第5話 魔族の魔道具
「あいつらを捕まえろ!」
「あいつらが畑を腐らせてる元凶だ!」
「捕まえて、領主様に引き渡せ!」
突然だが、私たちは今追われている。
なぜそうなったのかというと、実は私たちも分かっていない。
バカ盗賊団を拘束してギルドに引き渡した後、畑を見てまわっていたら、急に町の人たちが紙を持って集まり、私たちのことを追いかけて来た。
私たちは、慌てて逃げるとリオたちのいる隠れ家に逃げ込んだ。
すると、リオたちは私たちを見て驚いた顔をしていた。
「あんたら! 大変なことになってるぞ!」
そして、私たちに一枚の紙を見せた。そこには私とクロエの似顔絵が載せられていて、「こいつらが畑を育たなくさせている元凶だ!!」と書かれていた。
私はこれを見て思わず怒鳴っていた。
「なにこれ!? 訳わからないんだけど!」
クロエも目を見開いていて、驚いていた。リオはそんな私たちの様子を見て、何かに納得したように頷いた。
「なるほどな」
「どういうこと?」
私が聞くとリオは紙を指差しながら言った。
「あんたら、領主に喧嘩を売ったんだろ。それが原因であいつの怒りを買って、あんたらを捕まえるためにこれを出したのかもしれないな。前々から胡散臭いやつだとは思ってたが、やっぱりそうだったのか」
「あ、そういえば」
私はさっき領主邸であった出来事を話した。リオは私の話を聞いた後、話を整理した。
「つまり、話をまとめると、あいつが犯人で魔道具を使って腐らせてる可能性が高いと」
「うん」
私が頷くと、リオは不思議そうな顔をした。
「なんでそんなことする必要があるんだ?」
私は先ほど逃げている途中に考えた予想を話した。
「私の予想でしかないんだけど、これは見せしめなんじゃないかな? 生活が貧しくなったら町の人たちがまず頼るのは領主でしょ。もしそれで、あいつが魔道具を持っていたとしたらどうなる?」
そこでリオは目を見開くと
「領主が町の絶対的な権利を持つことになる」
私は頷くと推理を続けた。
「そういうこと。あいつは町の人を従わせて王様気分にでもなりたいんじゃないかな」
「でも、そんな単純なの、かな」
クロエが首を傾げて聞いてきた。
「まぁ、セルロ自身はそこまで考えていないと思うよ。あれは、天性のバカだと思うし。ただ、魔道具を渡した商人に関しては人間を憎む魔族の過激派の差し金かもしれない」
「っ」
クロエは肩を震わせた。たぶん、同族が町を滅ぼそうとすることに堪えられないのだろう。
私はクロエの手を握って、「大丈夫」と言って落ち着かせた。そして小声で
「あくまで予想の段階だから。それにクロエが気に病む必要はないって何回も言ってるでしょ。クロエはそんなこと思ってないんだから」
と励ました。クロエはいつも、自分は悪くないのに責任感を感じてしまうことが多いから私がしっかりサポートをしないといけない。
クロエはコクンとうなずき、しばらくすると落ち着きを取り戻した。その様子をみてリオが
「大丈夫なのか?」
と心配そうに尋ねてくるが、事情を話すことはできないのでなんとか誤魔化して話を進めた。
「これからの動きなんだけど、さっき一通り畑の様子を見て、ある程度《《何の魔道具》》なのかは予想がついたんだよね」
私がそう言うと二人はそろって首を傾げた。
「何のって、野菜を腐らせるんじゃないのか?」
リオがそういうとクロエもうんうんと頷いた。
「いや、そんな魔道具って普通作れると思う? それに、この町を見ると不思議なことがあるの。例えば町の木々は腐っていないのに野菜だけ腐っているところとか」
クロエははっと気づいたように、勢いよく顔を上げた。
「無理、野菜だけを枯らすなんてできない」
どうやらクロエは理解したようだ。リオはまだ不思議そうにしているので説明をした。
「魔族の魔道具ってのはね、そこまで何でもできるものじゃないんだ。例えば呪いだと、強い恨みを対象の一人にぶつけることはできるけど、複数となると難しい。それに細かな調整だって難しくて、間違えると自分に災いがかかる魔道具だってある。だから今この状況はおかしいんだ」
そこまで言うと、リオも理解したようで目を見開いた。私は言葉を続けた。
「町全体の野菜すべてを限定して腐らせるなんて普通じゃ無理。それに、もし仮にできたとしても、こんな田舎で使っても意味ないでしょ。だから、魔道具自体は野菜を腐らせる能力はないと思うんだ」
「なるほどな。何となくは理解したぜ。けど、それだったら魔道具は何をしているんだ?」
私は先ほど思いついた仮説を二人に話した。
「それなんだけどね。私は野菜を食べる害虫を集めてるんじゃないかと思うんだ」
「害虫?」
リオが不思議そうに聞いてきた。
「うん、害虫。魔族の魔道具は呼び寄せることに関しては得意なんだ。魔獣とか虫とか」
そして私はリュックの中から町の人への聞き込みの途中でもらった、腐った大根を出した。
「これはさっきもらった、大根なんだけど根の部分をよく見て」
私はそう言って、大根を持ち上げて根の部分がよく分かるように見せた。
「私は畑いじりが趣味だったからよく分かるんだけど、これは黒腐病と言って、アオムシとかの害虫がかじった部分から細菌が入って中で増殖するんだ。他にもあって……」
私は、もう一度リュックの中に手を突っ込むと、今度は茎ごと抜いてきた植物を取り出した。
「例えば、このトマトの葉っぱはだらりとしているでしょ。これはセンチュウっていう小さな虫が原因の青枯病の症状なんだ。で、こういうのがいろんな畑であったの」
そこまで言うと私は結論を述べた。
「つまり、魔道具が野菜を腐らせてるんじゃなくて、魔道具は虫をおびき寄せて野菜を腐らせるための《《仲介役》》だったんだ」
私がそこまで言うとクロエも頷いて
「確かに、作れる。対象が『虫』なら」
と言った。元魔王であるクロエは、魔族の魔道具の作りも理解しているので、クロエのこの言葉で魔道具の能力についてはほとんど正しいという確証が得られた。
すると、さっきまで熱心に推理を聞いていたリオがため息をつきながら言った。
「でも、これが分かったからと言ってどう証明するんだ? 誰も信じてもらえないだろうし、何か考えでもあるのか?」
「ふふふっ、私を舐めないでちょうだい。美少女エルフ名探偵よ? もちろん考えてあるわ」
私は小さな胸を張ると言った。
「強行突破よ!! 領主邸に乗り込むわ!!」
「さっきまでの感動返せ!!」
黒腐病と青枯病についての話はネットでの知識のため少しあやふやな部分がありますが、許してください。




