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消せない思い出をキミに  作者: 日向千秋
第三章 コンテスト編
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パン屋のポーラと画家のリュシアン③

毎度投稿予定を延期してすみませんっ。

 きっぱりと結婚の申し込みを断られたリュシアンと呼ばれた青年は天井を仰ぐ。


「あぁ~今日もダメか~っ。いつになったら許してくれますかね?」

「ふふ、永遠に承諾の返事は無いと思っていただいて良いですよ?」

 ポーラは笑顔を崩さずに答える。

「く......では......ライ麦パンを一つください......」

 リュシアンは花を持っていない方の左手をスラックスのポケットに突っ込むと、パンを包むための布をショーケースの上に置いて広げた。


 ポーラは広げられたその布をさらに綺麗に広げながら言う。

「ふふ、最初からパンだけを買いに来てください。それにお花たちも可愛そうでしょう。意味のないことに毎日もがれて」

 本人はかなり真剣であろうプロポーズを”無駄なこと”と言い切ったポーラに、聞いていたハンスも同情する。

 しかし、”毎日”というワードにも引っ掛かった。まさか文字通り毎日プロポーズしているのだろうか。


「......でも、ポーラさんは毎日飾ってくれるでしょ」

 リュシアンは窓際にある、ガラス瓶に生けられたバラを見る。


 ポーラはショーケースから小さなライ麦パンを取って布の上に置くと淡々と言う。

「花に罪はありませんから。でも、もう持ってこないで下さいね、本当に、本当に不要ですから」

 二回も念を押して言うポーラの声音には圧がある。

「わかりました......花はもう辞めときます......が、今度は私の絵を持ってきますっ」

 そう言って一瞬諦めたかのように見えたリュシアンは、全くめげずに次の贈り物を宣言する。

 これはだめだ、とポーラがやれやれと首を振る。


 そしてリュシアンはにっこりしたポーラへの笑みをそのままハンスに向けると笑顔を崩し、一気に(すご)んできた。

 

「で、何見てんだガキ。お前もポーラさん目当てかぁ?」

 その瞬間、ポーラがリュシアンの頭を叩く。

「こら、ハンスちゃんに失礼でしょ」

 あた、と声をあげたリュシアンはポーラに聞く。

「知り合いですか」

「そうよぉ~小さい頃はお世話もしてたんだからぁ」


 ハンスは名乗りもせず、他人をずっと見るのも失礼だったかと思い、自ら自己紹介をする。

「すみません。名乗り遅れました、オレは教会横の大衆食堂で働いているハンスと言います。ポーラさんには小さいころからお世話になっていて、()()()昔からの知り合いです。」

 その自己紹介を聞いたリュシアンはとたんに表情を変え、ハンスに笑いながら言う。

「なんだそうだったのか。悪いな、ハンスちゃん。ポーラさんに言い寄る輩が多くて、ついつい野郎には警戒してしまう」

「いえ......」

 答えつつ、さすがに引っ掛かった点を尋ねる。

「あの......ハンスちゃんって......。ポーラさんが呼ぶならまだ良いんですが、男性から呼ばれるのはちょっと......」

 幼いころから知っているポーラからちゃん付けされるのはいいが、会って間もない男から呼ばれるのは気が引ける。

「良いじゃないか~少しでもポーラさんに近づきたいんだよ~毎日毎日フラれて私も傷つかないわけじゃないんだよ」

「いや、そんな事言われても......って本当に毎日こうしてプロポーズしてるんですか?!」

 ロビンも初対面でかずさにプロポーズしていたが、毎日フラれてもやり続けるのとはまた違う度胸がいるだろう。

 自分は未だにロビンや今日会ったファビアンのように自分の思いを口に出したり、行動する決心が着かない。しかし、リュシアンはいくら断られてもめげずに毎日言いに行くという。その胆力には恐れ入る。


 ポーラは顔に手を当てながらため息を吐く。

「かれこれ一年くらいかしらぁ......毎日言われ続ける身にもなってほしいわぁ......」

「はは、申し訳ない。じゃあ、今日のバラも受け取ってくだい」

「はいはい」

 呆れながらポーラは差し出されたバラの花を受け取った。


 受け取ったポーラを見ながら笑顔を作ったリュシアンは言う。

「ありがとうございます。じゃあ、また明日」

「明日もなのね......」

 リュシアンはパンを受け取って元気に店を出て行った。


 残されたハンスは自分も出るか、とポーラを見るとポーラは何やら困った表情をしながら受け取ったバラの花をくるくると回している。


「本当にもういらないのにねぇ......」


 小さくつぶやいたポーラにハンスは尋ねる。

「悪い人ではなさそうですよ」

 その答えに困り顔のまま笑ってポーラは答える。

「だから困るのよ」

 

「そう......ですか」

 ポーラのトロックナーの気持ちを知った今では、この表情の意味が何となく分かった気がした。

「あんまり思いつめないでくださいね。じゃあ、また」

 ハンスはそういうと店を出て行った。

「は~い~ありがとうねぇ~。......ハンスちゃんも言うようになったわね」

 ハンスが去った後に一人苦笑するポーラだった。


 

次回は土曜日の投稿予定です。引っ越しで設定色々書いたネタ帳どっかいった......鋭意捜索中です、たぶんあるどこかに。

引き続き、よろしくお願いします。

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