いつもの日常
翌朝。
既に日は昇り、家の外からは鳥のさえずりが聞こえてくる。
窓辺からさす朝日と鳥の声でハンスは目覚めた。
しばらくベッドの上でボーッと横になるハンスだったが、今日からまた仕事があることを思い出し、いつもより遅い時間に起きてしまったと慌てて起き上がる。
――が、急な頭痛がハンスを襲う。
「っつ......」
そういえば昨日の夜から記憶がない。どうやって帰ったのかも、なぜベッドに横になっているのかもわからない。
――まさか......酒に酔って記憶がとんだ?!
途端にハンスの顔が青ざめた。
自分が覚えているところまで記憶をたどる。
――確か、三杯目を勧められて、ミートパイと一緒に飲んでて、それで......。
しかしそれ以降が思い出せない。
自分が酒に強い方だとは思っていない。しかし、ワイングラス二杯分で記憶を飛ばすほど弱くもないはずだ。
ハンスは頭を抱える。
自分の記憶が三杯目からないということはそういうことなのだろう。
とすると昨日はかずさが家まで運んでくれたのだと推測できる。
自分が想いを寄せる少女に酔っぱらい醜態を晒したかもしれないと思うと急に恥ずかしさが脳裏を支配する。と同時に別の不安が過ぎる。
――まさか酔った勢いで変なこと言ってないないよな?!
もし自分の気持ちを暴露してしまったのなら、かずさに合わせる顔がない。
ハンスはベッドの上で軽くパニックになりかける。
ぐるぐると一人思い悩んでいるとかずさの部屋の扉が開いた。
エレナからもらった薄い桃色の伝統衣装に着替えたかずさがあくびをしながら部屋から出てきた。
「おはよう。ハンス今起きたんだね。昨日はだいぶ酔ってたけど体調大丈夫?」
いつもと調子の変わらない様子のかずさにほっとしつつも、醜態をさらしてしまったと思い込むハンスは落ち込みながら挨拶を返す。
「......おはよう......昨日は迷惑かけた.....よな。ごめんな」
何故か落ち込んだ様子のハンスにかずさは笑って答える。
「なんか落ち込んでる?謝らなくていいよ。全然大した事じゃなかったし。ハンスは普段私を助けてくれてるし、お互い様だよ」
かずさはキッチンにある水桶を持って玄関のドアノブに手をかける。
「じゃあ、水汲んでくるね。ハンスはゆっくりしてて」
そう言うとかずさは井戸へ水を汲みに外へと出て行った。
つくづく不甲斐ない、と思いつつハンスはかずさが戻ってくる前に着替えておこうと、痛む頭にうんざりしながらベッドから立ち上がった。
「おはようございます!」
「......おはようございます......」
二人は朝の挨拶をしながら仕事場である食堂へと入った。
店に入るとカウンター席に座っていたレッカーとエレナが二人を迎える。
毎日間顔を合わせなかっただけなのに、それまで毎日顔を合わせていたせいか二人の顔が少し懐かしく感じる。
「二人ともおはよう」
「おはよう、良く休めたか......って感じじゃねーなハンス」
ハンスの顔色が悪いことに気づいたレッカーは苦笑いをする。
「ちょっと、いろいろありまして......そろそろマシになるとは思います」
家で薬を飲んできたため、もうそろそろ効力が効き始めるだろう。
「まあ、無理はするなよ。悪くなったらすぐに言え。どうしても辛かったら家に帰っていいから」
「ありがとうございます......でも大丈夫です」
ハンスはそう言うとヨロヨロと荷物を置きに奥の部屋へと入って行った。
ハンスが消えた後に店主二人が何があったのかとかずさの方を向く。
かずさは頭を掻きながら言う。
「昨日友人たちと食事をしたんですけど、その時お酒を飲んで酔っぱらってしまって......」
あぁ、と納得したように頷いた二人は笑う。
「ふふ、そうだったのね。ロビン以外にお酒飲むくらいに仲のいい友人ができたのね」
「あいつは真面目過ぎるからたまにはそういう経験も必要だな」
二人は呆れるというより、むしろ嬉しそうだ。
ちょうどハンスが奥の部屋から出てきた。
笑ってハンスを見つめる面々に半目でハンスは言う。
「何笑ってるんですか......」
その言葉に三人は顔を見合わせた後に答える。
「何もないよ」
「そう、何もないのよ」
「気にするな」
ハンスはその答えを聞いてますます疑わしい気な視線をむけるのだった。
二日酔いってやつだな。
さて次話からいろいろと三章のお話が進んでいきます。よろしくお願いします。




