第11話 普段はへっぽこなエルフ、サリアの実力
(今回は長めです)
「『断罪』第二席アイリス・ジャッジメントの名においてセルロ・ウェスティングを逮捕する」
その瞬間、セルロはもう助からないと悟ったのか絶望しきった眼差しで虚空を眺めていた。
「さぁ、早く牢屋に行こうか」
アイリスがそう言ってセルロに近づこうとした瞬間、私は急に嫌な気配を感じて体がぶるっと震えた。
「な、何?」
どうやらアイリスも感じたようで足を止めていた。
「お前らの……せいだ。俺の人生はお前らに壊された! もう何もかもどうでもいい! ……こわしてやる。最後にお前らの人生も壊してやる! アハハハッ!!」
セルロは突如、狂ったように髪を掻きむしりながら壊れたように笑いだした。そして、ポケットから瓶を取り出した。
「おい! やめろ!!」
アイリスはセルロを止めようと動き出したが、それよりも先にセルロが瓶の中身を飲み干した。
「ウ、ウウッ、ウワァアアアアッ!」
セルロは叫び声を上げた。すると、体が少しずつ大きくなって変形していき、頭には角が生えて、長い尻尾があり、口が裂けた化け物になってしまった。
「うわぁ、めっちゃキモい」
私はあまりの気持ち悪さに吐きそうになった。元の姿もまぁまぁ気持ち悪かったが、それにも増してひどくなっていた。
「そ、そんな!」
「うん? どうしたの、クロエ?」
クロエが顔を青ざめながら、少し驚いたような声を出したので、気になって聞いてみた。すると、クロエはアイリスに聞かれないように小声で言った。
「あれは、人を魔物化させる薬」
「えっ!?」
私は思わず大声を出してしまった。
「どうかしたのか?」
アイリスが化け物を睨みつけながら、聞いてきた。私は慌てて「何でもない!」と返すと、声を落としてクロエに聞いた。
「あれも、魔族の魔道具なの?」
「うん。あ、あれはたぶん……私が魔王だった頃に研究していた遺伝子操作を悪用してる。魔族の体を少しでも人間に近づけさせるためのものだったのに……」
クロエは拳を握りしめながら唇を噛んでいた。私はそこでようやくクロエが苦しんでいる理由を理解した。無理もない。自分が良かれと思ってやったはずの研究が悪用されていたら、誰でも自分を責めてしまう。
私はクロエをさっきよりも強く抱きしめると、そっとささやいた。
「大丈夫、クロエのせいじゃない。悪いのはそれを悪用したやつらだ。必ず、私がそいつらを見つけてぶっ潰してやるから」
「っ! ありがとう、サリア」
「うん! 私は絶対にあなたを見捨てない。だから一緒にこの世界をいろんな種族が平和に暮らせる世界にしよ」
クロエは涙を流しながら、笑顔で頷いた。
「よしっ! それじゃあまずこの状態をどうにかしよっか」
「うん」
私は改めて化け物の方を見た。
今はアイリスが応戦してくれているが、生かしてまま捕まえて情報を聞き出す必要があるので本気を出すことができていない。
このままいけば香炉型の魔道具を壊されてしまい、何が起こるか分からない。
私はこれからの行動を頭の中で一旦まとめるとそれぞれに大声で指示を出した。
「アイリス!! 魔道具の解析するからもう少し粘って!」
「無理言うな! 私の能力は周り一帯を巻き込むから使えないんだよ!!」
私はアイリスの言葉を無視して、今度はクロエに指示を出した。
「クロエ!! うるさいアイリスのサポートを頼む」
「分かった」
私の指示にまたアイリスはケチをつけてきた。
「おい! 私はうるさくない! それに、少女に私のサポートなどできるわけ……」
「うるさい!! クロエは強いんだから、ごちゃごちゃ言わない!」
「クロエ、頑張る」
「頑張れー!」とクロエを全力で応援しながら。最後にリオに指示を出した。
「最後にリオ!!」
「はいっ!」
「リオはこの辺りにある住人を避難させて!」
「わ、わかった。やってやるよ!」
私は一度にたくさん喋りすぎたため、息も絶え絶えな状態だった。大きく息を吸って、少し落ち着くと、問題の魔道具の解析に取り掛かった。
私はこう見えて、目がよく手先が器用なのだ。
そのおかげで、魔道具の解析や分解、呪いの解呪などの分野は得意なのである。……別に私はドジっ子なわけではないからね!
