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子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
臨炎の死活火山
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06話 フィオレの脱走劇

絶体絶命、今の状況はまさしくそれだろう。レティの追及は俺に言い逃れの余地を許さず、それによって諦めたのかフィオレも俺の後ろから出てこざるを得なくなってしまった。


「フィオレさん、やっぱりいるじゃないですか。どんな理由があって抜け出したのかはわかりませんが、いろんな人が探してますよ。さあ戻りましょう」


「そう簡単に戻るわけにはいかないのですよ。私とて皆の前でガミガミ怒られたくはないのです。婆やは厳しすぎます、少し離れたぐらいであんなおおげさにさわぎたてなくともよいではないですか。私はもう35ですよ」


ぷんぷんと擬音が聞こえそうなほど、フィオレはレティへと愚痴を零す。つらつらと止めどなく溢れるそれは、とてもじゃないがこの国のお姫様とは思えないほどで、レティを圧倒していた。

35、35か。この世界での年齢なんてとてもじゃないが当てにならないけど、確かに言いたいことはわかる。少しくらい1人の時間は欲しいだろう。


「いえ、あの、えっと、今お戻りになられれば、きっとジュディッカさんもあまり怒らないんじゃないでしょうか」


「いいえ必ず烈火のごとく私を怒りつけます。そんなところをレティシアさんは見たいのですか、見たくないですよね。なので協力してくれませんか」


「いえ、でも、」


「協力、してくれないのですか」


目に涙を潤ませながらレティにそう懇願する。器用だな、本物の涙を流している。レティは押しに弱い、きっと今回も押し切られる。止めるべきかを悩んでいる間にレティも決断を下した陽だ。


「んぅ~~~~ん。今回だけですよ、次回からはきちんと報告しますからね」


めいっぱい悩んでレティは承諾してしまう。フィオレの言い方が巧みなせいか彼女の頼みは断り辛い気がする。断ることに罪悪感を覚えるというか、なんというか、頭からその選択肢を除外させられる。


「本当ですか!ありがとうございます。では三人で話し合いましょう」


「悪いなレティ、まあ俺も乗り掛かった船だからせっかくならやり遂げたい」


「船?ですか。でもそうですね、やるからには頑張ります」


レティが協力してくれるならやれることがぐんと増える。俺じゃどうしても力技になりかねないけど、魔法はこういったことにも融通が利く。姿を隠すなり、相手の注意を惹くなりなんだって。


「さて状況確認だ。目標は30m先にあるフィオレのテント、そこまで誰にも見つからずに辿り着けばいいんだな?」


「はい、その後のことは大丈夫ですよ。心配なさらずともテントにいればいくらでも言いくるめられます」


心配はどうだろう、そこまでしていないんじゃないか、俺もきっとレティも。ただテントまで付いたら後はフィオレがどうにかするならすこし楽になる。言い訳も考える必要があるかと思ったけど、そこは本人が考えがあるらしい。


「なら私たちはテントまでの護衛という形でいいですね。私の魔法で姿を隠しますか?」


「そうですね。それが確実だと思うのですが、おそらく婆やには通じないと思います。彼女はもと親衛隊に属していた人ですから魔法といえど誤魔化しきれないです。やはり彼女をどかさないといけませんね」


親衛隊にいたならあの雰囲気も納得だ。というか何でそんな人が侍女をしているんだ。護衛も兼ねて、ということなんだろうか。ただ何にせよ、フィオレの言う通りジュディッカという侍女の人をどうにかしないといけない。


「そっちは俺が何とかする。レティはフィオレをお願いできるか」


「構いませんがだいぶ手ごわいと思いますよ。何度か話したことありますがだいぶ冷静な方でしたから」


「分かってる。あれは絶対に簡単にはいかないだろうけど勝算は3割ぐらいならあるだろ」


上手くいって、という言葉をつけた方がよかっただろうか。そもそも相手が乗ってくれるかわからないうえに俺も本調子じゃない。そんな状態なんだ、成功率は高くはないけど、それでも他の手段はあんまりない。


「何となくやりたいことはわかりましたが、アモウさんは今魔力を使えませんよね」


「使えなくはないさ。今日も走るときやばくなったら少しの間だけ使ったからな、たぶんダースニック王にはばれてたけど。なんであれ少しの間だけなら問題ない。それじゃレティ、よろしく頼む」


「任せて下さい。って言うのもなんかおかしい気がしますが、何とかしてみせます」


フィオレをレティに任せ、別行動をとる。彼女たちは大きく迂回してテントに向かうらしい。その間の時間稼ぎが俺の主な役割。要は彼女たちが見つからないように目だてば言い訳だ。そしてそれにジュディッカさんを巻き込まないといけない。

あいにく大道芸は全くできない。せいぜい孤児院の子供たちにせがまれて覚えたジャグリングぐらいだ。それも得意なわけじゃない。

フィオナ探す集団の中に入り込み、目的の人物の前へと立つ周囲が俺に気づき始めたのかわずかに騒がしくなる。人前に立つだけで騒ぎが起こるのが子龍という称号、あんまりこれを利用するのは好きじゃないけど、これぐらいなら問題ないだろう。

