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辞めさせていただきます。

「真珠姫をやめる?」


 セリオに告げると、セリオは少し驚いた顔をした。


「もちろん今すぐに、っていう話じゃないの。この社交シーズンが終わるまではやり遂げる。でも、それで終わりにしたいの。それから、一度、領地に帰りたい。」


「そして、そのあとは?また戻ってくるんだよね、南都に。」


「ううん。」


 梨亜はきっぱりと首を横に振った。


「私、旅に出ようと思うの。アクセサリーのデザインをしながら、私、思った。この世の中にはきっと、いろんな美しいものがあるんだろうけど、私はそれを知らなすぎる。もっと色んなことを知らないといけないと思うの。ここだけじゃなく、西都や北都、王都にもいろんな文化や、こことは違ういろんなアクセサリーもあるだろうし、もしかしたら私の知らない技法とかもあるかもしれない。だから、旅をしながら、私いろいろ発見していきたいの。」


「そして、そのあとは?」


「自分の工房を持ちたい。ただデザインして、職人さんにお任せするんじゃなくて、自分の手でも作ってみたいの、いろんな綺麗なものを。」


「……それって、南都で、だよね?」


 セリオの目がひたと梨亜の瞳を見すえる。


「たぶん。」


 梨亜は目を伏せる。


「……嫌だ。」


 セリオは梨亜の手を取る。


「『真珠姫』をやめるのは、僕は大賛成だ。なにが嬉しくて、自分の好きな子がほかの男と毎晩踊るのを見てなきゃいけないんだ、と思ってた。同業者には、『フェルディナントは跡継ぎの婚約者にあんなことまでさせて、なりふり構わないな』なんて陰口叩かれて、悔しい思いもしてた。でも、リアナが自分のアクセサリーを売りたい、という気持ちが強いのが分かってたから、僕も目をつぶって協力してきたんだ。夜会が終わって、リアナが僕の手の中に戻って来る瞬間が、僕は一番好きだった。僕の腕の中で疲れて、素の顔を見せてくれるリアナを見て、僕はほっとしていた。こんなこと早く終わればいい、って誰よりも思っていたのは僕自身だ。」


 そう言ってセリオは梨亜の指先に口づけた。


「真珠姫をやめるなら、僕と結婚してほしい。旅行なら、一緒に行こう、西都でも、北都でも、新婚旅行で。僕の仕事もあるから長くは滞在できないかもしれないけど、ふたりでいろんな発見しようよ。」


「セリオ……。」


 梨亜は予想していたこととはいえ、ほとほとと困る。


「私の気持ちはまだ、結婚まで行っていない。それは今も同じなの。それに、私は一か月足らずの観光旅行をしたいわけじゃない。このオーキッド帝国をくまなく見てみたいのよ。それに、私は南都は大好きだけど、ここでは顔が売れすぎた。何年かここを離れて、ほとぼりを冷ましたいの。」


「じゃあ、聞くけど、リアナはいったい誰と旅に出ようって言うの。……まさか一人じゃないよね。」


 セリオの声が地を這うように低くなる。


「それは……。」


 言わなきゃダメなんだろうか、と思ったけれど、黙っていてもしょうがない、と梨亜はあきらめて、すぐに言った。


「ロレンソ先生。」

「ダメだ。」


 セリオの顔色がはっきりと変わる。


「聞いて、セリオ、先生と二人きりじゃないの。双子の兄のほうのペペも一緒なの。一緒に北都の山を見に行こうって話をしてて、そのあと、西都にも一緒に行くの。」

「そのあとは……?」

「そこから先の予定までは、まだ聞いていない。」


 梨亜はそう言った。詭弁だとは自分でわかってはいたが。


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