策を練る。
帰りの馬車の中でテオバルドは荒れていた。
「なんで俺がこんな目に遭うんだクソッ。とんだ貧乏くじじゃないか!」
こっちだってあんたとの結婚はごめんこうむる、と梨亜は思いながら冷静に考えていた。
「勅命は五年間私が王都に滞在する、ってことだけで、あなたとの結婚は含まれてなかったから悲観する必要はないわよ。なんとか結婚を回避する方向で手立てを考えましょう。」
「でも枢密院の意見は絶対だ。一年経っておまえが誰かと婚約しなければ、俺とおまえの婚約が勅命で下るだろう。……なんで俺の家にポロネーシュなどの野蛮人の血を入れなくちゃいけないんだ。」
南都人と王都人ではこうも考えが違うのか、と怒るのも通り越して梨亜は感心してしまった。
「王都の人はよほどの純血主義なのね。ポロネーシュだけでなく、西方の国や北方の国の血も入れたくないの?」
「当たり前だ。俺は貴族だぞ。」
「おじいさまはもと王族だけど、ポロネーシュの花嫁を娶ったわよ。」
「おまえの祖父が変人なだけだ。ふつうのオーキッドの貴族や王族はそんなことは断じてしない。」
「……でも、王様の後宮には各国の美女が集められている、って聞いたけど?」
「ほうぼうの国が勝手に献上してくるだけだ。国王は手も触れない。」
「…それもひどい話よね。それだったら祖国に返せばいいのに。」
「人質も兼ねてるからな、そうもいかないんだろ。……おまえ、やけに冷静だな。」
非常事態に落ち着きを見せている梨亜に、テオバルドも頭が冷えてきたようだ。
「かっかしたってしょうがないじゃない。とにかく結婚を回避する方法を考えてるのよ。……とにかく、私があなたの屋敷を出て、身を立てて生きていける手段を考えないとね。」
梨亜が考え込むと、テオバルドは鼻で笑った。
「おまえに何ができるんだよ。公爵家の温室育ちで、南都でもちやほやされてきただけのご令嬢が。」
「あら、私はその辺の女の子よりずっと稼いできたのよ?これでも。」
「おまえが?……どんないかがわしい手で?南都の成金の愛人とか?」
テオバルドが汚らわしそうな目で上から下まで梨亜を見るので、梨亜はむっとする。
「なに考えてんのよ!嫌らしいわね。私がやってたのはアクセサリーの創作販売。『ポロネーシュの真珠姫』は商品のブランド価値を高めるための戦略のひとつよ。」
「……おまえ、変わった女だな。」
テオバルドは今度は珍獣を眺めるような目で梨亜を見る。
「おまえの祖父はその辺の貴族よりずうっと金持ってるだろ?おまえ一人遊んで暮らせるぐらいの金、ぽんと出せるだろうに。」
「私は私の力で生きたかったの。そのために南都でがんばってたのよ。ちょっと頑張りすぎちゃってたけど。……だから、一か月したらお休みして、私は旅に出る予定だったの、真珠姫をやめて。私の好きな人と。」
「副議長の息子と新婚旅行か?」
「違う。全然違う人。その人と、北都や西都、いろんなところを見て回る予定だったの。しばらく南都じゃない場所で一緒に暮らそうって話しも出てたのに……。誰かさんに邪魔されなかったら、私、いまごろどこか違うところを旅してたかもね。」
梨亜の話すことに、テオバルドの顔色が変わる。
「それじゃ、なにか?おまえって、俺が連れ出さなくても副議長の息子とも結婚せず、南都も出る予定だったってことか?」
「ええ、そうよ。ほんと、あんたって何やってるんだろうね。」
「それを早く言えよ!」
「問答無用で連れ出したのはあんたでしょうよ。勅命まで下っちゃって、どうしてくれんのよ。」
「うわああああああ。」
テオバルドは頭をかきむしり始めた。義憤にかられて?取ったおのれの行動の愚かさをやっと知ったらしい。梨亜はその姿を見てちょっとだけ溜飲が下ったが、少しばかりすっきりしたからと言って、事態が変わるわけではない。
「ともかく、なんとかしてあんたとの婚約や結婚は回避しなくちゃ。」
梨亜は目をつぶった。おじいさまやフェルディナント男爵夫妻、セリオに手紙を書かなくては。そして、……もうペペを連れて旅立ってしまっただろうロレンソ先生にも。でも、先生は南都の家にいつ帰るのだろうか。二、三年は帰らない予定、って言っていたけれど。……でも、なんとかして、先生と連絡をつけたい。五年間、先生は待ってくれるだろうか?梨亜はじっと考え込んでいた。




