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子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
臨炎の死活火山
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19話 兆しの冷風

「さて、そろそろ出発の時間か」


明朝、俺はばれないように家を出る。今日は龍害討伐の日、その討伐隊に同行するフィオレのために俺も同行しなければならない。龍害の規模はそれほど大きくはない。いても1000に満たない数しかいないだろうし、上級だけなら俺なんかいらないはずだ。

家から出て少し歩くとジュディッカさんが待っていた。彼女も普段の控えめなドレスではなく、動きやすい服を着ていた。彼女も護衛の1人なのだろう。


「お待ちしておりましたアモウ様。本日は姫様の我儘に付き合っていただきありがとうございます」


「気にしないでください。俺がいて怪我人が減るなら望むところですから」


人死が出そうな時以外は手出しするつもりはない。とはいえ事故は起こりうる。それを防ぐことが出来るなら願ったり叶ったりだ。


「ではこちらに…………おやお連れの方もいらっしゃるみたいですね」


「え?ってレティ?!何でここに」


「私からもいいですか?アモウはどこに行こうとしているんですか」


振り返ると俺の後ろにはレティがいた。その顔は笑顔だがどうも目が笑ってない。ばれないように慎重を期したはずなのに、どうしてここにいることが。


「今からフィオレの家にお邪魔するんだ。朝早い時間に見れる絶景が近くにあるらしくて」


「そんな装備で行くんですか?」


「この前の秘湯みたいに龍がいる可能性もある。ある程度の装備は必要だろ?」


「なら、私もご一緒しても問題ないですね?」


うぐ、そう言われるとどうしようもない。仕方がない、事情を話そう。元から別に口外を禁止されてるわけでもない。龍害討伐事態は箝口令が敷かれているけれど、レティ自身はそれを知っているし、フィオレの成人の儀のことを教えても問題はないはずだ。


「レティも知っていると思うけど今日は第二兵団の龍害討伐があるだろ。それに同行するんだ」


「自分がまだ療養中だってこと忘れてませんよね」


「分かってる。けどずっと戦わないのもそれはそれで鈍るだろ、それに今回はあくまで同行だけだ。手出しするつもりは今のところない」


「………………はぁ、分かりました。なら今回は私もお目付け役で参加しますね」


やっぱりか。けど元から戦うつもりもないんだ。レティも危険に晒されることはないだろう。周りには俺以外にもフィオレの護衛がいるだろうし、それにどこかにヴォルフもいるだろう。そこまで危険視する必要もないか。


「お話はまとまったようですね。ではアモウ様、レティ様、こちらにあまり時間もありませんので急ぎましょう」


あまり時間もないようだ。龍害がいる地域はそれなり離れている。全員が全員、騎龍に乗れるわけじゃない。殆どの兵士は土龍の龍車に乗っていくんだ、ジュディッカさんの言う通りあまり悠長にはしてられない。


龍舎にはすでにカノンが鞍をつけられて待機していた。この前の温泉が気持ちよかったのか、最近は何度かダースニック王との稽古中に現れてはせがまれた。本来騎龍といえど厳重に管理されているはず、何だが、まあいいか。管理体制も最近のことだろうし、気にするだけ無駄か。


「こうして二人で乗るのは久しぶりだな」


「前回は飛行を楽しむ余裕がありませんでしたけどね。今回は何もないことを祈ります」


ニースが羨ましそうにカノンを見ているが、あまり大所帯だと俺が子龍ってばれかねない。できればダースニック王から叱責は避けたいところだ。


「そういえば今日はなぜ、同行するのですか?アモウならそのまま手伝いそうなのに」


「いろいろと経緯はややこしいんだけど、強いて言うならフィオレの護衛かな?今回の龍害討伐にあいつも参加するんだ」


「え、フィオレさんがですか?」


事のあらましを説明する時間は今はなさそうだ。とりあえず後で話そう。カノンが飛び立ち、ジュディッカさんの騎龍と合流する。その先に見えるのは第二兵団の兵士たち。騎龍に駆るものは少ないが総数は確か3000人強いたはずだ。西部砦では大勢の犠牲者が出たそうだが、その殆どが復帰しているとなるとその精強さが伺える。ヴォルフが団長は頼りないなんて言っていたが、本当だろうか。

ジュディッカさんと共に集団に混じると特段警戒されずに入り込むことが出来た。騎龍の軍勢の中心に今日の護衛対象の姿が見えた。


「おはようフィオレ、まさか本当に討伐に参加するなんてな」


「ふふ、冗談だと思っていたんですか?これも王族の務めですよ。あら、今日はレティさんもご一緒なんですか?」


「久しぶりですフィオレさん。今日はアモウのお目付け役ということで、見張っておかないと何をするかわかりませんから。それより今回はなぜ参加するのですか?」


フィオレがこちらをちらっと見たがどういう意味だろうか。俺に気を使って説明しないつもりなのか、別に成人の儀ぐらいは話してもらっても全然いい。俺がどうこうできるものでもないし。

