59.お別れ
***寛太***
視線を察知して右を向くと、ピートと目があった。
苦笑いをされた。どうやら、トラブル発生のようだ。
「階段ですねぇ。久しぶりのププカダンジョンの成長ですか。楽しみです」と、のんびりしただが、はっきりと明瞭に楽しい!という副音声が聞こえそうな声でアクセルが言った。
その声で、全員、というか、御貴族様の一団がビクッと震えた。
御貴族様たちはボスの間の入り口を入ってすぐの所で、待機していたのだが、リオのぶんなぐり攻撃が見えなかったのでボスが勝手に倒れていったように見えてざわついていたのだ。そんな時に、アクセルの声が聞こえてきて固まっている。
「かんちゃん見て!ここにも隠し部屋に続く廊下にあったのと同じような案内看板があるわ。意外に親切設計よねぇ。それでもおまぬけな子は滑り台に落とされてるけど」
「しぃ~。ユズ、聞こえちゃうよ」
普通の声でディスる柚子を窘めながら看板を見る。
『おめでとうございます。ダンジョンが成長しました。出口へのワープは本日に限り使えます。右の扉をお使いください。明日からは22階層までお越しください。22階層に進む方は階段をご利用ください』
なるほど、どうやら、幸運にも今日はここから出口にワープできるらしい。
「うわ!すげーな、今からここは未踏破ダンジョンって訳だな!」
テンションが振り切れている渉は鼻血を噴きそうなほど興奮して、階段を下りて行こうとする。
ちょっと待て待て。
「渉兄ちゃん、ちょっと待って!貴族の子たちをどうするの?」
「はぁ?出口に行けるならもう帰れるだろう?幼稚園児じゃあるまいし、家まで送ってく気か?」
「それもそうよね。リーダー、このワープは間違いなく出口へ連れて行ってくれるんでしょう?」
「それは大丈夫ですよ。入口の脇の壁に扉が出来ていて、そこに通じます。一方通行なので、一歩でも出ると入っては来られません」
という訳で、御貴族様たちに説明。看板を見せ、自分たちは22階層に行くことを説明して、送ってはいけないからここでお別れだねと言う。
改めて、涙と鼻水を流しながら感謝された。連絡先を聞かれたので、王都シュナーのギルドマスターのドガルに言えば連絡がつくと言っておいた。
ギルドを使って連絡をつけることは、さすらいの冒険者によくある連絡手段らしいので、不審に思われることもない。Aランクのピートが指名したので、ギルマスというギルドのお偉いさんの名前をだしてもへっちゃらだ。
事情も分からないのに、貴族の一団に尋ねられるドガルさんには……。お土産を買って帰ろう……。
そんなお別れの空気の中、公爵家の三男だけが、
「俺は残って一緒に行く!」と言い出した。勘弁してくれ。
「パーティーメンバーだけで楽しく旅をしているのが分かんないのか?なんで僕らが気苦労しながら、子守りしなきゃなんない?」
光太は相当怒っている。僕には激アマだが、僕以外の我がままは一切聞かない、氷の男だ。
「こ、子守り!?失礼にも程がある!」
言い合う二人の掛け合いは意外に息があっていて、慣れると名コンビかもしれないなんて思ってしまった。
それにしても、光太ちゃんから気苦労なんて言葉が出てくるなんて。最も気苦労から縁遠い男。それが光太なのだが……。
そんな、言い合いだが、
「お父様に言いつけるぞ!」というキラーワードを聞いた瞬間に終わりを迎えた。
「はい!ブブーーーーー!」柚子が明るく、でもきっぱりダメ出しした。
「お偉いお父様を引き合いに出しちゃ、ダメよねぇ~。子どもの喧嘩に親を出すのは流石に格好悪いわ。ちょっとは見どころあるかしらね、って思ったから様子見していたのに、残念でした」
そう言って、御貴族様たちを浮かせて、扉を開けて、そのまま放った。
いっちょ上がりとばかりに、手をパンパンとはたいている。
すっきりした顔をしたが、
「あ~~~~!!!ワープの魔法解析するつもりだったのに~~!失敗した~!」と叫んでうずくまった。
「明日、22階層に出てくるから、大丈夫だよ。さあ!早く下りるよ!」
渉に先導されて、身軽になった僕らは楽しいダンジョン攻略を再開した。




