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高まる人気と梨亜の苦悩

再開しました!

 南都の社交シーズンが始まった。覚悟していたとはいえ、なかなかのハードスケジュールだった。梨亜だけではなく、セリオもだ。

 思惑通り、「真珠姫」の装いは大評判となった。エルンスト館の公的な催しだけでなく、あちこちの屋敷の夜会にも呼ばれ、梨亜は微笑みながら優雅に舞い踊る。梨亜の額につけられた輝きを、人々がうっとりとして眺める。梨亜がほかの人に乞われて踊っている間に、セリオもほかのご婦人方と踊る。そして踊りながら尋ねられるのは、「真珠姫」の装いのことで、セリオはにっこりとしてこう言う。

「あれは商会のほうではまだ売り出しておりません。作るのが難しく、貴重なもので数が限られておりますので。でもお美しい貴女にはお似合いだと思いますので、後日、うちの外商のほうがあなたのお屋敷にお伺いしても構いませんか?」

 こう言えば、うなずかない女性はいない。外商部の売り上げが前年度の三倍に伸びた、と男爵が嬉しそうに言うけれど、それは若い二人の体を張った商戦の結果である。帰りの馬車の中で、セリオは梨亜に言う。

「疲れただろう、リアナ、少し僕にもたれて休んでもいいよ。」

「いいよ、セリオも疲れてるのに。…今日は一体何曲、私たち踊ったのかしら?」

「僕は大丈夫。これでも体力に自信はあるほうだから。さあ、おいで。」

 セリオの手が肩に回る。梨亜はぐったりとして逆らう気も起きない。もう瞼が重くて開かなくなってきているのだ。セリオの体にもたれて、寝息を立てはじめる梨亜の額に、梨亜に気づかれないようにセリオが口づけているのも、疲労困憊している梨亜は知らない。


 どんなに夜会で疲れていても、レッスンの日以外は開店と同時に梨亜は商会の売り場の店頭に立つ。借金をなるべく早く返したい、というのもあるけれど、「真珠姫」目当てのお客さんが来店する以上、梨亜がいないことでがっかりされるというのも心苦しいのだ。

 「真珠姫」の人気は日に日に高まっていく。多忙な日々をこなしながら、梨亜は一方で、いつまでもこんなことは続けていられない、とも思う。


 「真珠姫」はいわばアイドルだ。あれほど皆に止められたにも関わらず、男爵夫人は英雄と真珠姫の絵本を勝手に作って、あちこちに配布させてしまった。おかげで、梨亜の人気は小さな子どもの間にも広がってしまった。しかし、こんなバブル的な人気はいつまでも続くはずはない、と梨亜は冷静に思う。アイドルの人気はいつかは落ちるもの。十六、七の梨亜が「真珠姫」をやるのはいいが、これが二十代となり、三十代にもなって「真珠姫」をやるのは無理がありすぎる。落ちぶれたアイドルほどみじめなものは無い。人気のあるうちに、どこかで綺麗に幕引きをしたい、と梨亜は思っていた。

 キリをつけるのは、もちろん医師への返済を終えたときが梨亜は一番いい。でも、フェルディナント商会としては、これだけの売り上げを「真珠姫」効果で叩き出している以上、簡単にはやめさせてくれないかもしれない。でも、彼らにもいつかわかるはずだ。「真珠姫」を梨亜が長くはやれないことは。問題はそのあとだ。商会にとって、一番の真珠姫の綺麗なエンディングは、セリオと真珠姫の結婚だろう、とは思う。「英雄の花嫁」だったはずの真珠姫がセリオと結婚するにあたっては、また男爵夫人が適当に物語を作ってしまうかもしれないが。英雄を失い、失意の真珠姫を救い出す騎士としてセリオが登場するのかもしれない。


 セリオのことは別に梨亜も嫌いじゃない。いい人だとは思うし、梨亜のことも大事にしてくれる。けれど、純粋に梨亜のことを求めてくれているのかどうか、と思うと、梨亜はノーだ、と思ってしまう。梨亜の黒髪、黒目はただでさえ「女神の血」として南都では珍重される。さらに、それに加えて今は「真珠姫」という付加価値が加わった。さらに、梨亜はアクセサリーデザイナーとしてたくさんの商品をヒットさせてきた側面もあり、いろんな意味で、梨亜は商会にとって「おいしい存在」であることは間違いないだろう。セリオと梨亜の結婚は純粋な恋愛結婚ではない。商会にとっての戦略的結婚になる。梨亜は、プライベートのことをそこまで割り切ることはできなかった。


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