表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/90

不思議な少年②

 

 昼の開店時間を迎えた大衆食堂『レッカーハウス』には開店後まもなくして次々と客が入ってきた。

 学生客を中心に店内はたちまち満席になる。

「こっちに注文頼むよ〜」

「はーい、ただいま!」

 かずさは以前着た事がある薄い水色を基調にしたスカートの伝統衣装と白いニーソックスにハイヒール靴を身に纏っている。スカートもかずさの苦手なゆるふわミニスカートだが、最近は着物を着る事を楽しみに我慢することにした。

 可愛らしいスカートを翻し、忙しく店内を駆け回る。

 季節が進み気温も下がってきたのもあり、今日からテラス席は閉めることとなった。流石に寒空の下、客を座らせるわけにはいかない。

 テラス席が無くなったことで客席は減り、以前ほど客の受け入れができない。気を遣ってか客達も食事を済ませるとすぐに店を出てくれるが、次から次に押し寄せる新たな客の波に、休み明けの店の一同はてんてこまいだ。

「こっちにビール頼むよ!あと白ソーセージ!」

「かしこまりましたー!」

 別の席に品を運びながら、かずさは注文を受ける。接客にもだいぶ慣れてきたかずさは、忙しいながらも楽しんで働いている。



 午後二時。

 怒涛の昼営業を終え、最後の客が帰ると皆ホッと一息ついた。

「ありがたいことに今日もすごい客入りだったわね……」

 エレナが客席のソファーに座りながら言った。

 レッカーもタバコを吸いに店の外へと出る中、ハンスはキッチンに立ったままエレナの方を見て尋ねる。

「今日の分の賄い、新しく作っても良いですか。客が全部食べて行ってしまったので......」

 ハンスの問いにエレナはテーブルに突っ伏して答える。

「ええ、お願いね。材料はそこにあるものなんでも使って良いから」

 ハンスはキッチンの上に出ている食材を見て確認する。

「エレナさんは何かリクエストありますか」

「え〜私は何でも良いわぁ。かずさちゃんは?」

 テーブルを拭いていたかずさはその質問に手を止めて腕を組むと考える。

「う〜ん……最近寒くなってきたし何か温かいものが良いかな……。あ、前にお客さんが食べてた白くて、野菜がたくさん入ったあったかいスープみたいなのが良い!」

 ハンスに向けて具体的なのか抽象的なのかわからない要求をするかずさに、ハンスは笑って答える。

「わかった。シチューだな。煮込むまで少し時間かかるけど……」

 その言葉にエレナは答える。

「全く問題ないわよ。買い出しはそんなにないし…..あ、それこそミルクと小麦粉だけヘルケさんのところにお使い頼めるかしら」

 かずさは最後のテーブルを拭き終えると、答える。

「じゃあ賄いできるまでの間に私が行ってきますね」

「ありがとう、かずさちゃん。私は昼の分の売り上げ計算しようかね」

 そう言って背伸びをするエレナ。

 既に具材を切り始めたハンスもキッチンからかずさに言う。

「頼むな」

「うん」

 かずさは頷くと奥の部屋へ行き、店の財布と籠、小麦粉用の袋を持ってショールを羽織ると扉を開けて外へ出た。

 「レッカーさん、お使い行ってきます」

 かずさは店の壁に寄りかかりながら煙草をくゆらせていたレッカーにも一言言う。

「おう、頼んだぞ」

 レッカーはニカッとした笑顔をかずさに返した。



 

  かずさは広場を通り、商店街の道へと出る。五分ほど歩くと、馴染みの店『ヘルケ商店』が見えてきた。

 すると、鈴の音を鳴らして中から二人組の男性が店から出てきた。

 一人は茶髪にヘーゼル色の目を持つ、たくましい身体つきをした高身長の青年だ。ハンスと似たウール生地のシャツとズボンをはいた庶民風の恰好をしている。

 がたいもよく筋肉質だが、むさ苦しさなど全くなく、寧ろ整った顔立ちは青年にさわやかな印象を与える。まさに美丈夫という言葉が似合う青年だ。



 もう一人は対照的に繊細な印象を抱かせる華奢な身体つきをした少年だ。長い艶やかな金髪を肩に流し、空色の瞳をした少年の顔はまるで絵画から出てきたかのような完璧な美しさを持っている。

 輝く金髪を白いリボンでくくっている少年は以前広場で話した事のあるかずさの知った顔だった。

「フリッツ君?」

 かずさは思わず声をかけてしまう。その声にフリッツは空色の瞳を瞬かせてかずさを見る。

「かずさ君?」

 二人が顔見知りの様子にまた茶髪の青年も驚いたようにフリッツに尋ねる。

「知り合いか?」

 その言葉に、フリッツは振り返って答える。

「ああ、ちょっとした顔見知りでね」

 再びかずさの方を向くとフリッツは続けて話す。

「この間会ったばかりだけれど、最近はどうだい?ここでの生活は楽しめているかな?」

 唐突な質問にかずさは不思議に思いつつも答える。

「はい、楽しく過ごしてます」

 そう答えるとフリッツは女神のように優しく、嬉しそうにほほ笑む。

「それは良かった。また今度会ったらゆっくり話そう。良い一日を」

 そう言ってフリッツは広場の方へと歩いて行く。

 茶髪の青年も一度かずさに頭を下げると少年に続いて去っていった。



 やっぱり不思議な人だな、と頭を軽く傾げたかずさはヘルケの店へと入って行った。




このフリッツともう一人にはモデルがいるのですが......それは後々お話することにしましょう。

さて次話にうるさい奴が、くる......!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