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神様に会いました。

 突如、梨亜たちのいる部屋の壁が光り輝いたかと思うと、その中からすうっと人影が現れた。その人物は、二人を指さすと絶叫した。


「あーっクリス、とうとう梨亜をつかまえちゃってるーっっっ!離せーっこらーっ!」


「うるさい、黙れヒュペル。」


 王太子はうっとおしそうに言い、ますます梨亜を抱きしめる手を強める。


「俺はこいつを保護してるだけだ。おまえが勝手に攫ってきたせいで、この子ひどい目に遭ってるぞ。」


「何言ってるんだよっ。梨亜は誰よりも幸せに、今頃は南都で、一、二を争う裕福な家の息子と結婚してるはずだったんだよ?」


「もしそれがすんなり言ってたら、今頃、この子は独立戦争の旗頭だぞ。おまえはそれを『幸せな生活』って言えるのか?」


「知らないよ!人間が勝手に起こす戦争なんて、それを収めるのがクリスたちの仕事でしょ?」


「だからそれを全力で回避してんだろうが!おまえがやってることはこの子を独立運動の燃料にしてるのと一緒だぞ!めんどくさいことしやがって。」


 青筋を立てて怒鳴りあう王太子と神様の姿を、梨亜はあっけに取られて眺めていた。えーっとヒュペリオンさまって、この国唯一の絶対神で万能神なんだよね?なんでこんなにポップな感じなんだろう。それにこの神様、大きな誤解をしている気がする。


 梨亜はヒュペリオンと怒鳴りあうことで集中力が削がれたのか、少し力のゆるんだ王太子の腕からするりと抜け出して、神様に向き合う。


「えーっと、お久しぶりです。ヒュペリオンさま。」


 梨亜は一応、丁寧に頭を下げる。神様なんだから、敬意は払わなくっちゃ。


「あの、二、三お聞きしたいことがあるんですがいいでしょうか?」


「いいよ、梨亜。あいかわらずかわいいね。クリスにひどい目に遭わされてない?」


 ヒュペリオンににっこりと微笑まれる。が、梨亜は真面目な顔でヒュペリオンに尋ねる。


「私はなぜ、このオーキッド王国に連れてこられたんでしょうか?私が果たすべき役割、とかがあるのなら、うかがいたいのですが。」


「ん?役割?ないない。だって、きみはとーってもいい子なのに、ひどい母親にいじめられて、すごく可哀想だったじゃないか。全然食べさせてもらえなくて、やせ細ってるのに、飢えた野良猫たちに自分の食べ物を分け与えてやるなんて……。」


 ヒュペリオンは目を真っ赤にうるませて、梨亜の手を取る。


「エッカルト(マティアス公爵の名)もね、最愛の妻と子を早くに亡くして、寂しかったと思う。だから、きみを連れて行ったら、すごく喜んでたでしょう?ぼくは君の黒髪黒目を見て、ピンと来たんだよ、ああ、この子、エッカルトの愛した妻にどこか似てるなって。だから、運命だったんだよ、天啓の子。かわいいきみは、最初っからエッカルトの孫だったようなものだ。」


「……盛り上がってるところ、すみません、訂正を入れます。」


 冷めた目でヒュペリオンのうるんだ瞳を見返す梨亜。


「私は確かに義理の母親と折り合いが悪かったですけど、べつに虐待はされていません。確かに十日に一度ぐらい、食物テロぎりぎりみたいなとんでもない食事は出されてましたけど、そのほかは十分食べられるものでした。基本的にあの義理の母親はケチで、無駄が大嫌いなので、食物テロはもったいなくてなかなかできなかったのでしょうね。また、近所の人の手前、いい人ぶらないといけないので、暴力ふるったり食事を出さないというあからさまな虐待もなかったです。私が痩せているのは体質です。いまだって、いいもの食べさせてもらっているけど細いままです。」


「あ、う………、そうなの?」


 ヒュペリオンはたじたじとする。


「あなたがここに勝手に私を連れてきたおかげで、私のあちらでの夢、キャリアウーマンと玉の輿の夢は泡と潰えましたが、それはまあ、猫を勝手に増やした罰だと思っているからしょうがない、受け入れます。でも、私が猫にエサをやっていたのは、義理の母の庭を猫に荒してもらいたいからであって、けして『飢えた猫がかわいそうで、自分の食べ物をけずって与えていた』わけではありません。」


「え、いや、きみがそんな意地悪なこと、考えるわけないよ、ね?」


 ヒュペリオンの目が泳ぎはじめる。そんな神に、梨亜は重ねて尋ねる。


「……でも、自分の行動が愚かだったことは反省しています。お聞かせください。マリの子猫たちは、その後どうなりましたか?」


「それはぼくが長寿と子孫繁栄の祝福を与えたから、いまごろじゃんじゃん子猫産んでるんじゃないかな?」


 なぜか自信たっぷりにいうヒュペリオンに、梨亜はむらむらと怒りが湧いてきた。


「バカー!それは日本における猫の幸せじゃない!あなたのやったことは迫害される不幸な野良猫をむやみに増やしただけです!あなたは私と同じ過ちを犯してる!神様なのに!」


「へっ!?」


 梨亜の剣幕に、ヒュペリオンが二、三歩飛び退る。


「いいですか!わたしの国における猫の幸せとは!猫好きな幸せな家庭に飼われて、必要以上に数を増やさないように獣医さんに避妊手術をしてもらうことが一番だと言われています。野良猫になると、伝染病にかかったり、車に轢かれたり、結局短命に終わるんです。あなたは、マリとマリの子猫たちをそんな目に遭わせたいんですか?罰を与えるなら私一人にしてください。マリの子猫たちを正しく幸せにして!今すぐっ!」


 梨亜の据わった目とくいっと上げられた顎を見て、ひっとヒュペリオンは息を呑んだ。


「い、いますぐ梨亜のもとの世界に行ってくるからっ。許してっ。」


 ヒュペリオンは早口でそういうと、その体は金色の光に包まれ、そして、ふっとかき消すように見えなくなった。


 瞬間、クリスティアーノが爆笑した。


「おまえ…面白すぎるわ。ヒュペルを会った瞬間あごで使うとか、なかなかできるもんじゃねえけどな。」


 言われて、梨亜は真っ青になった。


「どうしよう。神様に命令しちゃった。全知全能神なのに……神様が帰ったら私、天罰食らう?」


「いや、おまえなら大丈夫だろ、……たぶん。」


 そう言って王太子クリスティアーノは笑い続けていた。


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