第10話 「断罪」第二席 アイリス・ジャッジメント
「私は犯罪を断つことを目的とする少数精鋭の組織——『断罪』の第二席、アイリス・ジャッジメントよ」
大規模な強盗団や国際関係に発展するような大きな事件などの多くを単身で解決するような化け物たちが集まる少数精鋭の組織『断罪』。
その第二席であるアイリス・ジャッジメントはさまざまな難事件を解決してきて、世界でも名を馳せている。ついた呼び名は『正義の番犬』
セルロはその名を聞いた瞬間、手からナイフがするりと落ちた。
無理もないだろう。彼女は一度出会えば犯罪者は終わりだと思ったほうがいいと噂されるほど恐れられている。
「本当はサリアとの再会を喜びたいところでもあるが、一度置いておこう」
アイリスが残念そうに呟き、話を戻すかのように両手をパンッと叩いた。
「さぁ、自己紹介が済んだことだし本題に入ろうか。私はお前たちを公平に見て、どちらが悪かを判断する。まず、始めにお前に問おう。お前は今何をしている?」
アイリスはキリッとした目でセルロを睨みつけながら言った。セルロはしどろもどろになりながら嘘をべらべらと話し始めた。
「これには訳があるんですよ、アイリス様! こ、こいつらは勝手に領主邸に侵入した挙句、いきなり私を攻撃してきたんです。私は仕方なくこのエルフを人質にとったんです」
「ほう……では、お前はどうだ?」
アイリスは視線をセルロからクロエに移動させると今度はクロエに聞いた。クロエは、一旦魔法を出そうとしていた手を下ろすと不機嫌そうに答えた。
「私はサリアの《《助手》》として事件を調べていただけ。あなたに話すことはない。」
「クロエ!?」
私は思わず大声を上げてしまった。クロエは基本的に初対面の人にここまで距離をとることはない。しかも、若干怒ってる気がする。なんで?
アイリスは目を見開いて驚いていたが、私とクロエを交互に見ると、何かを理解したのか手をポンっと打つとニヤリとしながら言った。
「なるほど」
そして、アイリスはクロエに近づくと耳元で何かを話し始めた。話の内容は聞き取れないが、クロエは少し驚きながらも何かに頷いている様子だった。
そして話が終わったのか、アイリスはクロエから離れると再びセルロの方を向いた。
「まぁ、彼女への話を聞くのは一旦置いておこう。それよりも君はいつまでサリアを人質にとるつもりだい?」
セルロはいきなり矛先が自分に向かってきたことに驚いていたが、しぶしぶ私を解放した。
私は急いでクロエのところまで行くと、クロエをぎゅっと抱きしめた。
「ごめん。心配させちゃって」
「ん、次やったら許さない」
「分かってる」
「再会の抱擁は後でいいか?」
私たちが感動的な再会を果たしているのを邪魔するかのようにアイリスが話しかけてきた。
「さて、そこの黒髪の少女の代わりにサリア、君に問おう。君はなぜここに侵入した?」
「も、もう! 邪魔しないでよ!!……まぁ、いいわ。あなたはそういう空気の読めない人だったのを忘れていたわ。まず、町で食パンを盗まれたことが始まりで——」
私はリオとの出会いから領主邸での出来事までのことを簡潔に説明した。
「ふむ。簡単にまとめると、君たちはこの町の野菜の枯れた原因を調査していたら、ここに魔族の魔道具がある可能性があると分かり侵入していたところバレたと」
「うん。そういうことだからアイリス、領主をさっさと捕まえて」
「それは難しいな」
「はぁ!? ふざけてるの?」
私が怒るとアイリスは笑いながら言った。
「だって、君のその話には証拠がないだろ? それじゃあやってることがただの強盗と同じだ。何かこの領主が悪いことをしていたという証拠を見せろ」
やっぱりこう来たか。私は心の中でそう呟いていた。彼女は『正義の番犬』と言われるだけあって、口頭で話した程度で動くほど甘くない。
動かすためには、確実に相手が悪だという証拠を提示する必要がある。
わたしは、こんなこともあろうかとクロエたちと別行動をして探していたある物をアイリスに渡した。
「これは?」
「この町の財政状況についてまとめたものよ。よく見てみると、おかしなところがあるわ」
私の言葉にセルロは顔を真っ青にした。私はニヤリと笑いながら言葉を続けた。
「あなた、この町のお金横領してるでしょ。通常よりも少し高く町の住人からお金を徴収していることがバレバレよ」
「い、いやそんなことは——」
「確かに、これは横領しているな」
アイリスはセルロの言葉を遮るように言った。よし、あと一押しだ。私はもう一つの証拠を提示した。
「それと、この場を見ている証人がいるよ。クロエ、リオの隠蔽魔法解除していいよ」
「ん、分かった。でも、リオ君は逃げて——」
「あ、あのー」
クロエが解除した瞬間、奥の扉からリオが現れた。
「リオ君?」
クロエは逃げたはずのリオがいきなり現れたことに驚いていた。私はなぜ分かったか種明かしをした。
「さっき話している時に、そこの扉が少し動いたのを見てね。そこに誰か隠れてるって気づいたの」
リオは少し緊張しながらも、ここでの出来事を話した。
「この人たちは悪くない! 俺が野菜の値段が高くて困ってるって言ったら、原因を見つけようとしてくれた。それに、あの領主がサリアのことを奴隷商に売ろうとして、クロエさんのことも奴隷になれって脅しているところを聞いた」
アイリスは突然、リオが現れたことに驚いていたが、リオに近づくと頭を撫でながら言った。
「君はリオ君だったね。怖いなかいろいろ教えてくれてありがとう」
そして今度はセルロの方を睨みつけながら見た。
「さてセルロ、証人まで出てきて金の横領の証拠まで揃っているとなると、お前の主張は嘘だと信じざるを得ないが何か反論はあるかい?」
「く、くっ!」
セルロは顔を歪ませながら拳を握りしめた。
アイリスはそれを見てニヤリと笑うと、追い討ちをかけるようにクロエの後ろを指差した。
「それにそこの女の子の後ろにあるのって例の魔族の魔道具だよな。普通の香炉を飾っているように見えるが魔法がかけられてることがバレバレだ」
「い、いや、それは——」
「詳しい話は後で聞こう」
「待ってくれー!!」
セルロの最後の足掻きを無視して、アイリスは言った。
「『断罪』第二席アイリス・ジャッジメントの名においてセルロ・ウェスティングを逮捕する」




