13話 休日
投稿遅れてすみません。今週はなるべく毎日投稿します。なるべく。
「それで2人してこんなに早く帰って来たんですか」
普段よりだいぶ早く家に帰ってきた俺たちは早く帰ってきた理由をレティに尋ねられたので、ダースニック王の件のあらましを簡単に説明する。
ダースニック王には他の奴に言うなと言われているので、ところどころぼかしてはいる。ダースニック王の覚悟も献身も理解はしているつもりだ。炎龍討伐において犠牲が出ないなんて思ってもいないし、それを背負う覚悟もある。だが同時に誰も死なないで済む都合のいい未来を想像してしまう。そんなものに届きはしないくせに。
そのうえ、フィオレの件もある。正直今どういう顔をしてあの親子に会えばいいかわからない。どうしてこう親子そろって俺の情緒を揺さぶるのだろう。渦中の中心にいるのは分かっているつもりだが、それでも考えることが多すぎる。
「とりあえず、ご飯にしよっか。考えてもしょうがないことは、またいつか悩めばいいし」
「そうする。あ、そうだ。今日は俺が雪の手伝いをするから、レティは休んでていいぞ」
ヴォルフに飯を作る約束をしているから、ある程度形になる料理を覚えなければいけない。とりあえず、もろもろを放棄して料理に没頭しておくことにする。
「そうですか?ならお言葉に甘えて。楽しみですね、アモウの料理は」
「あくまで手伝いだから」
「レティが楽しみにしているなら、天羽君にもなにか一品作ってもらおうかな~」
勘弁してほしい、レティに渋い顔はさせられない。手作り料理は断固として拒否し、雪の料理を手伝う。前はもっぱら春香さんの料理を雪が手伝っていたけれど、今じゃもう立派に1人でもキッチンに立って料理を作っている。きっとこの光景を春香さんが見たら感涙してしまうのだろう。
「じゃあまず龍の肉の魔力抜きをお願いしていい」
「そんぐらいならできる。任せてくれ」
適当なボールに水を張り、その中に龍肉をその中に入れる。その後に水に若干の魔力を通す。原理は分からないがこれで龍肉の中にある魔力が抜けるらしい。魔力を持つ材料はこういう魔力抜きという工程を挟まない限り、食用には向かない。なんでも人体に外から魔力を摂取すると障るからだとか。後は適当に10分くらい放置すれば問題ない。
「終わったぞ、他することあるか?」
雪に指示を仰ぐとすでに彼女は一品作り終えていた。流石の手際だ、最近は近くで見る事もなくただ待つことが多かったからこういう機会は珍しい。
別に手伝ってないわけじゃない、ただ俺が手伝うと余計な手間が増えるだけだ。配膳とかはやってる。
「じゃあ一緒に肉じゃがもどきをつくろ」
「いちいちもどきってつける理由ないだろ」
納得がいっていないのか、元の世界の料理を再現するときに雪はもどきと付けたがる。そりゃ味とかは完全再現とまではいかないが、それでも充分おいしい。この国の料理は比較的味の濃いものが多く、普段食べるには重いことも多い。
「いいの、私の気分の問題だから。それじゃあ荒野ねぎをくし切りにしといて」
「了解、ああ、目が染みる」
玉ねぎと白ねぎの中間のような荒野ねぎは切ると涙が出てくる。止めどなく溢れる涙をこらえ、何とかねぎを切り終える。やはりというか形が歪になってしまう。大きいのがあったり小さいのがあったりと不揃いなものが多い。手先自体は器用なはず何がけど、手と対象との間に何かが挟まるとどうも不器用になってしまう。
「ん~まだまだだね」
「何かコツとかないか?」
「あったらいいんだけどね。料理は結局同じ工程を踏んでも必ずしも同じ味になるわけじゃないし、その場その場に合わせて調整しないとね。だから結局は慣れかな」
コツなんてものがあれば1人暮らしをしてもそこまで苦労はしないか。一朝一夕でどうにかなるほど甘くはない。
「それじゃあ肉が色づくまで炒めてくれる?残りの野菜は私が切っとくから」
「分かった。もう魔力抜きは充分か?」
「肉の色味がだいぶ赤くなってるでしょ。ここまでくればOKだよ」
最初は薄いピンクの色をしていた龍肉が今は赤く生々しい色に戻っている。龍の断面図は嫌というほど見ている。龍核を破壊しない限り死なない彼らは例え首を落としてもその断面が蠢き、いづれは回復する。何ともまあすさまじい生命力だが、こうなってはただの肉だ。
鍋に油をひき、薄切りされた龍肉を炒める。香ばしい匂いが厨房に広がり、食欲を駆り立てる。龍肉はどちらかと言えば豚よりの肉質で、見た目は爬虫類な癖に蛋白じゃない。しっかりとした脂身があり、噛めば噛むほどうまみが広がる。だから優秀な食料ではあるのだが、こうも連日食べていると流石に飽きてくる。
いい色になって来たので雪から渡された野菜を鍋に投入しさらに炒めていく。
「なあ醤油とかってどうしてるんだ?」
