10 光の聖水
ローランド卿とシルヴィアは歩いて暫くすると、広い場所に出た。この島は一体どうなっているんだ。いや、それよりもまず、目も眩むようなこの光は。
「これが・・・聖水?」
ローランド卿の呟いた言葉に、シルヴィアは不安を隠せなかった。確かに光に慣れると、光が地面からのものだと分かった。石が積んであり、まるで泉のようだ。だが、とても水には見えない。しかし、ローランド卿は情報の少ない自分達に比べると、遥かにこの島のことをよく知っている。彼が言うなら、間違いないのだろう。泉は人の心を蓄えているらしい。飲むことで、その力を得られるのだろうか。
ローランド卿は、泉を作っている一番大きな石の前にしゃがみこんだ。
「fountain as neodry an tsolais・・・。」
間違いない。これが、聖水。字はまだ続いていた。だが、読めない。随分昔に戦闘でもあったのか、破損していた。いつになく興奮した声で、ローランド卿が呼びかけた。
「おい、来てみろ。聖水だ。」
「これが・・・。」
「私も初めて見た。光の泉とはこういうことだったのか。」
手がまた感覚を失い始めた。左目は包帯で隠してあるが、また鱗が出てきそうだ。もう時間がない。それに、さっきからシルヴィアも調子が悪そうだ。
ローランド卿は飲まないのか、と聞いた。シルヴィアは不信そうな顔で光を見つめている。ローランド卿は手を伸ばし、光を掬った。もう感覚がないので、熱いのか冷たいのかも分からない。そもそも、掬ったという感じすらしなかった。そして、手の中の光を飲んだ。
何かが体の中に、ストンと落ちたような気がした。徐々に感覚が戻ってくる。息を吐いた。少し嫌な予感がしたが、ねじ伏せた。ローランド卿が何ともなさそうなのを見て、シルヴィアも光を飲んだ。
同時に、背後から大勢の人の足音が聞こえた。二人ともはっとして振り返った。自分達の来た方向とは別の道から、灯りが見える。ローランド卿はとっさに剣を抜き、シルヴィアを背に構えた。
「あ、お前・・・!」
聞き覚えのある声だ。
「シアーズ!」
別の道から来たのか。少しほっとした。と同時に、体が熱くなった。何だ?耐えられなくなり、剣を取り落としてうずくまった。横目で見れば、シルヴィアも辛そうにしている。左目が焼けつくようだ。思わず包帯をむしり取った。
「おい、何があった!ウィル!」
シアーズが本当に心配しているのは俺ではない。だが、本当に何なのだ。気が遠くなりそうだ。その時、くらくらする頭に声が響いた。いや、部屋全体から声が聞こえるようだ。
「はは・・・愚か者共め・・・聖水の力を知らぬから、そういうことになる。良い気味だ、ウェン・ツェンの息子よ。お前らもここで・・・死ぬといい。永遠に母の近くにいてやってはどうだ・・・。」
「誰だ!」
シアーズは天井を見た。何もいない。岩だけだ。
「出て来い!」
暫く間があって、また声が聞こえた。
「出て来い、というのは無理だな。何しろ私は体がない。」
「どういうことだ。」




