58.リーダーピート
***ピート***
どうしたものか。聖女様のお忍び巡行(冒険者旅)に同行すると決めた時から、覚悟はしていたが……。
次から次に、厄介ごとが押し寄せてくる。寛太様の引きが強すぎるのが原因か。トラブルメーカーと言われて怒っていたが、ここまで続くともはや本人にも異論はないだろう。
いやいや、そんなことより、この御貴族様たちだ。
「はぁ。……それで、あなたたちはこの状況をどう対処するつもりでしたか?」
光太さんと三男がこれ以上けんか腰になる前に、当たり前の疑問を口にしてみた。
「俺たちは、引き返すつもりだよ。どう考えても俺たちだけで最深部のボスを倒して地上へのワープポイントを使える訳ないからな!」
状況は把握できているようだ。力を過信している訳ではなく、ただ本当に滑り台の仕組みを理解せずに隠し部屋の扉を好奇心で開けただけのようだ。
「好奇心は猫をも殺すって言うんだよ。覚えておきなよ」
「なんだと!そこの幼児に言ってやれよ。いや、そんな小さい子どもを連れて来た大人が悪いよな。そこの装備もしていない奴が親か?最低だな!そんな奴らの引率やってる冒険者に説教されたくねえよ!」
後半部分のセリフは私に向かって叫ばれた。そう、ここでまともな冒険者に見えるのは、は悲しいかな私だけだ。あとはどう見たって全員場違いだ。平和ボケしていますと顔に書いてあるような雰囲気の17歳で、あちらの世界では未成年の二人と、19歳で成人しているが未だ学生のふたり。さらに、温泉宿の若旦那に全振りした見た目のアクセルが普通の服装で、お茶でも淹れてくれそうな空気を醸し出している。
私だとで27歳。そんなに若者に説教垂れる程年を取っている訳ではないが、この状況では責任者に見えるだろう。
カケル様は面倒事だと察知して以来しゃべれない子犬のふりに徹している。
ああ、博さんと太一さんが恋しい。
「光太ちゃん、リーダーは絶対この子たちを放ってはいけないわよ。そうなると、全員で普通の冒険者に擬態しながら、出口を目指すのよ。限りなく嫌じゃない?最深部の21階層のボスを倒したら出口にワープできるのならとっとと行ってサクッとやっつけてダンジョンを出て討伐依頼でも受けに行くってのはどう?」
柚子様は光太さんに小声でささやいている。それにしても『冒険者に擬態』とは、なんというワードセンスか。
まあでも、いまさら快適極まりないキャビンをあきらめて、皆でダンジョンの休憩スポットで寝袋で寝ろと言うのも酷な話だ。しかも生意気な御貴族様を引率しながら。
「わっち。ボス、たおす!」
柚子様の話を聞いて、リオがヤル気をみなぎらせている。
もう、どうでもいいか。
「私たちは虹の架け橋というパーティーです。出来立てでランクは低いですが、腕は一流を自認しているものばかりです。21階層のボスでも手こずることはありません。最深部のワープで出口まで行けます。付いて来ますか?」
そう提案すると、御貴族様たちは涙を流しながら、
「ありがとう!帰ったら家のものにお礼を届けさせるからな」と言ってくれた。三男以外の者たちがだが。
三男は、難しい顔をして、一言も口を開かなかった。
渉さんは、「命の恩人へのお礼だよ。自分で届けないんだ~」と、そんなところに反応していた。貴族の若様がお礼を庶民の家に直接届けにくる訳はないのだが、そのあたりの感覚の違いが異世界人なのだろう。
そして、御貴族様たちは、恐ろしく強い私達のパーティーに目を零れんばかりにしたり、呆然と魂が抜けた顔をしたりと忙しい百面相をしながら後をついてきていた。
21階層のボスは、宣言通りリオが瞬殺した。一人で任されたことにリオは大張り切りで、恐らく何が起こったか見えたのは私とカケル様だけだったろう。まさに瞬殺だった。
「僕、まったく見えなかった。今攻撃した!?」
寛太様はリオに聞いている。
「した!いちげきひっさつ、ぶんなぐり、こうた、おしえた!」
「魔法特化型のリオにぶん殴れって教えたの?光太ちゃん!?」
「魔法特化もなにも、なんでも出来るだろ。大丈夫だよ。それに本人はドラゴンブレスも効かないって言ってたぞ」
「リオ~。魔法にしようね!可愛い顔してパンチしに行くなんて野蛮だよ~」
寛太様はなにやら不思議な説得をしていた。魔法攻撃は野蛮ではないのだろうか?
とにもかくにも、ボスを倒した。一段落だ。出口へのワープが現れたら、終了だ。
柚子様は渉さんに、
「ワープの魔法解析したいから、ちょっとだけ時間貰いましょうよ。リオのストーカー魔法は応用不可で私には使えなかったから、これが頼みの綱なのよ」と相変わらずの発言をしている。
そんな平和モードになっていた私が甘かったのだろう。
ワープが出現するであろう場所に表れたのは下に続く階段だった……。思わず寛太様を見てしまった。寛太様が悪いわけでは決してないのでしょうが……。




