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天啓の孤独

久々の更新です。滞り気味ですみません。

「ヒュペリオンさまと波長が合ったら、声が聞こえたり、姿が見えたりするわけじゃないの?」



「いや、あいつは腐っても神だ。無自覚に国家の危機を救うために、無意識に予測して天啓を与えてるんだよ。あの半知半能は、そんなことも自分で気づいてやしないけどな。」



 クリスティアーノは顔をしかめ、悪辣な口をこの国の神に対して叩く。



「俺は自分の成人の儀でヒュペルに忠誠を誓ってから、天啓についてずっと歴史を調べなおしてきたんだけど、天啓を受けた王子が出てくるのに、ある法則があるのが分かったんだ。」



「うん。」



「天啓王の治世の代には、必ず何か、大きな大災害もしくは、国を挙げてかからないといけないような大問題が勃発する。周辺国が攻め入ってきたり、大きな竜巻が都市を襲って大きな被害が起きたり、長い雨が続いて大洪水が起きたり、とかな。」



「そうなんだ。」



 静かな目をして、王太子は語る。



「……でも、いずれの時でも、その大災害や大問題を、『天啓王』たちは自分の力で乗り切り、災害を乗り越えた後は、さらなる国の発展を遂げている。攻め入ってきた周辺国はあっというまに天啓王に制圧されてオーキッドに統合され、国土は広がった。西都は美しい煉瓦造りの町並みだが、これは大きな竜巻が街を崩した後、時の天啓王がこういった災害の起きやすい土地を鑑みて、重い煉瓦で街を造るように命じたんだ。結果、西都ではこれまでの「学問都市」といった特徴に加え、煉瓦窯からさまざまな焼物産業を発展させ、陶芸の街という側面も持つようになった。」



「そっか。災いからの復興をプラスに転じることができるのは、『天啓王』だったってこと?」



「そうだ。だからこそ天啓王たちは賢王として讃えられているんだ。……だけど、俺は不思議だった。三十年前の大旱魃だいかんばつは、国を挙げての危機だった。しかし、天啓王は現れず、枢密院と親父たちは失策を繰り返し、王都と南都との対立構図を生んだ。おまえの祖父のおかげで一時的な危機からは脱したものの、南都と王都の間には禍根を残し、マヌエル・リベーラが力をつけるにつれ、不穏な動きは活発化してきている。おまえの祖父の南都の通行税撤廃と鉄鋼事業は南都の不況を脱することを可能にしたものの、鉄鋼王リベーラという王都最大の敵を生み出してしまった。リベーラがいま、何をしているかわかるか?ひそかな武器の生産だ。そして、秘密裏にそれをポロネーシュを除く四か国に輸出しようとしている。国土は小さいとはいえ、今まで見たこともない鉄を使った武器、それを南都と四か国が一斉にオーキッドに向けられたら、この国はどうなる?」



「どうなるって……。」



 梨亜は血の気を失う。



「まず、西都と北都が危ない。王都以外の三大都市が南都と周辺国の連合軍に負けたら、城塞都市王都といえど、ひとたまりもないだろう。……この国は、国家存亡の危機に瀕することになる。だからこそ、俺が初代王アダルベルト以来の『天啓』を受けたんじゃないかって、俺はそう思うんだ。これを無事に乗り切ることが、俺の『天啓』の使命なんじゃないか、って。」



 梨亜は話を聞きながら、とあることに気づいてぎくりとした。おじいさまは、王都の人たちの誰も知らないけれど、「天啓」持ちだった。もし、クリスティアーノの父ではなく、おじいさまが王位についていたら、こんな事態になってなかったのじゃないか。おじいさまは不毛の荒地と思われていた土地を発展させ、新規農業と鉄鋼業を立ち上げ、領地を立て直した。それだけの人が王位に在ったら、枢密院の力なんて借りずとも、南都を虐げることもなく、大旱魃だいかんばつをやすやすと乗り切ったに違いない。重い事実に、梨亜は両手で顔を覆った。そして、顔を覆いながら、梨亜は思った。南都独立問題は、クリスティアーノひとりに任せていい問題じゃない。「天啓」がクリスティアーノの言うように、ただの偶然ではなく、歴史の必然ならば、おじいさまの孫として、「天啓」を持つ梨亜が連れてこられたのも、必ず意味があるはずだ。



「おい、どうした?」



 顔を隠してしまった梨亜に、クリスティアーノが怪訝そうな声をかける。



「わたしも手伝う。」



 梨亜は顔を上げて言った。



「クリスティアーノの計画に、私も協力するよ。この王宮でぬくぬくと、守られてるだけなんて嫌だもの。」



「いや……、俺、そんなことおまえにしてほしくって、こんなこと話したんじゃないぞ?」



 クリスティアーノはほんの少し顔を蒼くする。



「俺のやろうとしてることは、枢密院、ひいては親父をも敵に回すかもしれない。下手すると国家転覆罪だ。協力者は幽閉や投獄の恐れもある。おまえは異世界人だ。この国のごたごたになんの関係もないんだぞ?」



「関係ある。私にも責任はあると思う。」



 止め立てするクリスティアーノに逆らって、梨亜は語気を強める。



「クリスティアーノの『天啓』が歴史の必然だっていうんだったら、私に『天啓』があって、ここに連れてこられたのだって、何かきっと意味があるんだよ。クリスティアーノだけを戦わせるわけにいかない。」



「そうか……。」



 クリスティアーノは声を途切れさせた。



「じゃあ、頼む……。ほんとはこんなこと頼めた義理じゃないんだけど、いつも俺はギリギリな気持ちだったんだ。一番の腹心であるはずのテオバルドは枢密院寄りになり、ヨーゼフ兄の洗脳は解いたとはいえ、兄には家庭があり、守るべきものがある以上、表立って枢密院に楯突くような無理もさせられない。秘密をすべて明かすわけにもいかないし、俺に近づく人間で純粋に味方と言い切れる人間を選別するのは、とても難しい作業だった。……でもおまえは、俺の一番の味方でいてくれるんだな。」



「うん。私にできることは、精いっぱいやるよ。でないと、私は、ここから出ていけないもんね。」



 梨亜は明るく声を張る。不安はたくさんあるけれど、事態を打開しないと、私は先生のところに行けないもの。クリスティアーノに頑張らせるだけじゃなくて、私もがんばらなくちゃ。



「そうだな…。おまえが堂々とここから出られるように…。」



 そう言いながら、クリスティアーノは顔を少ししかめた。



 部屋から出ていくとき、クリスティアーノは梨亜に言った。



「少しだけ、抱きしめさせてくれ。協力者の証がほしい。」



「いいよ。」



 梨亜は両手を広げた。自らの身体に回るたくましい両腕は、少し震えていた。ああ、クリスティアーノは怖いんだ。そうだよね。若干二十一歳が、あの頼りない神様にもらった天啓ひとつで、国を変えて行かなきゃいけないんだから。梨亜は、だいじょうぶだよ、というように、そっとクリスティアーノの背中を撫でた。クリスティアーノはしばらくそうしていたけれど、梨亜の顔を見ずに、黙って腕を離し、そのままドアを開けて梨亜の部屋から出て行った。その背中はひどく孤独に見えた。




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