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南都独立問題…侯爵の解説

説明回です。久々の更新がこんなのですみません。

侯爵はゆっくりと話し始めた。



「三十年前の大旱魃だいかんばつの際に南都と王都の間に亀裂が入ったのは、知っているかね?あと、南都の危機を、きみの祖父が救ったことも。」


 梨亜はうなずいた。


「祖父から聞いたことはありませんが、南都の人から教えてもらいました。災害の復興税を王都には課さず、南都にだけ課して、南都は大不況に陥ったそうですね。」


「そう、南都の人間はそう捉えているだろうね。事実はまた少し違うのだが…。」


 侯爵は執務室の机の上で、肘を立て両の指を組み合わせた。


「この土地が王都と定められたのはアダルベルトさまの時代で、そこからずっと変わらず、ここは王都なのだが…。それはここがすべての国の国境から一番離れ、なおかつ西都、北都、南都の中間に位置している、という理由と、急峻な山と街の東側は断崖絶壁で、海からの攻撃に遭いにくい、という戦国の世ならではの理由があったと思う。旅をしてみて、きみは感じなかったかね王都に平坦な土地が極端に少ないことを。」


「それは、すこし思いました。」


 海と平野で開けた南都と違い、理路整然と区画整備された王都は、美しいが、迫る山に圧迫されて、少し息苦しい。


「王都は城塞都市としては機能しているが、産業の発展を考えるには、少し不便だ。その点、南都のほうが産業の街としてはすぐれているだろうね。豊かな海と港を持ち、街の東側は広大な穀倉地帯、西側の山脈からは鉄や錫の鉱脈があり、他国との交易も盛んだ。いっぽう、王都は産業が発展しにくいため、貴族相手の商売をやっているところ以外は意外に貧しく、国の中でもっとも貧富の差が激しい土地だとも言える。そこへ、南都と同じような一律の税を貸すと、王都そのものが街として機能しなくなるおそれがあった。」


「……それで南都だけに重税を?」


 梨亜がそう問うと、侯爵は首を振った。


「税、という形ではないが、貴族にはそれぞれ負担を課した。まず、爵位に応じての下賜金というものが廃止され、自らの領地からの利益だけで暮らすように、と王宮から各貴族に通達が出た。それに加え、余裕のある家はそれなりの寄付を出すように、と義務付けられた。あの当時の貴族たちはそれまでの豪奢な暮らしを捨て、質素倹約に努めた。とくに領地が旱魃かんばつ地域にあるものは、かなり苦労したと思う。王宮からの下賜金は出ず、自らの領民が飢えかかっている。だからこそ、一律の税ではなく、寄付、という形にしたということもある。」


 リベーラから聞いた話とは少し違うようだ、と思いながら梨亜は侯爵の話を聞いた。


「その話は正しく南都には伝わらなかっただろうと思う。また、それにしても南都に課せられた税はけた外れだった。一部の貴族には、南都の人間への妬みがあったのだろうと思う。国の中であれほど栄え、豊かな街はほかにないからね。おまけに国の中で、唯一といっていいほど、旱魃かんばつ被害とも無縁だったのもある。貴族のくだらない矜持が、南都を不当に苦しめてやろう、という気持ちがあったのも否めない。しかし、重税は想像以上に南都を苦境に陥れた。暴動が起こる寸前だったとも言う。もともと、国境争いが無く、自治が盛んな南都には、王宮騎士団は常駐しない。南都の人間の自警団があれば十分だ、と南都の議会が言うので、余分な出費を抑えたい王宮と思惑が一致して昔からそうなっているが、結果、南都はおなじオーキッドでありながら、まるで自治国家の様相を呈している。かれらと我々をつないでいるものはヒュペリオンさまへの信仰心と、英雄アダルベルトへの恩義だけ、という情けないありさまだ。旱魃かんばつに追い詰められた王都の貴族のくだらない嫉妬は南都とオーキッドをつなぐ細い糸さえも切ってしまう恐れがあった。それをつなぎとめたのが、きみの祖父、というわけだ。」


 侯爵はふとい息をついた。


「公爵に降りたとはいえ、もともとは王族であったきみの祖父がした、身を削っての関所解放は、少なからず南都の王宮への敵対心をゆるめた。そして、きみの祖父が行った鉄鋼事業は南都を不況から救い、完全に南都は息を吹き返した。きみの祖父は南都の英雄であり、王宮にとっても大恩があるかけがえのない人物なんだ。」


「……ではなぜ、祖父は『忘れられた王弟』などと呼ばれ、あんなに引きこもっているのでしょうか。」


 梨亜は不思議に思った。領地からほとんど出ようとしない祖父。年のわりに健康ではあるが、南都にも王都にも、けして足を向けようとしない。梨亜のデビューすら人任せだった。


「そこだ。一触即発の危機は去ったが、南都が力をつけ、隆盛してくると、またも独立問題がくすぶってきた。今度は力ではなく、穏便に旧国カリエンテを復活させようという運動が出てきた。しかし、一方で、英雄アダルベルトの血を引く王族への人気と敬意も一定数ある。そこで、れっきとした元王族であるマティアス公爵家の血を引く人間を、独立国家カリエンテの王族にしよう、という動きが持ち上がった。しかし、きみの祖父はその政治運動に加担する気はなかった。かといって、王都に帰るのも得策ではない、と領地から一歩も出ないようになったんだ。もともときみのおじいさまは王位継承争いを避けるために臣籍降下して王都から遠く離れたいまの領地に行かれた、という話だからね。王都も敬遠したい、南都の独立問題からも距離を置きたい、そういう気持ちが、公爵さまが領地から離れられない理由ではないか、と思うんだよ。私の推測だがね。」


 侯爵でもあり、宰相でもある人は、そこでじっと梨亜の目を見つめた。


「南都の議会も一枚岩ではない。爵位を持たず、南都よりも『カリエンテ』の呼称を好む人物は独立派、一方で爵位を得て、『南都』と正しい呼称で呼ぶ人々は穏健派で、南都の議会はその二派で二分していると思うが、穏健派の筆頭はきみのよく知る、フェルディナント男爵だ。一方で、独立派の筆頭はわかるかね?」

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