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子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
臨炎の死活火山
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16話 水面の果実

来週も毎日投稿になりそうです。8月までに25話まで行けたらいいなぐらいで。23日と24日とで頑張って3話上げますんでご容赦ください

ナルバレックの襲来から数日、それ以降は本当に何もなく俺は復興作業に従事していた。あれ以降うやむやになっていた親衛隊の護衛の件もしっかりと決まり、どこに行くにもローランドかアルバートさんのどちらかが随伴することになった。

それがうっとうしいとは思はないけど、彼らにも当然仕事や私生活があり、それを削ってまでも自分のことを優先しようとは思えなかった。

そして今日はアルバートさんが護衛についてくれており、彼の仕事場ともいえる自宅で本を読んでいた。


「すみません、わざわざ私に付き合ってもらって。本来なら私からうかがうはずなのに」


「いえいえ、俺の方こそ迷惑かけてすみません。ここは面白い本がたくさんありますから、充分楽しいですよ」


アルバートさんの家は新築とは思えないほど本が充実していた。すでに復興も大部分が進み、急造のアパートのような建物に住んでいた人たちも自らの家を持ち、マルセレスにも活気が戻ってきていた。

湯治街ということもあり、温泉の復興にもだいぶ力が入っていて、そこかしこから湯気が立ち上っている。


机に向かっているアルバートさんはとてもまじめに見えて、何やら魔術の研究をしているようだった。俺はそっち方面は明るくない。こういうことは雪の方が詳しいだろう。幾何学的な術式はどれも見たことがなく、戦闘で使われる簡素的な術式ではなく、細部まで緻密に練られていた。ある種芸術のようなそれは見ているだけで楽しかった。


「研究の邪魔になりませんか?」


「え?いえいえ!そんなこと。どのみち行き詰っていたところなんです。私の研究はここ数十年進展がありませんから」


「どんな研究って、聞いてもわかんないですよね」


「いえ、そんなことないと思いますよ。言ってしまえば新しい術式の創出で、食料を作り出す魔術を開発しているんです」


そう聞くと意外と簡単そうに思える。けどアルバートさんが頭をひねっているところを見ると難しい魔術なのだろう。


「でも龍の中には果実を生やしたりしている木龍もいますよね」


「ええ、そうですね。物は試しですから食べてみますか?『マンチネッラ』」


そう言って彼は術式に魔力を流し行使する。出てきたのはリンゴのような形をした緑色の果実だった。アルバートさんが渡してくれたので食べてみる。瑞々しく香りもいい、シャリっとした触感で、味が、


「………………酷い味ですね」


「でしょう?そのうえ魔力を多分に含んでいる。あ、アモウ君は大丈夫ですよ。子龍なので影響はありません。ただやはり一般に流通させようとなるとこれを解決しないといけません」


「魔力抜きをしてもだめそうですか?」


「ええ、その果実自体が魔力で構成されていますから無駄なんです。この魔術は正確には果実をつくる魔術ではなく、果実を模倣する魔術なんですよ」


ドライフルーツとかならとも思ったが魔力そのもので構築されたものなら魔力抜きをしても無駄か。それにしても酷い味だ、口の中がイガイガする。アルバートさんに水を貰い口をゆすいでもわずかにまだ後味は残っていた。


「意外かもしれませんが木属性の魔術は基本5属性の中で最も食料栽培に向いていないんです。火属性は栽培場の保温に使えますから年中暖かい地域の野菜や果物を栽培できます。水属性はその逆、空気を冷やし冷たい地域の食物を栽培できますし、水の生成も可能です。風属性は種まきや空気の循環、土属性は土壌を耕筰や水路の建設など。しかし木属性はというと、せいぜいが添木程度の役割しかこなせません」


「確かに意外ですね」


「でしょう、特にしばらくは食糧難が続きます。どうにかならないかと思い研究を再開したのですが、やはり上手くいきませんね」


「ゼーブデイトからの作物は期待できませんか」


「しばらくはどうにもなりそうにないですね。リヴィングスは東部と西部に農地が固まっているんですが、西部はご存じの通り、東部もけして復興が進んでいるとは言えません。今年の乾期は厳しくなりそうです」


リヴィングスは岩月の終わりから乾期に入るそうだ。日本人としては馴染みのないものだけど、しばらく雨が降らないとなると作物の成長も期待できない。それこそ魔術で同行するしかないのだろうが、それも限界がある。自然の水量を人力で再現するのにはやはり大きな壁がありそうだ。


「せっかくなら雪も連れてくればよかったですね」


「ふふ、そうでね。彼女は驚く速度で魔術を習得していますから教える側としても見てて楽しいですよ。アモウ君もどうです?魔術は何も実践だけじゃないですよ、理論だけでも学んでおきませんか?」


「機会があればぜひ、勉強は嫌いじゃないですよ」


ドンっと音がする。目の前にはいつの間にか現れた魔術の教材であろうと本。そしてアルバートさんは俺が座っている前に椅子を持ってきて座り、にっこりとした笑顔を浮かべていた。

顔は確かに笑顔だけど目が、目が笑ってない。親衛隊は何か一芸もってないといけないのか、マリアさんといいフランといい。


「そうですかそうですか!ではまずこの魔術理論入門書から始めましょう」


「ええぇ…………」


「この本のすごいところはですね、初代龍教会教皇ヨハン・コーバック直筆なんですよ。9000年以上前の本でありながら現在に至るまで間違った記載が見つかっていないんです」


