやって木の内側に入るのかは書かれていなかった。羊皮紙には、この先に聖水があると書かれていた。聖水は人の心を蓄えているのだという。目をやった先に、道が見える。立ちあがった。
「何をしている。」
へたりこんで肩を落としているシルヴィアに声をかけた。顔をあげたので、手を差し伸べた。
「え・・・?」
困った顔で見つめ返された。
「早くしろ。」
「いいの・・・?」
ローランド卿は少々いらついた。宮廷にいた時もそうだが、女というのは全く物分かりが悪い。たまにそうでない者に会うと、本当に感激する。いろいろと話をしたい、と思うこともあったが、そういう女は大抵、自分のことを気に入るか、全くもって嫌うかに綺麗に二分できた。普通、そういう女には嫌われた。宮廷には利己的な奴しかいなかった。
「ここでいつまでも時間をつぶすわけにはいかない。先に道がある。おそらく、そこに求めているものもある。・・・俺はお前とは違うが、半分似たようなものだ。ぐずぐずしていると、この木に喰われるぞ。」
シルヴィアは怯えた顔をして、文句を何も言わずに手をとった。立ち上がると、不思議に何だか大丈夫そうな気がしてきた。




