お休みの日はもちろんこちらです。
医師の診療所には、休診を表す大きな白い旗が掲げられている。
「おはよう、ペペ、ピア、久しぶりね。ごめんね、遅くなって……。」
「おねえちゃん!なかなか来てくれないんだもの!待ちくたびれちゃった!」
ピアが笑顔で飛びついてくる。医師の旅立ちの日に見せた寂しげな表情はどこにもなくて、梨亜は少しほっとする。
「よう、ねえちゃん、久しぶり……そのおっさん、誰?」
「ペペ…おっさんなんて言わないで。フェルディナントお抱えの庭師のブルーノよ。とっても腕がいいの。ヤコニートの咲かせ方を一緒に考えてくれることになってるの。」
梨亜が後ろに立つブルーノを紹介すると、ペペの顔から警戒する色が薄れ、早速二人を畑に案内する。前にみんなで刈りこんだ腹薬の材料となる黄色い花は、いつの間にかまた葉を青々と茂らせて、つぼみを付け始めている。
「こりゃたいしたもんですな。これだけの畑を坊ちゃんひとりで世話されてるんで?」
「なんだよ、坊ちゃんて。俺そんなガラじゃねえよ。」
ペペはブツブツ文句を言うが、褒められて一応気をよくしたようだ。
「そっちの畑は問題ないんだけど、これが例のヤコニートだ。」
「ほうほう……これは。」
相変わらず、ヤコニートの畑はぐったりとした苗が何本かまばらに生えているぐらいで、花が咲きそうな気配はない。
ブルーノは畑を少し掘り返して難しい顔をした。
「やっぱりこの畑は、この花が育つにしちゃ、養分が行き届きすぎてると思いますぜ。高い山の上の斜面で木の生えてないようなやせた土地に育つ花は、行き過ぎた養分はかえって毒になりやす。あとはもっと高い畝にして、とにかく水はけをよくしねえと。」
「……そうなのか。土に何を混ぜればいい?砂か?小石か?」
ペペが身を乗り出すようにしてブルーノに質問する。
「それはでげすね……。」
とブルーノが話しはじめて、梨亜もそれを聞こうとしているときに、ピアに袖を引っ張られた。
「ねえねえ、おねえちゃん、私、クッキーを焼けるようになったから、一緒に食べようよ!」
「……わかったわ。」
梨亜はブルーノとペペの話も気になったけれど、ピアの相手もゆっくりしてやりたい。詳しいことは、あとで二人のどちらかに訊けばいいだろう、と梨亜はピアとともに診察所に戻った。
ピアが香りのいいお茶を淹れてくれる。
「ありがとう。おいしいお茶ね。」
「そう?お兄ちゃんと二人で作ってるカモミールのお茶だよ。」
「そっか。先生いなくても二人仲良くやってるみたいで、安心した。寂しくて毎日泣いてるか、ペペとケンカばっかりしてるんじゃないかって心配してた。」
冗談めかして梨亜は言うと、ピアがふふっと笑った。
「あの時はみっともないとこ見せてごめんね。」
「ううん、こちらこそ。私が勝手にしたことで、結果的に先生の旅を早めちゃうことになって、二人に寂しい思いさせたね。……でも、あの先生が、あなたたちにそんなに慕われてるって思わなくて、意外でびっくりした。」
梨亜が正直にそういうと、ピアはおかしそうにケタケタと声を立てて笑った。