「確か『龍世界』の著者でしたよね」


夢の中のユーダニアで読んだ本の中に確かその名があった。他の寓話のような脚色されたほんと違い、分かりやすくまとめられており読みやすかった。


「ああ、あの本を呼んだことがあるのですね。龍を知るにはまずはあの本を読まなければ始まりませんから」


「すごい人なんですか?そのヨハンって人は」


「ええ、それはもう。子龍としてだけではなく、純粋に魔術への造詣が抜きん出ていました。現代まで彼を超える天才は現れてないほどです」


子龍なのか、それだけ昔の人なら確かに子龍であっても不思議じゃないな。龍教会ならゲースティルにいたんだろうか、けど今は確か別の人が教皇のはず、一線を退いたのか、それとも。


「ある意味私たちの壁なのですよ。彼の業績を超えることを目標にする研究者も多い、もちろん私もその1人です」


「どうです、超えられそうですか?」


アルバートさんは微笑むだけ。自分の限界を知るのは大事な事ではあるのだろうけれど、同時に空しくもある。それがまだ成長途中ならともかく、だ。


「時間だけはあるのですがね。それでも彼の足元にたどり着くことすらできそうにない。私が軍人になったのは妻の為でもあるのですが、もしかしたら逃げる口実にしただけかもしれません」


届かないと知りながら手を伸ばす行為をきっと俺は否定しないといけない。俺があいつの反証で、その在り方を忌避するように。でもその道中で成したことは認めないといけない。あいつは確かに誰かを救っているんだ、それがエゴだと知りながら。


「眩しすぎる光は人を狂わせます。追い縋るよりも、距離を置いたほうが良い」


「アモウ君の言う通りかもしれませんね。けれどやはり学問というのは先を目指すものですよ。たとえその全ての結果が保証されていないとしても。でなければ我々は皆停滞してしまいます」


停滞は許されない。もう進んでしまった以上、後戻りは許されない。その進化の礎となった数多の犠牲に報いるために、人は生き残らなければならない。だから俺は誰かを助けるために星を追わないし、アルバートさんは人を進ませるために星を追う。


「さて、いい頃合いですし夕飯は食べていきませんか?フランソワさんが作ってくれていると思いますから」


「迷惑じゃなければ、ぜひ」


「迷惑なんかじゃありませんよ。アモウさん、うちの人が迷惑かけませんでしたか?」


書斎の入口に藍色の髪をした美人な女性が立っていた。アルバートさんの奥さんフランソワさんだ。普段着にエプロンと新妻感がある人だがすでに2児の母親だというのだから恐ろしい。


「いえ、色々聞けて良かったですよ」


「そうですか?それならよかった。ほらあなた、色々手伝ってください」


アルバートさんは背中を押され部屋を出て行く。俺も手伝おうと思い後を追うとリビングの方から元気な声が聞こえてきた。


「アモウさんは子供たちの相手をお願いできますか?まだやんちゃ盛りで大変かもしれませんが」


「小さい子の面倒を見るのは得意ですよ」


「カレンにソーヤは私や彼女に似ず活発ですからね。噂に聞くアモウ君に会いたがっていましたよ」


それは大変そうだ。家に来るときは見かけなかったが外に遊びにでも行っていたのだろうか。確かにアルバートさん達の子供は何となく物静かな印象があったけどそうではないみたいだ。

リビングには空色の髪をした女の子と緑とも青とも見れる変わった髪色の男の子とがいた。


「あ!お兄ちゃんが子龍!ねえそうなんでしょ」


「馬鹿カレン!子龍様にそんな口聞いていいわけないだろ」


「いやいやいいよ。下手に畏まれるよりずっといい。ソーヤ君も別に気を使わなくていいから」


カレンちゃんの方がソーヤ君に向かってふふんと自慢げにしており、それを見てソーヤ君は悔しそうだ。活発な、とは言っていたけど、2人とも顔立ちは両親に似ている。2人とも目や鼻はフランソワさん似だけど、全体的な面立ちはアルバートさんさんに似ている気がする。


「じゃあアモウお兄さんって呼んでいい?」


「もちろん、さて夕飯まで何をしようか」


「水属性魔術における第一基幹術式の刻印速度の問題について話そうよ!」

「混合属性魔術における魔力比重の重要性について議論しよう」


「………………」


少なくとも彼らはアルバートさんの子供みたいだ。活発って魔術について語るアルバートさんの状態が平常時にもそうなってるだけじゃないか。俺が考えていた活発なことはだいぶかけ離れている。いや悪いなんて言うつもりはないけど、お兄さんその話には付いていけない。


「はぁ、第一基幹術式の刻印なんてみんな殆ど省略してるだろ。今更そこだけ速くなってどうにもならないだろ」


「何よ、今の魔術師はそこがおろそかになってる人が多いんだから。それに混合属性なんて威力と規模がしょぼいじゃない。あんな器用貧乏な魔術使うぐらいなら、それぞれの属性の大規模魔術を使う方がいいに決まってる!」


「器用貧乏?いいや違うね。第三典礼術式を併用した術式なら充分な威力が出る。それに、第一基幹術式もまともに刻印できない人なんか魔術師って呼べるかよ」


「それは同意するわ。けど、典礼術式なんて面倒な術式挟むなんて結果だけしか見てない人のする事でしょ。その魔術を刻印するまでの時間は?まさか大規模魔術でもない魔術に1分もかけるわけ?」


「うぐっ…………いや発動速度が遅いのはまだ典礼術式の研究が進んでないからだ。これから先僕が研究して実戦的な術式にしてみせる」


子供の喧嘩、喧嘩なのか?いや議論が白熱しているだけにも見える。止めようにも留めるだけの知識が俺にはない。くそう、雪がいてくれれば、いやそれ以上にもう少し魔術について学んでおけば。

子供の世話が得意だなんて言ったことを訂正したい。2人の議論は収まることなく、続いている。


「助けてくれ、雪」


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