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子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
臨炎の死活火山
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02話 優しい夢を見た

「おーい、天羽君起きてるー?」


昼過ぎになると、部屋の外から数時間ぶりに雪の声が聞こえた。約束通り果物を切ってきてくれたのだろう。起きてそれなりに経ったからか、だいぶお腹は減っている。

アスターはちょくちょくぶどうのような果実、ポクの実を頬張っており昼過ぎの温かい日差しに包まれて眠っている。呑気なもんだが、それだけ今は余裕があるということ今になってようやくリヴィングスの終末の龍害は終わったんだと実感できた。


「入ってきていいよ、起きてるから」


「それじゃあ遠慮なく、ほら入ろ」


部屋の扉を開けて入って来たのは雪ともう1人、純白色の少女、レティだった。今朝の雪の言う通りところどころに傷跡が垣間見え、少し痛々しかった。けれど当の本人はそんなことなど気にしてないかのように明るい表情をしていた。


「よかった。目が覚めたのですね、アモウ」


「そっちこそ、傷は大丈夫か?」


「もうしばらくしたら治りますよ。教会のお医者さんも痕にはならないといっていましたから」


そうか、それならよかった。いや、まあよくはないのだろう。傷つくことが当たり前だと思っていても、それでも傷自体を許容するのはよくない。結果が全て、生きていればそれでいいと思ってしまうのは俺の癖だ。


雪が部屋の椅子を引っ張て来て、2人はそこに座る。やっぱりまだ目の調子がよくない。2人の姿がまだぼやけて見える。眼鏡を作るか、日常生活でも龍眼を使うかだな。


「どう?手は動かせそう?」


「右手なら何とか…………自分一人で食えるよ」


「残念。食べさせようと思ったのに」


雪から皿を受け取り、果物を口に運ぶ。ミカンのような果実は見た目に反してそこまで酸っぱくなく、程よい甘さだった。

おいしいな、今までは殆どドライフルーツみたいな保存のきくものしか食べてなかったから、こういった瑞々しいものは久しぶりな気がする。


「何個かはレティが切ってくれたんだよ」


「そうなのか。あ、確かによく見たら形が歪なのが何個か、」


「ちょ、ちょっとユキ!言わなくてもいいじゃないですか」


まだまだレティの家事のうでは発展途上の様で、雪の様にはいかないらしい。とはいえ俺が剥いたら皮の方にも味わいが出そうな感じになるから、俺よりは全然ましだろう。


「おれよりレティ、あれ渡さなくていいの?」


「あ、すっかり忘れていました。鞘は見つからなかったんですが、剣のほうは何とか見つかりました」


レティが何か持ってきているのはわかっていたけど、其れが何なのかまではぼやけて見えなかった。細長い何かが白い布に包まれていることは俺でも分かったけど、剣だったのか。

レティがその白い包みを取り外すと翡翠色の剣身が顕わになった。見覚えは当然ある。夢の中ではただ一度その不可視を体感し、現実では何度もリヴィングス東部を苦しめた龍装、龍剣ブラックモア。


「そうか、無事だったんだな」


「はい、悪用されないようにリヴィングス側で管理するという案も出たのですが、元の持ち主であるリーランさん、その弟子であるアモウが管理したほうが良いとダースニック陛下が仰ったのです」


師匠がこの剣にどれだけ思い入れがあるのかは分からないが、略奪されたも同然の状態だったから、戻ってきたのは嬉しいな。せめて墓前に供えたい。


「てっきりあの時に諸共に破壊されたと思ったんだけどな」


「王様曰く、明確に壊す意思がない限り壊れることはねえ、だってよ。龍核を封じるためにだいぶ頑丈に作られているみたいだね」


どうしようか。持ち歩くのもいいんだが、ユーダニアに送るのも手だよな。龍装は前にも試したけどアドの触媒に向いてない。中の龍核とアドの魔力が反発してうまく定着しなかった。二刀流、そんな器用なこともできないから要は宝の持ち腐れだ。龍核解放事態は使えるんだけど、師匠や、それに癪だがアギナルドよりうまく扱える自信はない。

しばらくは手元に置いていてもいいけど、リヴィングスを出るまでには結論を出さないといけない。


そんな感じにしばらく俺が寝ている間のことを聞いていると、もう1人の来客が来た。


「アモウが起きたと聞いて来たんだが、邪魔だったか?」


「カウレス!いやそんなことないぞ」


「そうかならよかった。目が覚めてこと、心から嬉しく思う」


改まってそういうことを言われると少し照れてしまう。けどよかった、カウレスもあの時、あの子龍と相対していたはずだから心配だった。


「カウレスさん、今忙しいって言ってなかったっけ?」


「確かに事後処理で忙しくはあるが、アモウが起きたと聞いたのなら行かないわけにもいかないだろう?この戦いの一番の功労者、いや、今のは言い方がよくないな、ただ友人の身の安否を確かめに来たんだ」


別に口実なんてなんでもいいんだけど、まあそう言われて嬉しくないわけがない。それにカウレスならもっと詳しいことも知っているだろう。


「今は時間があるのか?」


「1時間ほど休憩を貰ったよ。何か聞きたいことでも?」


「今後のこととか、まあ他にも色々」


後2日3日休めば体は動きそうだから、それまでには決めておいたほうが良いだろう。特にカウレスも忙しいなら割ける時間も限られてくるだろうし。


「しばらくは休んでもらっていいんだが、でもそうだな、ここは休むにしても色々と煩わしいだろうから、何か理由をつけてもっと気楽に休める場所に行ってもらってもいいかもだな」