「それはねこっちにも魚醬見たいなものはあるらしくってそれで代用してるんだ。でも完全に向こうの魚醤と同じってわけでもないし、再現には程遠いかな」
「味見していいか」
「いいよほら、手出して」
手のひらに魚醬を垂らしてもらい、味見する。確かに醤油と違ってうまみと塩味が強く、若干生臭い。でも醤油に似てないかと言われるとそんなこともない気がする。
「私が使う時は砂糖を多めにして入れてるかな、あと酒を多めに入れたり。それでも本物には程遠いよ」
「…………なるほどな」
「あ、今どうでもいいって思ったでしょ。私の食への努力を蔑ろにするなんてひどい奴だな天羽君は」
「聞いてるって」
ただ鍋から目を離すのが怖くて、聞き流してしまっただけだ。雪のおかげで毎日おいしい料理が食べられるんだ、そこを軽視することはない。
雪の監修の下、料理を仕上げる。調味料を入れるタイミングはあちらが指示してくれているのでこちらは気楽だ。後はもうひと煮立ちすれば完成なので配膳の準備を進めていた。
「いい匂いがするので立ち寄ったら、珍しいですねアモウが料理をしているだなんて」
「ん?ヴォルフ?」
「あれ、ヴォルフ君来てたの?ちょうどよかった今からご飯だからヴォルフ君も食べてく?」
「いいですか、なら頂きますね」
ヴォルフは時折ふらっと現れては腹を満たしていく。だからか最近は雪の作る量が多い、余っても翌日の朝に回せばいいわけだから残ることはない。今日も3人分ではなく4人はしっかり食べれる量があった。
「先にシャワー浴びて来いよ。哨戒任務で汗かいてるだろ」
「そうします。あ、僕の分も残しておいてくださいよ」
「俺はそんなに大食漢じゃないよ」
最近は第2兵団の哨戒任務に付き添っているらしい。未だに龍による被害は確認されていて、付近でも龍の群れが観測されている。街に近づかない限り、その程度の群れは見逃しているらしいが、西部砦から離脱した龍害もいる。後をつけて、大規模な集団じゃないかの確認はしているそうだ。
「大変そうだね、私たちも街の修復が終わったら向こうに合流しないとだね」
「俺は街を更地にしたら向こうだけどな。おまえは魔術で街の建設を手伝うんだろ?」
「うん、地盤だけだけどね。建築みたいな細かな魔術は職人さんしかできないよ」
子龍の魔術はどうしても大きくなりすぎる。出力の下限が大きすぎるのか、簡単な魔術でも規模が大きくなりかねない。そんな話を前に雪から聞いている。確かに俺も他の人よりも魔力を細かに扱うのが苦手だ。
「肉じゃがもどきもいい感じだし、ご飯にしよっか。レティ!配膳手伝って!」
食卓に料理が並んでいる。俺が手伝った肉じゃが以外にも諸々、ここに白米がないのが悔やまれる。米自体はあるんだろうけど精米技術がまだまだなのか、もっぱら飼料用にしか売られていないそうだ。
「ああいい匂いがしますね」
「ヴォルフは座ってていいぞ。疲れてるだろ」
「何もしないのに食べるわけにはいきませんよ。ほら僕にも手伝わせて」
本人の言い分も妥当ではあるので、軽いものをもっていかせる。俺たちからすれば多少の重さなんて誤差でしかないんだろうけれど、気持ちの問題だ。
運び終わり、席について食べ始める。肉じゃがはほろほろとしたジャガイモ(のようなもの)がおいしく箸が進む。ただやはり雪の言う通り、味付けは向こうの肉じゃがと比べたら濃い方だ。
「思ったよりも早くかなってよかったですよ、アモウの料理が食べれるなんて」
「またいつでもとまではいかないけど都合がよければ作るよ。今回は8割がた雪が作ったようなもんだし」
準備から指示に至るまですべて雪がしたんだ。俺なんてただ言われた通りに調理したに過ぎない。
「でしたら是非、僕もおいしい店を知っているので今度紹介しますね」
「もう店が出来たのか。早いな」
俺たちが更地にした箇所に新しく建物を建てているのは現場への行き来で見てはいるんだが、そこでもう商売をしているなんて思いもしなかった。
「私も何か所か行きましたよ。甘いお菓子やアクセサリーなどを取り扱ってる店もありました。今度みんなで行きませんか」
「いいね。リヴィングスのお菓子は本当に甘くておいしいから、何度でも行きたくなるよね」
「次の休みあたりにでも行ければいいな。休みがあるかわかんないけど」
この国の休日は9日に三回。けれど今まではそんなの意識したことがなかったから次の休みが何時かもわかんないし、実際に休めるかもわからない。そんなにぶっらくではないと思いたいけど復興は急務だ。休みを返上してでも作業があるかもしれない。
「あ、ありますよきっと。なんなら私の方からもダースニック陛下に掛け合ってみますから」
「「あるといいなぁ」」
何となくなさそうな気がして俺と雪はそう漏らしてしまった。




