第6話 強行突破/私と彼女の出会い①
「結局、こうなる……」
クロエは小さくため息をつくと、私に言った。そして、それを聞いていたリオは
「あんた、大変だな」
とクロエを労るように言った。
私たちは今、クロエの隠蔽魔法で領主邸の裏側まで歩いていた。
リオは、「なんでそんな魔法使えるんだ?」と不思議そうにしていたが、クロエが魔王だったとは口が裂けても言えないので、「実は宮廷魔法使いの弟子で……」と言って誤魔化した。
「二人ともノリが悪いな! こういうのは気合いでどうにかするしかないでしょ。誰も信じないんだから」
「だからって力で解決するのは短絡的すぎないか?」
「時間がないから仕方ないじゃない。それにこっちには最強のクロエがいるからね。クロエは本当に強いんだよ!」
「私、できる女」
クロエは私に褒められて、嬉しそうにしながら大きな胸を張った。……やっぱ羨ましい
「やっぱお前ら二人ともおかしいな」
リオだけがさっきよりも疲れた顔をしていたが、気にしないことにした。
◇
「よしっ、領主邸に侵入成功」
「じゃあ、探す?」
「ちょっと待って。一つ調べたいことがあるの」
領主邸の中に侵入すると、早速魔道具を探そうとするクロエを一旦止めた。
「何探すの?」
「それは秘密。だからリオとクロエのチームと私で一度分かれよう」
「やだ」
「ダメ。探偵の命令は絶対です。すぐに終わらせて合流するから、ね?」
私が一生懸命頼むと、クロエはいやいやながらも頷いた。
「分かった。でも、すぐ戻って来て」
「うん。もちろん」
「あの〜」
すると、リオが割り込むような形で話しかけてきた。
「ずっと言おうか迷っていたんだが、あんたらって付き合ってんのか?」
私とクロエは顔を真っ赤にして
「私とクロエ!? いやいや、そんなんじゃないよ。ね、クロエ」
「私は、付き合ってもいい」
「ち、ちょ、クロエ!?」
リオが変なことを言い出したせいで、おかしな空気になってしまった。
「今はそれよりも探すよ、証拠!」
私はこの気まずい空気を変えようと話を戻した。
「てか、あんたは一人で大丈夫なのか?」
すると、リオが私が単独行動することを心配して聞いてきた。
「大丈夫大丈夫。クロエほどじゃないけど、私も結構強いよ」
「サリア、こういう時だけ強い」
「こういう時だけ、ってひどくない?」
「だって、ほんとだもん」
「と、とにかく! 大丈夫なんだな?」
このままでは永遠に私たちの夫婦漫才?が続くと思ったのか、リオが話を打ち切った。
「よしっ、じゃあ後でね」
私はそう言って、二人と別れた。
【クロエ視点】
「サリア、大丈夫かな?」
私は僅かな魔道具の気配を頼りにリオと一緒に魔道具を探していた。
改めまして、私の名前はクロエ、元魔王である。突然だが、私の昔話をしたいと思う。
私は幼い頃から口下手で、よく魔王である父や母から怒られていた。周りも次期魔王候補なのに大丈夫かと呆れていた。
最初は辛くて裏で泣いていることが多かった。しかし、次第に慣れるようになっていき、逆に周りからの期待を背負わないでよいことを楽に感じるようになった。
そんな時に、父が死に私が魔王となった。父にはいつも怒られていて、あまりいい思い出がなかったが、唯一覚えていたことがある。
「私は人間やエルフなど他の種族と共存できる世界を作りたいんだ。もう戦争のない平和な世界を」
私はそんな父の言葉を聞いて、素直にすごいと思っていた。他の魔族幹部からはずっと反感を買いながらも、努力を重ねる父を近くで見てきたからだ。
母から聞いた話だと父は幼い頃は弱く周りからいじめられていた。しかし父は努力を続けて、魔族の中でもトップクラスにまで成長し、周りも父に渋々従うようになった。
だから、今度は私が父の目標を引き継いで頑張ろうと思ったが、現実はそこまで甘くなかった。
幹部たちはみんな父がいなくなった途端に他の種族を滅ぼそうとし始めたのだ。私は必死になって止めた。どれだけ悪く言われようが、父の目標だけを貶されたくなかったのだ。
だが、ついに痺れを切らした幹部たちが私を殺そうと強硬手段に出た。私はまだ幼く、父ほどの力はない。だから、逃げた。
逃げて、逃げて、逃げて、気づいた時にはエルフの森に迷い込んでいた。私はこのままではまずいと思って逃げようとしたその時、
「あの〜大丈夫?」
私は彼女に出会った。
風でふわりと靡く銀髪、長い耳、そして私を見つめるパチクリとした大きな翡翠色の目。私の彼女に対する第一印象はこうだった。
「天、使?」
すると、彼女は体をくねくねとさせながら、
「か、可愛い! 天使だなんて、照れるな。えへへ、私からすると君の方が可愛くて天使だと思うけどね、魔族の美少女さん♡」
私はその時、自分が疲労の蓄積と彼女のあまりの美しさに隠蔽魔法を解除していたことに気づいた。
「あっ」
私は終わった、と思った。
ただでさえ、魔族は周りから嫌われているのに、最近は特に魔族の他種族への侵攻が進んでいる。すぐに仲間が駆けつけて私は殺される。
でも、私がその時考えたのは逃亡や戦闘という選択肢ではなかった。
「もう、いいかな……」
私は全て諦めたのである。魔族が他の種族と仲良くするなんて、もう夢物語だ。どうせこのまま戦争が起こる世界を見るなら、いっそのこと今ここで……
「ねぇ、私を殺して?」
すると、彼女は大きな目を見開くと言った。
「何でこんな美少女を殺すなんてことをしないといけないのさ!? 私はね、美少女エルフ名探偵なの! だからあなたが何かに悩んでることぐらい分かるわ」
そう言って彼女は手を差し出すと
「私があなたの愚痴を聞いてあげる。だからそんな悲しいこと言わないで」
私はこの時、今まで心の中で溜まっていたものが一気に弾けた。
私は泣いた。
もう以前はいつ泣いたかなんて覚えていない。私はこれまで、他人にどんなに陰口を言われても耐えてきた。父の死とともに母も壊れてしまい、私には頼れる人など誰もいなかった。だから我慢した。
でも、出会ったばかりの少女が魔族である私を救ってくれたのだ。
私は全てを吐き出した。元魔王であったこと、魔族が他の種族と仲良くするために頑張っていたこと、部下から裏切られたことなど気づけば夜になっていた。
彼女は私が舌足らずな口調で話しているのを真剣に聞いていた。全てを話し終えたとき、どうせこんな話をしても信じてもらえないだろうと思って、私は彼女を見た。
彼女は泣いていた。
「ひぐっ……うっ……あなたはとても辛い思いをしてきたんだね。私には……ぐすっ……そ、それがどれほどきついものなのか分からない。けど、死なないで。あなたは頑張った。褒めてくれる人がいないなら私があなたを褒める」
彼女は泣きながら、私を頭の後ろに手を当てると、ぐっと引き寄せた。私は彼女に何をされたのか一瞬分からなかったが、彼女の胸が目の前にあるのを見て、抱きしめられたのだと気づいた。
「うっ……うわああああん!!」
私は思いっきり泣いた。二人で抱きしめながら泣きあって、気づけば眠ってしまっていた。
次回、サリアとクロエの過去の続きです




