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弟子入りさせてください!

 帰ってから客室にこもり、梨亜はせっせと手紙を書きはじめた。おじいさまの体調を気遣う内容、そして、王都に来て、縁あってエリサルデ侯爵家にお世話になっていること、王都が楽しいのでしばらくこちらに滞在する、と記しておいた。変わったことがあれば、すぐに知らせてほしい、とも。


 そして、フェルディナント男爵夫人に手紙を書いている途中に、客室のドアがノックされた。梨亜が出てみると、侯爵の使用人がぞろぞろと梨亜の部屋に入ってくる。それぞれに手には大きな荷物を抱えて。梨亜があっけに取られていると、使用人が言った。


「南都からのお届け物です。差出人は、フェルディナント男爵夫人からです。」


 梨亜がタイミングの良さに驚きながら荷物を開けてみると、梨亜が「真珠姫」として南都で使っていたドレスの数々と、そして小型のケースにぎっしりと「真珠姫」ご用達ブランドのアクセサリーが詰まっていた。


 荷物にはフェルディナント男爵夫人からの手紙が添えられている。


「大好きなリアナ!王都で元気にしているかしら。リアナが最後に残してくれた回りながら光るアクセサリーは大当たりよ!南都の人間はリアナが、南都を救ってくださった公爵さまの娘だとわかり、ますます『真珠姫』の人気が高まっているの。うちの商会はリアナのアクセサリーを求めて、ひっきりなしに人が来るわ。これはリアナの使っていたアクセサリーと、それに加えてそれと同じものを三点ずつ用意しました。『真珠姫』の退職金代わりだと思ってほしいわ。またいつかわからないけど、あなたに会えたらうれしいわ。セリオはしばらく落ち込んでいたけれど、王太子さまから親切な手紙をいただいたみたいで、少し元気を取り戻したみたい。こちらはみんな元気だから、心配しないでね。」


 梨亜は心が温かくなった。あんな出立の仕方で、別れもきちんと言えなかったけれど、フェルディナント家の人々とはこれからも友好的な関係を築いておきたい。


 それから、梨亜は侯爵家の使用人にお願いして、馬車を仕立てて、街に出ることにした。もちろん、一人ではなく、いまはリアナ付きとされている公爵家の侍女も一緒に。


「ねえ、この辺で人気のある装飾品のお店はどこかしら?」


「中央通りのカルベロンのお店を、亡くなった奥さまも、嫁がれたお嬢さま方も御贔屓にされていました。」


「じゃあ、そこに連れて行ってくれる?」


「承知しました。」


 梨亜の目的はいろいろある。まずは王都でのアクセサリーの流行の型を知ること、それから、職人の腕のほどを知ること、である。


 梨亜はカルベロンの店に入って、目を見張った。装飾品に使われる金の台座には、様々な意匠が施されている。蔓薔薇であったり、小鳥であったり、これまで見たこともない細かな技法に梨亜は感嘆する。


「さすが王都ね…、職人の腕もなかなかのもの。」


 石は全体的に南都の主流のものよりも小さめである。それよりも台座の細工の見事さが、王都のアクセサリーを引き立てている。


「素晴らしいわ。」


 カルベロンの女店主が揉み手をしながら近づいてきた。


「まあまあ、異国のお嬢さま、ご旅行ですか?王都のお土産にひとつ、こちらのブローチなどいかがでしょうか?」


 梨亜の見た目から、異国の令嬢、と見なされたようだ。


「ええ、いま手持ちがなくって。また今度いただきたいわ。……それよりも、ここの職人の腕は素晴らしいわ。これを作っている方に会わせていただけないかしら?」


「はっ?」


 女主人は突拍子もない梨亜の申し出に驚き表情を固める。


「当店の職人は、最高級の腕をしていると自負しております。ですが、いくらお嬢さまでも、引き抜きはなりませんよ。オーキッドを離れて異国に連れて行かせるわけにはいきません。」


「あら、そんなつもりはありません。私がしたいのは、弟子入り。この職人さんに、この技術を習いたいの。それに私の描いたデザインがこの職人さんに作れるかどうかも知りたいし。」


 梨亜は女主人の手を取る。


「お願い!職人さんに会わせて!私を工房に連れて行ってほしいの!」


「困ります!お嬢さま!」


 女主人は梨亜の必死のお願いに悲鳴を上げて逃れようとしたので、逃すまいと梨亜は必死で女主人の手を引き止める。


「お願いよ!」


「なりません!」


 ……結局、侯爵家の侍女が止めに入る事態となり、梨亜の突撃!弟子入り志願は失敗に終わった。


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