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クリスティアーノの独白 その2 王太子の孤独な闘い

 成人の儀のあと、ひとりになった俺の部屋にヒュペリオンは現れた。だから、俺はなんでヒュペルが俺なんかに「天啓」を与えたのかを問い詰めてみた。そしたら、あいつ、こういうんだ。



「んー、わかんない。波長が合うとそうなることもあるんじゃない?ただの偶然であってぼくの意志でもないんだよねー。でも、姿まで見えるって久々だねー。アダルベルト以来だよね。」



 もう、気が抜けるよな。なんだ、これが全知全能の神か、って。じゃあなんで、「天啓」の国王たちは、みな賢王として名を馳せているのか、おまえがなにか知恵を与えているのか、って聞くと



「別にー。ぼくはなにもしないよー。でも、『天啓』があるとなると、本人にも自覚が生まれるし、周りも期待するから、自然とそうなるんじゃないー?」



 なんだ、それだけか、馬鹿にするな、って話だよな。俺はヒュペルに切れた。まあ、八つ当たりだけどな。余計なことしてくれたおかげで、人生滅茶苦茶だ。俺だけじゃなくて、エリサルデ家まで巻き込んでる、って言うと、ヒュペルがこう言った。



「確かに時折『天啓の王子』が現れることはあるけど、それをありがたがって、王太子や国王にしてるのは君ら人間の勝手じゃないか。ぼくが決めてるわけじゃないし。」



 ……あいつの無責任ぶりには腹が立つけど、それはそうなんだよな。「天啓」を崇めて国王に祭り上げるのは人間だ。ヒュペルが口出ししてるわけじゃない。



「そもそも、ぼくは親友のアダルベルトに頼まれたから、この国の守護神になったんであって、政治はきみら王族がうまくやりなよ。ぼくの仕事は、この国の国民に祝福を与えることだけだからねー。それだって、君らの先祖が国を広げすぎて、結構忙しいしさあ」



 ヒュペルはこう言うんだ。つまり、ヒュペリオンは生れてきた赤ん坊に祝福を与え続けることと、あとは王子が成人したら忠誠の儀式をやるから、それには必ず出席するようにしてる、それが自分の仕事で、ほかにはなんにもしてない、ってな。儀式のときに数百年に一度、偶然に自分の声が聞こえる王子が現れるけど、それが嘘じゃないってことを証明するために、黄金の光を降らせるようにしてる、って。



「天啓の王子以外には、俺の声も姿もみんな聞こえもしない見えもしない。けど、なぜか光だけは見せようと思ったら、すべての人間に見せられるんだよねー。だから、『天啓』の真偽を証明してあげるために、『天啓頂きました』って言われたら、光を降らせるんだよ。ただそれだけー。」



 とか言ってヒュペルはへらへらする。ヒュペルにとっては、天啓はただの偶然であって、でも自分と話ができる存在だから、ちょっと近いかな?ぐらいな感覚でしかないらしい。でも、姿かたちが見える『天啓』は久々だし、忠誠も誓ってくれたから、これからはちょいちょい遊びに来るね、って言われて、俺は脱力した。



 ヒュペルは宣言通り、それから時折俺の部屋に姿を見せるようになったから、俺もいろいろ聞いてみた。なんせ、王国起源からこの国の神様やってるんだから、生き字引みたいなもんだろ?……ところがあいつ、ほんとうに政治向きのことに興味がないみたいで、ほとんど覚えてないんだぜ?



「枢密院ほんとうに王や国のことを考えられて作られた機関なのか、それとも違う意図があるのか?」



 こんな質問しても、



「えー?わかんない。枢密院?いつの間にかあるよね。役割?興味ないから知らなーい。」



 政治向きのことを聞いても、全部この調子だ。なにが全知全能だ、半知半能がいいとこじゃないか、国中に建てられてるヒュペリオン像が泣くぞ。と俺は思ったね。でも、歴代の「天啓」たちが、ほかの王と違って、なにかしらの功績を残してるのは確かなんだ。だから、俺は、この国の歴史を、天啓の王たちのことを王宮の書庫に籠って、自分の力で調べ始めた。すると、いろいろと家庭教師たちの言うことと矛盾があることに気がついてきたんだ。



 家庭教師たちは、枢密院ができたのは、七代目クラウディオ王のときに、参謀集団として成立したとか言っているけど、枢密院が正式に史書に登場するのは、その三代後、七歳で即位せざるを得なかったフェリペ王を補佐する場面だと言われている。そして、このフェリペ王の時代は暗黒の世代と言われるぐらい失政続きだった。国は混乱し、低迷したけれど、次代の王アウレリオがやはり天啓を受け、国を立て直した。アウレリオ治世のときには、枢密院はあったかなかったのかわからないぐらい、史書に登場していない。でも、これも家庭教師たちはまるで枢密院と王が力を合わせて世の混乱を収めたぐらいのたわ言を言ってくるんだ。



 枢密院の教える歴史と、ふるい史書の伝える事実、どっちが正しいのかとヒュペルに聞いても、相変わらず。



「わっかんなーい。覚えてなーい。政治に興味なーい。」



 とか言われてしまう。けど、あいつはふと言った。



「そう言えば、前の代の天啓王、レオンが書庫の二個目の床を外してみろ、みたいなことを次の『天啓の王子』に伝えろとか言ってた。」



 とか言い出した。俺は早速、夜になって護衛を巻いてから書庫に入ってみた。確かに重い床石をひとつ外すと、中から防虫草でぐるぐるに巻かれた古い古い書物が出てきた。それはレオンの日記で、レオンの前の代の枢密院たちが、権力をほしいままにし、悪行の限りを尽くしていたので、自分の代ではすべてそいつらを排除し、枢密院の無い治世を行った、みたいなことが事細かに書いてあった。

 でも、自分の代ではこのような治世ができたとしても、天啓の世が終わると、いつの間にかまたぞろ権力に群がる輩が湧いてきて、似たような集団が形成されていくだろう。それをどうやって防いでいくかが問題だ、とも記されている。



 俺も俺なりに考えた。そして、家庭教師たちの教える歴史の矛盾点をことごとく突いて行った。家庭教師たちが顔を蒼くして反論すると、



「ほう、俺がヒュペリオンから聞いた事実とは異なるな。」



 俺がそう言うと、あいつらは黙り込むしかなかった。やがて、家庭教師たちは俺が手に負えない、と思ったのか、一人、二人をその職を辞していった。そのことを知ったヒュペルには、自分の名前を勝手に利用したの、発言捏造だの腹黒だのさんざんののしられたけどな。あいつがレオンの日記のありかを教えてきたんだから、あいつが教えたのも一緒だと俺は思ってるけど。



 家庭教師たちが役立たない、となると、枢密院の差し向ける王太子の妃候補たちの攻勢が激しくなってきた。邪魔なバネッサはもういないし、色仕掛けで篭絡しようったって、こいつらの魂胆は目に見えてる。……だから、俺は英雄アダルベルトにならい、生涯独身でいい、と宣言した。他国の人質代わりの妃も、枢密院の手先の妃も俺の為そうとすることの障害でしかないからな。



 ……でも、この俺の宣言は、エリサルデ侯爵家をもっと苦しめることになってしまったんだ。



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