「さて、いっちょやったりますか!」
私の翡翠色の目がキラリと光った。
昔からお爺ちゃんといろんな魔道具を解析して分解する遊びをしていた。
時には爆発して家が吹っ飛んだり、モンスターを大量に誘き寄せるなど失敗もたくさんしてきた。
だが、それでも私は挑戦することを止めなかった。
「はぁ、ドキドキしてきた」
とにかく挑戦が好きなのだ。特にこんなギリギリにまで追い込まれた状態ほど胸が高鳴ってワクワクしてくる。
「さて、君の解除方法は何かな?」
両手に愛用の手袋をつけると、まずは解析から始めることにきた。
「解析」
私が魔法を唱えると、この魔道具のさまざまな情報が頭の中に流れ込んできた。
「ふむふむ、なるほど。これは昔、分解しようとしてミスって大量のゾンビを出現させた魔道具と同じつくりをしているな」
「物騒な言葉が聞こえてきたんだが!?」
アイリスは私の言葉に驚きながら反応してきた。私は軽く手をヒラヒラさせながら言った。
「大丈夫、大丈夫。もう何年も前のことだし、今はたぶん何とかなる」
「その、たぶんが心配なんだが……」
「細かいことは気にしない! 今ほとんど解析が終わって分解始めるところだから静かにして!」
「いや、解析早すぎないか? 普通なら1時間以上かかるはずなんだが……」
アイリスは何か言っていたが、気にせず作業を続けることにした。
「解体」
すると、体が防護服で覆われ、私の横にはニッパーやバールなどの工具が現れた。これは私がお爺ちゃんから学んだ知識を生かして生み出した魔法だ。
お爺ちゃんは前世で「バクハツブツショリハン?」だったらしくて、魔道具の解体方法を教えてくれた。
お爺ちゃん曰く「魔道具の解体は前世の爆弾の解体と似たようなものでな。すぐにマスターできたわい」だそうだ。
私にはよく分からなかったが、なんとなくすごいということだけは分かった。
普通なら魔法を使って魔道具を無効化するらしいのだが、それでは何日もかかってしまう。そこで、お爺ちゃんが「魔道具自体を解体すればよくね?」と言ったのが始まりだ。
ほとんどの人は解体は命にも関わるし危険だと言って辞退して言った。
しかし、私は諦めなかった。
確かに死と隣り合わせの状況だが、魔道具の無効化なんて時間のかかることをするよりも解体するの方が手っ取り早いし、被害も抑えられるからだ。
まぁ、ぶっちゃけ本音を言うと、当時の私には解体がどれだけ危険か知らなくて、ただ単純に楽しかったからだけど。
そんなこんなで、お爺ちゃんからいろんなことを教えてもらい、ほとんどの種類の魔道具の解体を経験してきた。だからこの程度余裕なのである。
「一旦、結界を張って」
私は香炉の粉が吹き飛ばないように簡単な結界を張った。
「蓋を外したいど、たぶん……」
私は香炉の蓋を慎重に持って外そうとした。しかし、蓋と本体がくっついて離れない。
「たぶん、この香炉はからくり箱と同じで開けるのには何か条件が必要だな」
「からくり箱」は、「傾ける」や「振り回す」などの特定の条件を満たさなければ開かない変わった箱である。昔、お爺ちゃんに渡されて三日三晩寝ずに考え続けたこともある。
「今回の場合は、なんだろう?」
私は慎重に香炉を持ち上げていろんな角度から見た。しばらく探していると、香炉の3つの足のうちの一つに切れ目を見つけた。
「もしかして!」
私はその足を掴んで捻ってみた。すると、「ガチャン!」と何かが外れた音がした。
「よしっ! これで蓋は開くはず」
蓋をそーっと持ち上げると、今度は簡単に外すことができた。
「これで、第一難関クリアだ。それで次は……」
私は粉を飛ばさないようにできるだけ小声で言いながら、工具の中からピンセットのようなものを選ぶと粉の中を軽くつついた。
「えーっと、多分このあたりに……あった」
私はある物を見つけて、それを摘み出した。それはお香を焚くときに熱源として使われる、非常に高温になっている香炭だった。
「後はこれを……」
私は最後の工程に取り掛かった。近くにあった高そうな壺を持って来ると、魔法を唱えた。
「水球」
すると大きな、水の球が壺の中に入り、壺に水が溜まった。さすがの私も初級の魔法なら使える
「最後にこの壺に香炭を入れて」
私は慎重に香炭を運ぶと、壺の中の水に沈めた。すると、「シュー……」という音が聞こえて、香炭の火が完全に消えた。
「よしっ! これで終わり。後は粉の方を……」
香炉に蓋を再びすると、どこからか袋を取り出して口を広げてその中に香炉を入れて袋を閉じた。そして、完全に粉が漏れ出ないようにするために、もう一枚袋を被せた。
「ふうっー、魔道具解体完了」
私は額から流れる汗を拭き取りながら言った。




