リベーラの昔語り
「まあ!この人が!」
夫人が好奇心で目をいっぱいに見開く。
「初めまして、リアナ・オルガ・セルバンテスです。リベーラご夫妻におかれましては、ご機嫌うるわしゅう。」
梨亜はしずしずと礼をする。
「まあ!噂以上に綺麗なお嬢さんね。黒曜石のような輝く目に光る肌、……今日は噂の額飾りはしていないの?」
「はい…今日は真珠姫はお休みさせていただいて、ただのリアナとしてここに参りました。」
「残念ねえ…。孫娘があなたの大ファンでね、絵本を持ってきては、いつも『おばあちゃん、わたしおおきくなったら、しんじゅひめさまになるの』なんて言うのよ。」
「でも、リアナが普段つけている装飾品の数々は、今日持参しましたので、ぜひ、あとでご覧になってください。息子さんのお嫁さんたちへのお土産だけでなく、ルイサおばさまにもぴったりのものもございますよ。」
「まあ…、いつの間にかセリオも口がうまくなって。じゃあ、お茶が終わったらゆっくり見せて頂戴。あなた、いいでしょ?」
「ああ、いいとも。好きなものを好きなだけ買うと良い。」
鋼鉄王は鷹揚に言い、夫人はうきうきとセリオを奥に引っ張って行った。その場に取り残されたリアナを、リベーラはじろりと見て、
「うちの自慢の庭園を私がご案内しよう。こちらにいらっしゃい。」
と有無も言わさず先に立った。それからしばらく歩き、高台の四阿に着くと、座ることをうながされた。庭園の中には川を模した水が流され、大きな池には睡蓮のような花が咲きみだれ、遠くに見える邸内の前には大きな噴水が見える。フェルディナントの庭園もそこそこに広いが、このリベーラ邸とは比べものにならない。かれが鋼鉄王と呼ばれるゆえんが垣間見えるようだ。
「素晴らしい庭園ですね。それにものすごく広いです。」
「なに、広さなら、公爵邸の庭園には負けるだろう。」
そう言われて、梨亜は黙した。祖父のことを、このリベーラはどれだけ知っているのだろうか。リベーラはまた口を開いた。
「現在、私はこの南都で、一番豊かな男と言われ、その自負もある。庭園をこの程度にしておかないと、示しがつかないのもある。」
自慢……?梨亜が眉をひそめると、リベーラは言葉をつづけた。
「だが、今の私の地位も、財産も、すべてきみの祖父によるものだ。三十五年前、私は貧しい鍛冶屋に過ぎなかった。それを、君の祖父が目をかけてくれ、自分の鉄鉱山の採掘権を私にくれたんだ。会社を設立する出資金も負担してくれ、やがて会社が儲かるようになると、私は公爵領に隣接していた山を買った。そこも鉄鉱石が出る鉱山だろうと、公爵様が言ったからね。公爵様の目利きは当たり、今や、オーキッド王国鉄製品の八割はうちの鉱山がもたらすものだ。」
「知りませんでした……そのようなこと。祖父が鉱山をもっていることも。」
「あなたのおじいさまは余計なことを語らないからな。……でも私は知っている。公爵様はだれよりも賢く、本来ならばオーキッドの王となってもおかしくない人だ。もし王位に立たれていたら、賢王として、名を馳せられただろうな。だが、公爵様はそうしなかった。そしてもう一つ、公爵様は南都の危機を救った恩人でもある。」
リベーラの言葉に梨亜は目を見張った。リベーラの語るおじいさまは、「忘れられた王弟」などと呼ばれ、ひっそりと引きこもっている物静かな老人などではない。
「聞かせてください……おじいさまはどうやって、南都を救ったのですか?」
「うむ。」
リベーラはゆっくりと語り始めた。
短いので今日は夜も更新します。21時ごろです。




