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子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
臨炎の死活火山
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12話 七熾

魔力を込め放出する。魔力を込め放出する。魔力を込め放出する。

けれどそんな単純な作業、何も考える必要がないから余計にこの前のことがチラつく。稽古終わりに温泉に入ったあの日、フィオレに言われたこと。結局あの後彼女を残してそのまま上がってしまった。動揺、していたのだろう。いつもならそれがどういうことなのか聞ける余裕ぐらいあったはずだ。こんな事ならまだ罪悪感に苛まれていた方がましだったかもしれない。

今は瓦礫に満ちた街があった場所を更地にしている。新たに作る街の邪魔になるので一旦破壊し、その後魔術で形作るらしい。流石に罪悪感が湧いてくるが、住んでた人からも笑顔で壊しちゃってください、なんて言われたらそれも薄れてしまう。きっと彼らも失うことになれている。いったい彼らはその長い人生の中でどれだけ家を破壊されたのだろうか。


「はぁ」


「最近考えごと多くない?何か悩みがあるんなら聞くけど」


「いや、いい、大丈夫だ。それよりほら続きやるぞ」


「そんな食い気味に否定しなくても。まあいいけどね、そんなに分かりやすいなら、そんな大した事ではないんだろうし」


大した事ではあるんだよなぁ。ただいまいち現実味が無くて、雲をつかむような話で、考えようもないってだけで。そんなことを考える方がばかばかしいと言われると、ぐうの音も出ないわけで。

ただ実際問題、俺とフィオレが結婚するというのはどういう意味合いを持つのだろうか。一国の王女と子龍、今までの周りの反応からするとつり合ってはいるのだろう。けれど俺はリヴィングスだけにいるわけにはいかない。当然始祖龍を討伐したらゼーブデイトに行くことになる。だから結婚なんてできるはずがないというのに。


「はぁ『アド・アストラ』」


「うわぁ見るからにやる気がない」


街の破壊なんて率先してするようなものじゃないんだからやる気が出ないのもしょうがないだろう。雪の方もようやく大規模魔術が使えるようになったのか、魔術で街を破壊しているが、事情を知らない人がこの光景を見たらどう考えても勘違いしてしまうだろう。

けれど以外にも街の住人からは好評で、見学に来る人すらいる。物珍しさ来る好奇心か何かは知らないけど、危ないだろうに。こちらも細心の注意を払いながら作業を進めないといけない。万が一俺たちの攻撃があたったら大けがじゃ済まないだろう。


「雪はほどほどにしとけよ、この後ダースニック王の所だろ?」


「うへ、そうだった。一昨日一旦でしょ、どんな感じだったの?」


「まあ普通に戦って、悪いところを指摘される感じだったかな。そんな緊張しなくてもよさそうだぞ」


まあ自分の悪い癖をこんこんと詰められるのはなかなか来るものがあるけれど、仕方ない。彼が絶対的に正しいわけでもないけれど、それでも俺たちより多くの戦場を経験して、生き残っている事実は変わりない。


「そもそも私、人に向けて魔術を使うのが苦手なんだけど」


「それはまあ、慣れるようなもんじゃないしな。でも最低限自衛できるぐらいにはなっとかないとだろ?」


「うんん、戦うよ私も。これから先争うのは龍だけじゃないってことぐらい私も分かる。その度に天羽君や他の人に任せるのは嫌だから」


ナルバレックのことは雪にも言ってある。それに彼女は一度アギナルドとも戦っている。その時は防戦一方だったらしいけど、しっかり戦えているのなら問題ないのだろう。


「なら頑張らないとだな」


「どう頑張るかがちっともわからないんだけどね」


「そこは、俺からはなんとも。魔術のことはまったくわからん」


2人そろって苦笑いを浮かべてしまう。ああでも、雪と喋ってたらあのことについて考えずに済んだな。


———


「『ストライクゲイル』!」


「甘えな『バーニングスター』」


雪の右手に刻まれる術式から突風が吹き荒れる。多少は加減されているとはいえ、当たればひとたまりもないそれは、しかしダースニック王には当たらない。爆風により風は霧散し、雪は彼の接近を許してしまう。


