エレナとレッカー
ハンスはパン屋から食堂へと戻る帰路の途中、これからのかずさとの関係について考える。
かずさは旅人だ。ハンスははっきりとは知らないが、何かしら旅の目的があるらしい。
しかし、なんだかんだ今も留まっているところを見ると、そこまで急ぎの用件でも無いのだろう。
しかし、今度のコンテストでもしロビンが優勝し、かずさに告白して、万が一それが上手くいったとしたら?
かずさはこの街に留まり続けるのだろうか。そして自分はこの思いを抱えたままこれからも普段通り一緒に過ごせるのか。
それはーー想像しただけで苦しい。
でも、だからと言って自分がかずさに想いを伝えて、断られたら、それこそかずさとの別れのきっかけにもなるんじゃないか。
ーー今の関係が崩れて、あいつは去って行ってしまうんじゃないかーー。
そうこう考えているうちにハンスはいつもの間にか店に着いていた。
店の扉を開けて中に入るとレッカーとエレナが立って二人で楽しそうに話をしていた。
二人は帰ってきたハンスを見て言う。
「おう、ハンス帰ったか」
「お使いありがとうね」
その二人を見て、ハンスはふと思ったことを口にした。
「......二人はどうして結婚したんですか」
何年も働いてきて一度も聞かれたことのない事を突然尋ねられた二人は目を丸くした。
その様子を見て、ハンスもおかしかったか、と慌てて言い訳する。
「あ、いや、あの、そういえばお二人のこと何も知らないな、と思って......」
ハンスの言葉にレッカーとエレナはお互い顔を見合わせるとハンスに言う。
「急に話すとなるとこっぱずかしいな......」
顔を掻いて少し照れるレッカーにエレナはにんまりと笑みを浮かべると、ハンスに言う。
「どうしたのハンス急に~。いいわよ、話してあげる」
「おい、お前......」
急に顔を赤らめるレッカーに見向きもせず、エレナは思い出すように語り出した。
「そうね、あれは本当に突然だったわ......」
エレナは商人の娘で、父と共に露店を営んでいた。エレナが営んでいた露店は食材も扱っており、良い品質だったこともあって、当時貴族の屋敷で料理人として働いていたレッカーも仕入れのために時折訪れていた。そのこともあって二人は少し顔見知りだったらしい。
「当時はなぁんにも思ってなかったわね。偶に仕入れに来るクマみたいにでかい人、としか」
エレナは顔に手を当てながら語る。
「そんな風にしか思っていなかったのか......」
レッカーは長い夫婦生活で初めて知る事実にショックを受けている様子だ。
「それで、ある日そのクマみたいな人が急に話があるって呼び出してきて、それで結婚を前提に付き合ってくれって言われたのよ」
その意外にも誠実な告白にハンスは思わず師匠の顔を見ると、レッカーは顔を少し赤らめて、「オレは仕込みでもしておく......」と奥の厨房へと消えて行った。
エレナは話を続ける。
「まあ、アタシも当時は相手もいなかったし、父にはお前みたいな暴れん坊貰ってくれる奴がいるならいいじゃないかって、半ば厄介払いで勧められたわ。付き合ってみたら、まあ......ぶっきらぼうだけど案外優しくて......この人となら一緒にいていいかもなぁって思ったのよ」
話している最中にだんだんと穏やかな笑みに変わっていくエレナの表情に、普段の二人からは感じられない夫婦らしい一面が垣間見えてハンスは少し驚いた。
「まあ、今でこそお互い文句ばかり言い合ってるけどね。なんだかすごく懐かしいわぁ」
エレナが話し終えたと同時に、店の扉が開かれ、かずさが入ってきた。
入ってきたかずさは二人に尋ねる。
「只今戻りましたー。あれ、二人で何話してたんですか」
きょとんとした顔をエレナとハンスに向けるかずさ。
エレナは目の前のハンスに小さく耳打ちする。
「アンタも頑張りなさいね」
「はっ?!」
何の事かと、エレナを見たハンスだったがエレナは手を叩いて声を出す。
「さあ、夜営業の準備を始めましょうか。さあ動いた動いた」
何か言いたげなハンスをよそに、エレナはハンス達を仕事へと促した。
う~ん、話の進みが遅い?もっとテンポ上げて行かなきゃですね。
次回は日曜か月曜日の投稿予定でしたが、毎度のことながらすみません、火曜の朝7時半に投稿いたします。ただいま仕事とプライベートに忙殺されており、、毎度延期して申し訳ないです。よろしくお願いします。