特段俺が何の反応も返さないとフィオレがレティに色々説明する。結婚云々は省いていたがだいたい理解はできてそうだ。


「なるほど、それにしても成人するために上級の龍を倒す必要があるなんて、いくら何でも大変じゃないですか」


「そうですよね。けれど私だって王族ですから戦えるんですよ。魔術でバンバン龍を倒す雄姿をレティさんも見ていてくださいね」


フィオレが魔術を使って龍と戦っている絵面があんまり想像できない。そりゃカウレスの妹なんだし、充分素質はあるんだろうけれど雰囲気というか何というか。いやそんなこと言ったらレティだってそうだけど。


「今日はドレスじゃないんだな」


「いくら私でも戦場にドレスが不釣り合いだってことぐらいわかってます。それともアモウさんはドレスの方がよかったですか?」


「まえのドレスは確かに似合ってたけど流石に今日はそういう服装の方が安心する」


「?二人はそんな頻繁にお会いしているのですか」


変に勘繰られるぐらいなら、開き直った方が怪しまれないだろう。結婚の話もいい加減話しておいた方がいいのは分かっている。けれど何というか話す決心がついてないというか、あまり巻き込むわけにもいかないというか。


「会う機会が色々と、次屋敷に呼ばれる時はレティも一緒に来るか」


「そうですね、ユキさんも一緒に招待しましょうか。おいしい紅茶が手に入ったんです。楽しみしていてくださいね」


「それならぜひ。アモウも酷いじゃないですか、1人だけいい思いして」


いい思いだったらどれだけよかったか。基本的フィオレにいいように弄ばれてばかりな気がする。悪気はないうえに別に断るような事でも無いのだろうけれど、こう見た目が幼い彼女におちょくられるのは自尊心が傷つくというかなんというか。

フィオレとレティは互いに話に花が咲いたのか2人で楽しそうに話している。

龍害まではそれなりにある。周りの人の顔を緊張している人もいるが、多くの人は警戒しつつもリラックスしていた。重くとらえすぎるのも問題か、今はカノンに任せてゆっくりしておこう。



3時間ほどの行軍で俺たちは龍害が観測された地域まで来た。その間は本当に静かなもので龍を1匹も見ることなく進むことが出来た。いいことなのだろう、けれどどこか不気味な印象を与える。


「散会!龍を発見し次第報告。また10分後には必ず帰還しろ!」


その言葉で周りの人々が訓練された迷いのない動きで龍を探しに行く。地上では数百メートル後方に陣地が立てられていた。小さめな街と言っていいほどの規模で広がっており、準備万端と言った感じだった。


「お待たせしましたフィオレ殿下。龍害の発見と梅雨払いは我らにお任せください」


「お願いいたしますね、ヘルウィック様。それと本来ならあなた方の手柄を私に譲って下さりありがとうございます」


「なんの、成人の儀は苛烈なものと聞き及んでいます。我らその一助となれるなら光栄の至りでございます」


第二兵団団長のヘルウィックさん、前に一度会ったことがある。その時はなんとも思わなかったが確かに他の団長と比べて若い気がする。見た目だけなら20代後半と言ったところか。年齢がいくつかは分からないが、それでもこの年で団長になれるほどの実力者なのだろう。


「おやそちらの方は?」


「キョウヤと言います。フィオレ……様の護衛の1人です」


「おおそうでしたか。今回は我らがおりますので安心して下さい。それとそちらはレティシア殿でしたね。以前お会いしていますが覚えていらっしゃいますかな」


「お久しぶりです。今日は私も護衛としてご一緒しますのでよろしくお願いします」


軽くあいさつしたあとヘルウィックさんは持ち場に戻っていった。良かったばれなかった。レティにお願いして魔法で認識を変えてもらっておいて助かった。声や臭いは変えられないけど喋ったことはないし大丈夫だろう。恭弥悪いけど名前借りるぞ。


「キョウヤって誰の名前ですか?」


「俺の友人。頭の良い奴だったんだけど元気にしてるかな」


あ、まずい少し気まずい雰囲気になった。そりゃ下手に触れずらいよな。とりあえず何か話題を変えないと。


「レティ、龍はここからじゃ見えないか?」


「え、あ、はい。そうですねここからじゃ何も。でもなんだか変ですよね。これだけ移動したのに龍に一匹も会わないなんて」


「やっぱり変だよな。周りの龍も吸収して龍害が膨れ上がっているのか」


可能性としてはなくはないか。ただ上級一匹にそんな量の龍を束ねることが出来るか?終末の龍害に多くの龍が吸収されていたとしても残った龍も中にはいるはずだ。大丈夫、だよな。

そんなことを考えていると、大声が聞こえた。


「報告!東北東に龍の集団あり。まだ龍害かまでは分かりませんが、おそらくは」


「どのみち放っておけるものでもない。それに周囲の龍は龍害に取り込まれたようだ。それが餌であれ何であれ、我らで姫殿下のために喰い破るぞ!出発!」


「ではまいりましょうかお二人とも。安心して下さい、無事に勝って見せますから」


「ああ、いくか」


龍害に向けて飛び立った。上空の冷たい風はいやでも頭を冴えさせて最悪ばかりを考えさせる。

今回で100話目だそうです。2年で100話、遅いですね

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