おせっかいクリスティアーノ
短いです、すみません。
やっと笑い終わったクリスティアーノは、ふと真面目な顔をして言う。
「……でもさ、おまえ、ヒュペリオンに自分の世界に戻してほしいとか言わないんだな。帰りたくないの?もとの世界に。」
「うーん……。」
梨亜は自分の足下に目を落とした。
「確かに私は義理の母に虐待されていたわけじゃない。けど冷遇されていたのは確かなんだよね。数年ぶりに帰って、歓迎してもらえるとは思えないし……それに、あっちでの学歴も中学一年の途中で止まっちゃってる。十七になって、いまから中学の勉強やり直して、キャリアウーマンになるのって、かなり道が遠そう。そのために、『学費出してください』ってあの母親に頭下げるのなんて、嫌すぎる。……それに、こっちで好きな人もできて、今は会えなくて離れ離れになっちゃったけど、帰ってしまえば会えないよね。……だから。」
梨亜は頭を上げた。
「一生王都から出られない、好きな人にも会えないっていうんなら、向こうの世界に帰ろうかなって思うけど、そうじゃないと思うから、もう少し、私、こっちでがんばってみる。」
ニッと梨亜は笑ってみた。クリスティアーノはそんな梨亜の顔を見て、ほっとしたように、「そうか」と言って、梨亜のベッドに勝手に寝転がった。
「ま、俺はお前がこっちにいてくれたほうが、嬉しいけどな。おまえがここに来て、ヒュペルがどっかにすぐ連れてっちゃったけど、『天啓持ち』が一人じゃないって思うだけで、俺は心強かった。天啓なんて、聞こえはいいけど、要はヒュペルによって人生を狂わされてる被害者だ。「天啓」のせいで、俺はなりたくもない王太子にならされたし、おまえは誘拐されて、独立戦争の陰謀に巻き込まれて、いまは軟禁生活だ。俺もおまえも、考えてた人生を歩めてない。そうだろう?」
「そう言われれば、そうだね。」
梨亜はくすくすと笑った。
「こんな時でも、おまえって笑えるんだな。」
ベッドから頭をもたげて、肘をつき、王太子は梨亜をまぶしげに見つめた。
「……そうだ、おまえの好きな男ってセリオ・フェルディナントだろ?会わせてやろうか?あいつを王都に呼び寄せたら、会えるぞ。」
「え、いや?違う違う。」
ぎょっとして梨亜は手を振る。
「私にとってセリオは商売の相棒で、同志だけど……セリオには悪いけど、結婚は全然考えられなかったな。」
「そうなのか!?それは……そうだったんだ。セリオ・フェルディナントの口ぶりでは、すぐにでもおまえと結婚したいみたいな感じだったから、てっきり俺……。」
クリスティアーノは腕を組んだ。
「おまえらが想い合って結婚するんなら、それはそれで良いんだけど、その後に南都で平穏な結婚生活が送れるとは到底思えなかったから、こうしてここへ連れてきちゃったけどさ。枢密院のおっさんらはともかく、俺はおまえの幸せを邪魔する気はなかったから、なんだったらセリオも王都に呼び寄せて、南都独立派と完全に手を切らせた上、フェルディナント男爵とは別の爵位でも授けて、おまえらを結婚させてやろうかな、って思ってたんだけど。」
「ノーサンキュー!そんなことしなくて結構です!」
真っ青になって、梨亜は両手を振る。
「いや、もうそういう打診の手紙をセリオに出しちゃったよ。俺。」
王太子は両手を上げた。
「クリスのお節介……。私の意志を確かめてから、そういうことしてよ……。」
梨亜は脱力した。
「そうか……すまんな。余計なことをした。テオバルドとの婚約話が、枢密院のゴリ押しで決まりそうだったから、俺にも焦りがあったな。そうだな、おまえの意志を聞いてからにすればよかった。まあ、セリオが王都に来たら、おまえから断り入れてくれ。俺が断ると、またなんか角が立ちそうだからな。」
クリスティアーノは頭を搔いた。
「どうも俺、恋愛とか無縁なもんで、そんな機微に疎くってな。まさかおまえにほかに思う人間がいるとか、想像もしてなかった。」
「いいよ……、後味悪い別れ方したから、セリオにはきちんと私から断り入れることもできてなかった。その機会をクリスティアーノが作ってくれたと思うことにする。」
そう言いながら、梨亜はふとクリスティアーノの言葉にひっかかった。たしか、クリスティアーノはテオバルドの下のお姉さんが駆け落ちしたから、一生独身みたいな話があったような。
「……ねえ、クリスティアーノはなんで一生独身って決めてるの?忘れられない人がいるとか?」
そう言うと、クリスティアーノはふっと苦い笑みを見せた。
「おまえ、バネッサのこと、言ってる?」
「……うん。」
梨亜はためらいながらうなずいた。
「よし、バネッサのこと、話してやる。どうもその辺、エリサルデ家の連中に誤解があるようだから、一度しっかり誰かに話しておきたかったんだ。誰にでも言えることでもないしな。」
そう言って、クリスティアーノは語り始めた。それは、失恋とか、そんな甘苦い話ではなさそうだ、ということはクリスティアーノの引き締まった表情でそれと知れた。




