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子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
臨炎の死活火山
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11話 それは甘い果実の様で

激しく地面を転がりながらもなんとか体勢を立て直す。そうでもしないと追撃を防ぐことが出来ない。咄嗟に顔を上にあげると龍の骨で作られた槍が目の前に迫っていた。剣で軌道を逸らし、何とか避けるもその後に繋がらない。

脇腹に鈍い痛みが走る、ダースニック王の蹴りが鋭く刺さった。口から空気が漏れ出て、またも地面に転がってしまう。


「魔力による身体強化に依存してると、技術面がおろそかになりがちだな。まあお前の場合はしょうがないんだろうが、気をつけろ」


「分かってはいるんです。ただそういうのを鍛えるだけの時間がこれまでなくて」


龍害の合間は結局体を休めることにしか集中できなかったし、龍との戦闘もその殆どが子龍の魔力出力にものを言わせた戦い方しかできなかった。言い訳でしかないのだろうけれど、対人戦なんて片手で数えることが出来る回数しかこなしてない。アギナルドに勝てたのもあいつの油断とノルディックの協力があってようやくだ。

今日からダースニック王の開いてる時間に稽古をつけてもらっている。本当は雪も参加するはずだったんだけど、昨日の今日だ、今もまだベッドで寝込んでいるんだろう。その元凶である2人は昨日の件で懲りたのだろうか。こんこんと2人の料理の危険性を説明したから、分かっては貰えたはずなんだが、また同じような被害が出ないとは言い切れない。


「おい、なにぼーっとしてやがる。今度は身体強化ありきでやるぞ」


「え?いいんですか。ダースニック王の心配は不要なんでしょうけど、あまり使うなって言ったのあなたですよね」


「こういう時はいいんだよ、ほらさっさと構えろ」


言われた通りに魔力を巡らせ身体強化を使う。龍眼は色々あってまだ使えなさそうだが、問題は無いだろう。ダースニック王を正面に捉え、剣を構える。すでに相手は準備が出来ており、とっとと来いと目で言っていた。

胸を借りる思いで一歩を踏み出す。魔力で強化された肉体は容易に追えるようなものじゃない、身体強化を使ってないダースニック王が反応できるのか不安だったがそれは杞憂に終わった。

的確に俺の一撃を槍で受け流されるがそのままの流れでもう一撃を繰り出す。それは受け流すことが出来なかったのか、ダースニック王は一度距離を取る。ジュディッカさんと同じように長物を使う人を相手に距離を取るのは得策じゃない。離れた距離を縮めて、接近戦へと持ち込む。


「ッチ!」


力押しはこちら有利、けどそれは相手も分かっている。だから下手に力任せに攻めると、カウンターを喰らう。だから一撃一撃に重きを措かない、軽くダースニック王の態勢を崩すように攻めていく。

けれど素の体格差は埋めようがなく、ダースニック王は隙を晒さない。だが押しているのは確かに俺だった。


「いい戦い方するじゃねえか!」


「その状態でここまで耐える人が何言ってるんですか!」


焦れてしまい魔力を多くこめ一撃を繰り出す。けれどそれを待っていたかのようにダースニック王の口に笑みが浮かぶ。何か間違いを犯したのだろう。けれどそれを理解して、行動に移すまでには時間がなかった。

回避や受け流すことは想定できた。だからそれ以降に繋がるように考えていたが、ダースニック王が選んだのは槍で防ぐこと。力ではこちらが勝っているのにそう選択した理由はすぐに分かった。

ほんの刹那、俺の剣と彼の槍が鬩ぎあう瞬間ダースニック王の魔力が発露する。その出力は全力を控えている俺のものよりもはるかに多く、押し返されてしまう。


「なっ!」


地面に倒れ、胸を抑えつけられ喉元に槍を向けられた。この状況なら俺が立ち上がるよりも早くダースニック王の槍が俺の喉を貫く。それで死ぬかは分からないけど、しばらく動けなくなるのは確かだった。


「まいり、ました」


「文句を言わねえなら上等だな。戦場ならこんな理不尽いくらでも起きうる」


勝手にダースニック王が身体強化を使わないと思っていた俺が悪い。一瞬の油断が命取りになることは理解しているつもりだ、それでも殺人を忌避する思いが隙にならないと言えば嘘になる。だけどそれを捨てることはきっとできない。


「とはいえよく戦えてる方だ。それだけの魔力出力があればまず後れを取ることはねえよ」


「だと良いんですが」


ダースニック王が手を差し出してきたのでそれを掴み立ち上がる。左腕が動かない状態でも、彼は俺を圧倒できるほどの技量を持っている。身体強化があればまた話は違うのだろうけれど、俺もダースニック王もまだ全快していない。極力魔力は使うなと言われている。

休憩するために木陰へと移動する。この時期のリヴィングスは嫌になるほど暑い。それに温泉地だからか、だいぶ湿度が高い。おかげで汗で服がびちゃびちゃになってしまう。ダースニック王も気持ち悪いのか上裸になり、鍛え上げられた肉体を陽光の下にさらしている。


「戦ってると感じるが、お前魔力のありなしでだいぶ動きも変わるな。魔力がないときは直線的で読みやすいが、魔力があると立ち回りがうまくなる、いや上手いなんてもんじゃないか。ちぐはぐだな、お前の戦い方は」


「そうですか?毎回精一杯やってるだけですよ」


「いや、異常だろ。少なくとも魔力があるときのお前の動きは新兵のそれじゃねえ。魔力の有無で何がそんなに違うんだ?」


思い当たる節がない、訳でもない。実際にあいつはカウレスを圧倒したあの子龍をあしらっていた。でもその時あいつは殆ど魔力を使っていなかったはず。普段のように全身に魔力を巡らせるのではなく、局所的にしか使用していなかった。ならダースニック王が感じる違和感とは関係ないのだろうか。