「ほらほら、動け!立ち止まって術式を刻むだけが魔術師じゃねえぞ」


「っう、あ、『アクアライド』ぉ」


雪は足元に出現した水流に乗って移動する。戦場を縦横無尽に駆け巡るそれにダースニック王は身体強化のみで追従する。

雪が何か魔術を行使しようとするたびに、ダースニック王は簡単な魔術でそれを阻害していた。雪はまともに術式を刻むこともできないまま、ただダースニック王と追いかけっこをしていた。


「大技ばかり狙うなよ。戦いってのは如何にして相手の隙を突くかだ。龍みたいなのろまな奴と比べたら、すぐ死ぬぞ」


「そんな、こと、言ったって!」


雪も土属性の魔術で牽制し一度距離を取ろうとするも、その程度の魔術ではダースニック王は魔術を使わずに避けてしまう。しかし、避けた先にも雪の魔術が時間差で現れた。


「『アイシクルランス』!」


「やるじゃねえか!『イージスセイバー』」


それすらも対応するダースニック王。赤い炎の剣は主人を守るべく、降りかかる氷の槍を溶解させる。けれど同時に酷い違和感を覚える。何にだろうか、今まで当たり前に思っていたことが突如として切り替わったような、そんな違和感。


「え、王様、炎の色が。あ、うぎゅ…………」


俺と同じように違和感を覚えた雪がそれに気を取られ水流から足を滑らす。そうか、炎の色だ。前までは深海を想起させる深い蒼だったのに、今では太陽のような煌々とした赤色となっている。


「なんだ、今更か。いろいろあって変わったんだよ。気にするようなことでもねえ。ほら続きやるぞ」


「カウレスも変わったんですか?」


ダースニック王が纏う炎、あれはカウレスの炎だ。何度も見てきたから間違いない。カウレスの炎をダースニック王がもっている。それが意味することはわからないが、それでも意味もなくやることではないだろう。


「ああ、そうだな。ま、話しておいた方がいいか。ユキいったん休憩だ」


雪の方へ手を差し出して立たせる。酷い落ち方をしたわけでもないだろうに、腰をさすっている。昔の感覚が未だに残っているのだろう。俺も最初の頃は打ち身や擦り傷をいちいち意識してしまっていた。

3人で屋敷の中に戻り、水分を取る。それなりに長話になりそうなのを覚悟しつつ、俺と雪はダースニック王が話始めるのを待つ。


「お前ら炎龍についてどのくらい知ってる?」


「始祖龍の一角で火龍の大元ってことぐらいしか」


「私も同じです」


俺と雪の炎龍に対する知識はそれほど多くない。ユーダニアの図書館で多少は読んできたが、それでも詳細なことは書かれていなかった。それでもわずかに記されている内容曰く、炎龍は星の火種となる存在だと。


「そんなもんか、まあいい。炎龍はな別名『七熾の公主』なんて呼ばれもするんだ」


「七熾、ですか」


「ああ。赤、青、白、黒、橙、紫、緑、これら赤を除く六色を配下に分け与えているからそんな風に呼ばれてんだ。でもって俺が前まで担っていたのが蒼炎。唯一、人に与えられた炎だ」


つまり、ダースニック王は子龍の直系たる王族というだけではなく炎龍から直接力を与えられた存在なのか。


「なら炎の色が戻ったのはこれから敵対する炎龍の力を切り離して、元の炎に戻ったって言うことですか」


「悪くない考察だが違うな。別にあの龍は俺が蒼炎を持っていたって何とも思わねえよ。だが、俺が今持っているこの炎だけは別だ。この炎は継承の証、直に復活する炎龍の、簡単に言えば生贄みたいなもんだ」


雪が息をのむ音が聞こえる。ダースニック王が灯す炎は蒼炎ではなく紅蓮の炎。何となく察していたことではある。龍車での件もそうだが、それ以上にどことなく死に場所を探しているかのようなそんな印象を抱かせてくる。


「もともと王家は炎龍の心臓が代々受け継がれてきたんだが、今回の龍害でそれを解放してな、俺はもう長くない。だからカウレスの代わりにこの炎を担うことにしたんだ」


「長くないって。いまでも王様は元気じゃないですか」


「そう思うか?これも奇跡みたいなもんだ。本来ならあの戦場で死でたほうが自然なんだが、今もこうしてここにいる。なら未来ある息子をむざむざ死なせるようなことはしねえよ」


本来ならカウレスの役目だったのだろう。炎龍の生贄、それを本人が知っているのかどうか。いや炎を交換した時に理由ぐらいはカウレスも聞くだろう。それで話さない人でもない。

