鋼鉄王に楯突く。
「公爵さまは、現在は確かに豊かに過ごされている、と思う。しかし、残念ながら、ああして奥さまと息子さんとも早く死に別れ、心の底から幸せだった時期というのはわずかだったんじゃないかと思う。きみという落としだねが見つかったのは、まさに神の僥倖だね。公爵さまは、早逝してしまったご家族のぶんも、君に幸せになってほしいんじゃないか?私からもきみにお願いするよ。カリエンテで幸せな結婚をし、そして、公爵さまの晩年に寄り添ってあげなさい。」
「私は…。」
梨亜は口ごもる。リベーラの言うこともわからないではない。しかし、梨亜はあくまでも神様フェルディナントによっておじいさまのところに数年預けられただけの、あかの他人だ。そんな自分がリベーラの言うようにおじいさまの晩年に寄り添うことが、ほんとうにおじいさまの幸福につながるのだろうか?
「私には……わかりません。あなたのおっしゃるように私が生きることが、おじいさまの幸せに、ほんとうになるのですか?おじいさまは私に言ってくださいました。『リアナは自分の好きなように、幸せに生きなさい』と。そして、私は気持ちの持てないセリオと結婚することが、自分の幸せだとは思えないので、彼との結婚は考えていません。」
「きみは相当に頑固者だな。」
リベーラの額に青筋が立つ。
「『真珠姫は英雄の花嫁』などと祭り上げられていい気になっているようだが、現代に英雄などいない。いるとしたら君の祖父ぐらいのものだ。現王太子は天啓を受けて『現代の英雄』呼ばわりされているが、彼はまだ何も為してない。三千年前の祖先の七光りに過ぎん。それなのに、町娘たちは、王太子ときみが結ばれると信じて疑わず、きゃあきゃあと下らぬ噂に高じている。それに惑わされるな、と私はひとこときみに釘を刺したかったのだ。王都に住まう王族、貴族などくだらぬものだ。私にも何度も男爵の爵位を与えよう、と王宮から使いが来たが、私はすべて断っている。あの大旱魃の時、やつらはカリエンテに何をした?そう思うとはらわたが煮えくり返り、奴らがくれる名誉など、ゴミにしか思えぬ。さっさと王太子などあきらめ、セリオ・フェルディナントと結婚してこのカリエンテに根を降ろせ。」
……やっと梨亜に納得がいった。リベーラはロレンソ医師と梨亜の出奔計画を知っているわけではなく、梨亜と王太子が結ばれ、王都に行ってしまうことを阻止しようとしているのだ。
「お言葉ですが、私は王太子殿下には興味はありません。それと同じぐらい、セリオとの結婚にも興味はございません。私の幸せは、私自身が探します。」
それだけ言って、梨亜はさっと立ち上がった。
「セリオはいい人で、商売のタッグを組んだ戦友のように思いますが、友人としか思えず、一生をともにしたいとは考えておりません。それとご報告なのですが、リベーラさまの忠告通り、『ポロネーシュの真珠姫』はあと二か月ほどで辞めさせていただく所存です。よって、王太子殿下ともお会いすることはないと思います。ご心配おかけしました。」
切り口上で捨て台詞を言い、優美な貴族の礼を嫌味ったらしく取ってやると、梨亜はくるりとリベーラに背を向け、四阿をあとにした。「おせっかいじじいめ。」と口のなかでつぶやきながら。
その背中をマヌエル・リベーラはあきれたように見送った。
「気の強い娘だ……。だが面白い。」
リベーラはにやりと笑った。
「あの娘、わしの計画にどうしても要るな。」
リベーラはひとりごちて、不気味な微笑みを絶やそうとしなかった。メイドは無言でリベーラの空になったタンブラーに水を注いだ。