考えてもきっと答えは出てこない。まだ判断材料がまったくそろっていないのだから仕方がない。まあ今は横着せずに地道に鍛えていくしかないだろう。


「なんででしょうね。でもいざという時に頼れないならないのと同じです。俺は俺なりに頑張ります」


「………………答えを出さないならそれでいい。俺が口出しするような問題でもねえしな。ほら、もう一回だ、とっとと俺から一本取れるようになれ」


無茶なことを言う。魔力なしでの戦いはまだ全然慣れてないというのに。必要か不必要かで言えば、どうなのだろう。そういう事態に陥る可能性がないこともないのだろう。それに身体強化で動かす肉体も結局は素の肉体の延長だ。身体の動かし方を知っておいて損はない。


———


「ふぅ~気持ちぃ」


稽古も終わり、俺は街のあちこちにある温泉へと足を運んだ。湯治街の名にふさわしく、いたるところから温泉が湧いており俺が浸かっているここもその一つ。俺たちが稽古していた場所(元領主の館らしい)にほど近い場所にあり、元は王家御用達の湯だそうだ。

ダースニック王が疲れを取るならここだと言っていたけど、確かにその通りだった。通常より少し暖かい湯は疲れた体によく滲み、昨日までの疲れが嘘のように消えていく。

まあそれは多少誇張しているけどたしかに気持ちのいい温泉だ。


「ずっと、つかってたい」


「ふふ、のぼせちゃいますよ」


不意に聞こえる声に驚いて、声の方に振り向く。ダースニック王とは一緒に入ったがあの人は長湯せずにとっとと上がってしまった。だからこの場には俺しかいないはずなのに、声が聞こえた。


「昔は王家の一族しかここを使っていませんでしたから男女で分かれてないんですよ、アモウさん」


「………………少しは恥じらいを持ったらどうなんだ?フィオレ」


「安心して下さい!ほら、水着を着てますから」


声が聞こえた方に振り向くと、可愛らしい水着を着たフィオレがいた。本人は水着を着ているから平気だなんて言っているが、俺はタオル一枚なんだが?そもそも男女が一緒に入るのも問題だろう。とっとと上がってしまおう。


「私のことは気にしないでください。まだいてもらっていいですよ」


「そういう訳にもいかないだろ」


「……ここで「キャー」なんて言ったらどうなると思います」


「……はぁ、何かあるなら別に上がってからでもいいだろうに」


あらぬ誤解は避けたいところだ。来た人が顔見知りなら弁解の余地もあるんだろうが、知らない人だと分が悪い。仕方なくフィオレの脅しに屈し、上がるのをやめ、気持ちの良い湯へと入りなおす。


「私はただ知ってほしかったんですよ、ここの温泉の良さを。でもって、そういうのって一緒に楽しみたくないですか」


「ここが温泉じゃなかったら同意するんだけどな」


そういう気持ちは理解できる。けど時と場所は考えないとまずい気がする。とはいえ最初の印象からだいぶ違うな、あった時はそれこそ深窓の令嬢って言葉がそのまま当てはまりそうな子だったのに、いまじゃもうお転婆娘にしか思えない。こういう年頃は元気が有り余るのは分かるんだけど、フィオレは35のはず、若いのは見た目だけだ。


「今、失礼なこと考えませんでしたか?」


「……まさか、年齢のことなんか考えてないぞ」


「年齢って言ってるじゃないですか!まったく、私たち龍人の精神は肉体に引っ張られるんです。まだまだ私は子供なんですよ」


そういう話は何度か聞いたけれど、やっぱり少し不思議な感覚だ。見た目相応の性格とは言うが、彼女が時折見せる表情はただの少女のものとは思えない。年齢と肉体の乖離、それはきっと大きいほど生きづらいんじゃないだろうか。

時の流れすらも不平等なこの世界じゃ、血の濃い龍人ほど多くの別れを経験しているのだろう。


「でも、子供でいたいとは思ってないんだろ?」


「そう思います?」


「何となく」


ジュディッカさんの干渉はどちらかというと子供に対するそれだ。それを煩わしく感じているかどうかは分からないけれど、彼女から離れようとしているのは確かだ。一種の反抗期的なものなのだろうが、それはだれしも経験すること。いつか大人になるために必要なある種の過程。


「そうかもしれませんね。もう子供のままでいるわけにもいかなさそうですし」


「そうなのか?」


「ええ、次期に成人の儀が執り行われるんです。こんな時期ですからあとでもいいと言ったのですが、聞き入れてもらえず。渋々ですよ」


成人の儀、そんなものがあるのか。この世界の風習なのか、リヴィングス王家独自のものなのか。でも確かに時期が悪いのかもしれない。国民感情がどう動くかなんて俺には分からないけれど、この状況じゃよく思わない人達もいるだろう。


「お母様にも困ったものです。議員たちのいいなりというわけでもないのでしょうが、それでも手玉に取って自分の目的を果たそうとするなんて、もう少し慎みも持ってもらいたいものです」


「ああ、お母さんが」


母は強しというが、フィオレの母親だ、それはもう強かな女性なのだろう。けれどそんな母親の目的か、少しだけ気になる。


「それで、どんな目的なんだ?」


「気になりますか?まあ当然ですね。何せ私とあなたの婚約ですから」


「………………は?」


温泉にそんな素っ頓狂な声が響いた。


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