死にかけのダースニック王とカウレスとを比べたら、そうなってしまうのだろう。2人諸共死ぬよりはきっと、まし、なはず。いや、でも、


「でもさっきダースニック王は炎龍は復活するって言ってましたよね。ならそうならないようにしたら」


「そういう訳にもいかねえな。炎龍は今弱ってる。なんでか知らねえが長い休眠を必要するくらいには衰えてんだ。お前らがこれから戦う他の始祖龍と比べりゃ幾分かマシなんだよ。つまり丁度いいんだ、お前らの最初の相手に」


「そんな理由で!」


「そんな理由だ。どのみち放っておけば俺は数ヶ月もたたずに死ぬ。言っただろアモウ、王は国を削って何かを為すんだ。なら国のために俺が死ぬことなんざ当たり前なんだよ」


すでに覚悟は決まっている。もう誰にもダースニック王の意思を曲げることはできないのだろう。もう俺はどこかで納得してしまっている。だから強く反発できない。雪はそれでも納得できないのか、食い下がっているが自分を犠牲にするという面で俺も雪もどこか慣れてしまっているところがある。きっと最後には折れてしまうのだろう。


「王様が死んだらその炎はどうなるんですか」


「さあな?そのまま炎龍が復活するのか、それとも次代の紅蓮の継承者が生まれるまで炎龍の復帰が遅れるのか。だがな後者だとそれこそ数百年は先だ。それまでには炎龍が力を取り戻していても不思議じゃねえよ」


「復活前の炎龍を倒すのは!」


「それはだいぶ前に考えられたが、結論は不可能だ。地下深くのマグマだまりで眠る炎龍に近づく術がない。たとえそれが出来てもどのみち殺せねえよ」


「じゃあ、もう、どうしようもないじゃないですか」


雪の目に涙が浮かぶ。引け目があるのは俺も同じだが、雪はもっとあるのだろう。あの時龍域が西部砦を除外しなければもしかしたら。けれどそんなことがあるはずもない。そうしなければどのみち全滅だった。雪だけの責任じゃない。


「お前が気に病む必要はねえよ。どのみち俺がやらなきゃカウレスが死ぬんだ、それよりかはマシだろ」


「比べるなんてできないよ」


そうだ、比べる事なんてできない。誰の死も天秤に乗せる事なんてできないんだ。でもそれでも俺たちは進まなければいけない。選びたくなくても選んで、誰かの死を踏み台にして、一歩でも前へ。

ああでも後悔はするべきじゃない。例え死が不可避のものだとしてもその死は何かを残すのだから。それは祝福かもしれない、でももしかしたら呪いになるかもしれない。


「ならせめてカウレスとは話し合うべきです」


「来る前に散々話し合った。そんでもってあいつも納得してたさ。親としてやってやることがこんだけしかないのが不甲斐ねえがな」


いいやきっとカウレスはいつか後悔する。あいつが自分を救うために誰かを犠牲にして平気なわけがない。そうするしかないと分かっていてもきっといつか。

ああわかってる。俺が口に出すべきじゃない。これはきっと俺自身の問題でもあって、父さんの思いをそうだと断じてしまうことになる。でも子はその人生のほとんどに親の影響が出る。いい意味でも悪い意味でも。だからせめて最後に遺すものぐらいは祈りであるべきなんだ。


「不甲斐ないって思うならまだ悔いがあるってことですよ。きっとカウレスも同じはずです。だからせめて、せめて、」


言葉を紡げない。雪も俺の手前言うのにためらっているのだろう。なんであれ父さんの思いは傍から見ればそう見えてしまうのも分かっている。でももしそう言うことでダースニック王とカウレスがその別れに悔いを残さないのなら。


「カウレスの呪いにはならないでください」


「……………………呪い、か。そうだな、確かにいつかカウレスはこのことで自分を呪うかもしれねえ。ったく、仕方ねえ、折れてやる。テノティトに戻り次第もう一回話す。これでいいだろ」


「ええ、必ず」


「今日は終いだ。こんな空気の中で稽古なんかしてられっか。ほらとっとと帰れ」


ダースニック王に急かされ、俺たち2人は帰路につく。納得は、してもらえたのだろうか。

それぞれが抱く思いは多分違う。腹を割って話すことが難しいことぐらい俺にも分かる。けれどせめて悲しい別れにはなってほしくない。


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