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消せない思い出をキミに  作者: 日向千秋
第三章 コンテスト編
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五日後の約束



 ヘルケの店に入ったかずさはカウンターに近づくと椅子に腰かけていたヘルケに尋ねる。

「こんにちは、ヘルケさん。さっき綺麗な男の子と強そうな男の人がいましたけど、この街の人なんですか」

 ヘルケはグラスコードが着いた色付き眼鏡を動かし、かずさを見返すと笑った。

「ああ。この街の(もん)さ。うちの常連さん。で、今日は何の用だい」

 ヘルケの質問にかずさは当初の目的を思い出し、籠から出した小麦粉用の袋を取り出す。

「小麦粉とミルクをお願いします」

「はいよ。小麦粉はいつもの量でいいね?」

「はい」

 かずさが答えるとヘルケは袋を受け取って店の奥へと消えて行った。





 時刻(とき)は少し巻き戻り、かずさが丁度フリッツを見つけた頃ーー。

 食堂で賄い用のシチューを作るハンスは材料を鍋の中に入れて煮込んでいた。

 後は待つだけ、とハンスはキッチンを軽く片付ける。



「おう!~~.......」

 ハンスが食器を洗っていると、外でレッカーが誰かと親し気に話す声が聞こえ、程なくして店の扉が開いた。

「おーいハンス。客だぞ~」

 扉を開けたレッカーの後ろから見覚えのある茶髪の少年が顔を出す。ハンスと一緒に入り口を見たエレナも少し驚いた様子で言う。

「あら、ロビンじゃないか。営業中でもないのにどうしたんだい」

 エレナの問いに、ロビンはレッカーの前に出るとハンスをちらりと見てから言う。

「ちょっとハンス借りてってもええですか」

 

 急な申し出にエレナはきょとんとした顔をする。

「構わないけど......」


 承諾を得たロビンはハンスに視線を向け顎で合図する。

「ちょっと面かしてや」

 そう言ってロビンは先に外へ出て行ってしまった。

 

 ハンスは何事かと手早く手を洗い、キッチンから出るとエレナに一言言う。

「すみません、ちょっと行ってきます。鍋見といてくれますか」

「いいわよ~。行ってらっしゃい」

 エレナはハンスを見送ると一人ニヤついて呟く。

「なんだか嵐の予感ね」





 ロビンは外へ出て店の目の前にある教会の裏手に回り、少し歩いたところで立ち止まった。店の死角になっているこの場所は今は日陰になっていて薄暗い。

 

 慌てて追いかけたハンスもロビンの後ろで立ち止まる。

「おい、何なんだ急に」

 

 ロビンは振り返ってそのブラウンの眼光をまっすぐにハンスに向ける。


「お前、かずさちゃんの事......本気なんやな」

 急に何の話だ、と一瞬反発心を持ったハンスだったがロビンの真剣な眼差しに気づくと、茶化さずに答えるべきと判断した。


「……ああ。オレもアイツの事が......す、好きだ」

 ハンス自ら直接的な言葉を使うとは思わなかったのか、少し目を見開いたロビンも言葉を返す。

「オレもかずさちゃんの事がホンッッマに好きや。......だから、オレは今度告白しよう思てる」

「は?!」


 突然の告白宣言に思わず声を上げたハンスだが、なるべく冷静に会話すべく動揺を隠す。

「まぁお前、初めて会った時にプロポーズしてたけどな......」

「あん時は思わず言うてしもうたんや!今はあん時よりももっともっと本気や!」


 尚もしっかりとハンスの目を見つめるロビンは話を続ける。

「五日後、コルツの街で若手の木工職人見習いを対象にしたコンテストが開かれるんや。そこで一番になると、デザインや技術を評価されて国中(くにじゅう)の有名な工房から声がかかるんや。そこで、一番になったら自信を持って告白できる......せやからそのコンテストで一番になったら告白するっ!!」

 ロビンは話している間、一度も目を逸らさない。それだけ本気だということがハンスにも伝わった。

 

 だが何故それを自分に言うのかがハンスにはわからない。確かにハンスもかずさに想いを寄せているが、告白するかしまいがロビンの自由だ。


「で、オレにどうしろと。応援なんかしないぞ」

 その発言に一気に眉間に皺を寄せるロビン。

「アホか、誰が言うかそんな事。お前には当日かずさちゃんをコンテストにつれてきてほしいんや。オレの覚悟を見てもらうために」


 ロビンの勝手な要求にハンスの口が開く。

 そんな要求は到底受け入れられるはずもない。


「はあ?なんでオレがそんな事ーー」

「ああぁ~ハンスはええなぁ~四六時中かずさちゃんと一緒に居れるもんなぁ~。別の男のカッコいい所とか見せたらそりゃ心配になるか~。何せ自分は気持ち伝えられへんもんなぁ~」

 

 わざとらしく挑発してくる幼馴染に頭ではわざとだとわかっていても、ハンスの内心は苛立つ。


「そんなに言うならわかった......だが、一位になれなければあきらめるんだな?」

 ハンスの言葉にロビンもそれは違うと突っかかる。

「あきらめるとは言うてへんやろが!その時に告白せーへんだけや」

「じゃあ、オレに連れて行くメリットはないだろ?!」

「あるわ!幼馴染の親友の応援や!あと大恩人への恩返しや!!」


 くっ、自分で大恩人とかぬかしやがる、とハンスは内心毒を吐いたが、以前の妹の件もある。食堂の食事を三回分おごるだけではつり合いは取れない、とは自分でも思っていた。そこを突かれると痛い。

 ハンスは嫌々ながらもロビンの願いを聞き入れる。


「話はわかった.....が、休みが取れるかはわからないからな。取れなかったらあきらめろよ」

 ロビンは潔く頷く。

「ああ、それでええ。お前も無理やりかずさちゃん襲うような事するなよ。まあ、そんな度胸も無いやろうけど」

「するわけ無いだろバカ」

 と言い返しつつ、どんな男もかずさには物理的に手出しできないだろうな、とハンスは思う。



 話を終えた二人は食堂の前へと戻ってきた。

「じゃあな」

 ハンスが扉を開けて店に入ろうとすると、ロビンも何故か店の中へと入って来た。

 店内には煙草を吸い終えたレッカーが鍋のシチューを混ぜ、エレナもまだ客席のソファーで帳簿とにらみ合っている。


 ロビンは二人に向けて言う。

「五日後ハンスとかずさちゃん休みもろてもええですか~?三人で遊びに行くので」

「おい、ちょ、何言ってんだ」

 ロビンの言葉に二人は顔を見合わせるとお互い頷き合った。そしてエレナが答える。

「いいわよ~。楽しんできな」

 笑顔で返すエレナにロビンはガッツポーズして喜ぶ。

 ロビンの軽いお願いがこんなにすぐに通るとは予想していしなかったハンスは扉に寄りかかりながら項垂れた。




さて、ここまで読んだ方にはもう言っていいかなと思います。ハンス達がいるゾンダーベルクはドイツに実在する街「ハイデルベルク」をモデルにしています。グーグル散歩してみると面白いかもしれません。


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