俺の目の前には薄緑色の髪を1つにまとめた初老の女性。ヨウムさんほどではないがわずかに白髪が混じっている。細身ではあるものの確かな迫力があり、その鋭い目には確かに魔力が籠っていた


「ジュディッカさん、ですね」


「あなたは…………いえ、失礼いたしました。お初にお目にかかります、第一王女フィオレ様の侍女ジュディッカ・カンダルクと申します。以後よろしくお願いいたします、子龍様。それでどのようなご用件でしょうか」


「お忙しいところすみません。親衛隊にいたあなたにご指導願いたいのですがよろしいでしょうか」


腰に佩いた剣に手をかける。それだけで一瞬彼女の纏う雰囲気が剣呑なものになるが、それもすぐに無くなる。俺が魔力を纏っていないのを戦う意思がないと判じたのか彼女は首を横に振る。


「お戯れを。魔力をまともに扱えない状態ではいくら子龍様といえど怪我は避けられません。私の首を飛ばすおつもりでしょうか」


「いえ、使えないわけではないですよ。それに俺の怪我なんてあってないようなものですから」


「………………はぁ、なるほど、相変わらず強かなお方だ。まさかあなたのような方まで利用するとは。いいでしょう、ただし私が勝ち次第姫様の居場所を教えていただきいます」


ばれたか。だけどそこは問題じゃない。こちらが認めなければ、ばれてないのも同じだ。言い訳の方はあっちで考えているのだろうし、こちらは時間稼ぎに集中すればいい。

周囲の人たちが俺とジュディッカさんとを囲うように見守る中、彼女が自身の得物を用意する。あれは、鉈、か?細長く弧を描いた柄の先端に幅の広い刃がついている。

僅かにだけど魔力も出ている、龍装とみて間違いないだろう。対するこちらはアドも使えない上に魔力もそこそこ、さて勝てるか?


「断っておきますが手加減は致しません。姫様の策略と分かった以上それを打ち砕くのが私の役目ですから」


「いったいどんな主従関係なんだ。けどこちらも負けられない」


互いに向かいあう。始めの合図はどこにもない。故にもう勝負は始まっている。どちらが先手を取るか、双方間合いを読み合い出方を伺う。本来天羽は待つべきではない、魔力を殆ど使えないという不利な状況なら間違いなく受けに回るべきじゃない。けれどあの武器、鉈か何かのそれはどう動くかは未知数だ。だから待つ、それに時間が経つのは目的達成という意味では好都合だから。

必然、先に動いたのはジュディッカの方だった。少なくとも時間は彼女にとって敵になる。落ち着いた雰囲気のある長いスカートが風に揺れる。足先まで隠れるそれは彼女の足さばきのほとんどを覆い隠してしまう。


身体強化すらまともに使えないアモウにとって龍眼の行使は自殺行為だ、目で追うことのできないジュディッカの強襲を経験のみで対処する。急激な加速、かつて教会の龍狩りでもあったジュディッカの得意とする前のめりな戦法。

通常の武器よりもわずかに長い彼女の鉈を防ぐには正確にそのリーチを把握しなければならない。現に天羽は防ぎきれず、肩口に傷を負う。


「っつ!」


「申し訳ありません、しかしお覚悟の上ですよね」


「あったりまえだ!」


天羽は両手で剣をもち力一杯にジュディッカを弾く。それを後ろに引くことで彼女は体制が崩れるのを防ぐ。だが距離を稼がれることをアモウは良しとしない。彼女の武器はその性質上距離を詰められると当然扱いずらくなる。


天羽の一撃は必殺たりえない、本来なら並みの龍人なら一撃でのせるだけの威力があるそれは魔力が乗ってこそ真価が発揮するものであり、その上前提として時間を稼がなければならない彼は、当たるかどうかは別として彼女にまともに攻撃を当てるわけにはいかない。

ジュディッカの鉈が充分防御に間に合う速度で天羽は追撃をする。しかし彼女はその攻撃を鉈で受けることはない。後ろにもう一度ステップすることで天羽の攻撃を回避する。

けれど天羽の動きはある程度回避されることを前提としたもの。もう半歩踏み出して更に追撃をする。しかしそれは彼女にあたらない。彼女の左手が虚空に構えられ、その前に術式が刻まれる。


「ウィンドバレット」


ジュディッカの開いた左手から風の弾丸が放たれる。それは彼女を執拗に狙っていた天羽の剣に直撃する。彼がその剣を手放すことはない、けれどそれは悪手だ。潔く剣を手放して一度引いた方がこの場合はよかっただろう。

強靭な子龍の肉体とは言え至近距離で魔術を、それも身体強化がない状態で受ければ体制が崩れる。弾かれた剣をもつ右腕は上へと掲げられ、胴ががら空きとなる。


「まず、」


「ノンレジスト」


振るわれるのは風を纏う腕、あらゆる防御を貫通し肉体内部に打撃を与えるそれは容赦なく天羽の肉体を貫く。


「がは!」


肺から空気が漏れる。僅かに間に合った左手による防御も意味をなさず、天羽の肉体の内部に無視できないダメージを与えた。


「さて、降参しますか?」


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