「いや別にあと数日も休めば大丈夫だから」


「だがアモウが目覚めたと聞いたらおそらくだが、貴族たちが殺到する。その相手をするにしてもしないにしても億劫じゃないか?」


それは、そうかもしれない。1人1人はいい人なんだが、互いの利権やらが絡み合うと、だいぶ面倒な話になる。正直目の前で言い争いをされるのは勘弁してほしい、内容の半分も理解できないようじゃ仲裁のしようもない。


「それに今リヴィングスの情勢はだいぶ不安定なんだ。龍害直後というのもあるが、それ以上に始祖龍の討伐で意見が割れている」


「意見が割れるって、討伐に反対している人たちがいるのか?」


「討伐自体は問題ないんだ。ただ時期の問題でね、ようは始祖龍を討伐するには全ての兵を動員しないといけないんだ」


全ての兵、ようは防衛に回す兵がいないということなのだろう。龍害はなくなったが龍自体はいる。そのための防衛はもちろん、可能性としては考えたくないが他国から侵略してくる可能性もあるのだろう。それを加味すると確かに時期は悪いのかもしれない。


「それは確かに、問題だな」


「でも、小さな村や町はともかく、大きな都市には龍教会がありますよね?」


「龍教会の龍狩も確かに協力はしてくれているんだが、それでも数は足りてない。特に西部は都市の立て直しもある。安定するまで2、3年はどうしてもかかるんだ」


2、3年。正直天龍の予言までどのくらいの猶予があるか分からない現状で、そんなには待っていられない。他の始祖龍を優先してもいいけど、行ったり来たりするのは得策ではないだろう。龍での移動が出来るとはいえ、国を超えるにはやっぱり数週間は必要になってしまう。


「そのうえ精霊教会が絡んでくるとなると、もっと複雑化する。この状況を打開するためには分かりやすいシンボルがいるんだ」


「それがアモウたち子龍、ということですか」


「そうなんだ。この国の問題に君たちを巻き込みたくない…………今更すぎる気はするが、せめてこういう醜い足の引っ張り合いに君たちを加えたくない」


それは心配故か、それともその足の引っ張り合いとやらをしている自分を見てほしくないのか、いや多分どっちもだろう。俺1人ならまだそれでもいいんだけど、雪やレティもいる。


「名目としては復興の護衛ということになるんだろうが、どうする?俺としては話がつくまで休んでいてくれると助かるんだが」


「俺がいた方が早く話がついたりはしないか?」


「その場合、話し合いじゃなくて一方的に意見を押し付ける形となる。できれば避けたいんだ」


子龍の影響の強さを改めて感じるな。時間が未知数なのは確かだけど、手段を選べるうちはなるべく穏便な方法を取りたい。


「議会自体は数週間もすれば終わる。そこから討伐への準備に多少は時間がかかるだろうから、だいたい2ヶ月といったところか」


「それなりにありますね」


「ん?ああ、そうだね2ヶ月は十分に長いといえる時間か。だがそれだけの期間があれば3人ともしっかり体を休めることが出来るだろう?」


始祖龍と戦うのなら、万全以上じゃないと勝てないのは確かか。龍の形をした災害、カリシエル王がそう形容するほどに始祖龍というのは隔絶した存在なのだろう。勝てるのか?そんなものに。けれど勝つしかない、そうでもしないと前へ進めない。


「私は天羽君が休んでくれるならそれでいいけど、レティはいい?テノティトでやり残したこととかない?」


「どのみち私にはやれることが限られてますから。2人についていきますよ」


「そうしてくれると助かる。なるべく早く終わらせるつもりだが、こっちのことは気にせずにいてくれ」


話はまとまった。どのみち俺が動けるようになるまではここにいるわけだから、しっかりした話はまた今度するらしい。もともとカウレスも1時間の休憩中だったわけだから、あまり引き留めるのも悪いだろう。

あと一つだけ気がかりなことがあるとすれば、


「お墓はもう立てたのか?」


その言葉に一瞬だけカウレスの表情が崩れる。素の表情というか、今までの王子然としたものじゃなくて、年相応の顔。


「特別扱いするわけにもいかないだろ。今は時間がないが真っ先に戦争墓地を立てるよ。そこにきちんと埋葬する」


「そうか。出来たら連絡をくれないか、俺も挨拶しないと」


向き合わないといけない。例え顔も知らない誰かの墓標であっても、俺にはそれを背負う責任がある。想い偲ぶだけでいいなんて俺には思えない。


「そうする。さて、俺はそろそろ戻るとするよ。アモウはもちろんだが、2人もゆっくり休んだほうが良い。戦いなれてないものは体はもちろん、精神の方にも疲労が溜まる。だから今ぐらいはゆっくりと」


そう言い残しカウレスは部屋を去る。仕事で疲れているせいかどことなく小さく見えてしまうその背中は、けれど確かに1人じゃ背負いきれないほどの責任を背負っている。

残ってカウレスを助けるべきだったか、いや政治も何も分からない俺がいたところで神輿に担がれるだけだ。きっとそれはカウレスの負担を別の負担へと変えるだけだ。そんな今を歯がゆく思う。


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