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英雄の恋物語…ただし架空のお話です。

「英雄の花嫁……って何?」


 梨亜を自分の花嫁にしたいセリオが、夫人に不満そうに問いかける。


「もちろん、英雄アダルベルト様の花嫁よ!」


 これには男爵も、セリオも、梨亜もそろって首をかしげる。何千年も前の歴史上の人物の花嫁とはこれいかに。


「いい?英雄アダルベルトさまが生涯独身を通されたのは、みんなも知るところよね?」


 これは、こっくりとみんなうなずく。英雄アダルベルトは生涯独身を通し、子は無かった。その代わりに姉の子を養子に取り、これがオーキッド王国二代目の国王になったということは、オーキッドの国民は誰でも知っている話である。夫人が何を言いだすのかわからないけれど、完全に夫人のペースにみんな巻き込まれている。夫人は三人を見渡してにっこりと笑い、口をひらいて講談師さながらに語り始めた。


~~昔々、大陸が戦国の時代、英雄アドリアンは、小国カストラルの為政者と丘の上で出会いました。ふたりが丘の上からうるわしの国、ポローナを見つめるとそこに女神の化身のような光り輝く黒髪の美しい少女が浜辺に立っているのが見えました。少女に心を惹かれた英雄は、すぐさまポローナの岸辺に小舟をつけ、少女に会い、ひざまずいて求婚しました。凛々しい英雄の男らしい申し出に少女も頬を染め、それを了承しましたが、英雄は言いました、「すぐにもあなたを迎え入れたいが、まだ、大陸は争いに満ちて危険すぎる。私がこの大陸を平らげ、世に和平をもたらした暁には、あなたを迎えに来よう。」と。少女はうなずき、英雄アドリアンは戦いに赴きました。英雄は二十ヶ国を統合し、平和な王国を築きましたが、大陸すべてを平定する前に英雄アドリアンは病に倒れ、少女を迎えに行くことはかないませんでした。少女は英雄の死を知り、悲しみの涙をこぼすと、その涙は真珠となり、ポローナの岸辺を埋め尽くしたのです~~


 男爵夫人の朗々と語るおとぎ話を、男爵父子と梨亜は無言で聞く。名前は少し変えてあるものの、アドリアン=アダルベルト、カストラル=カリエンテ、ポローナ=ポロネーシュがモデルになっているというのは誰が聞いてもわかる話である。


「……なにかい、そのおとぎ話はお前が考えたのかい?」


 男爵が額の汗を拭きながら夫人に問うと、夫人は得意げに大きくうなずいた。


「で、ねえ、この物語を絵本にして、教会や学校や図書館に寄付しようと思うの。もちろん、この少女の挿絵はリアナそっくりに描いてもらうのよ!」


 セリオは頭痛を感じてきたように額に手を当てる。


「あのね、母さん…。そんなことしたら王都のおえらいさんに不敬罪で罰せられるよ。英雄アダルベルトの恋物語を捏造して、その物語を広めようとか、よく思いつくね。」


「あら、名前は変えてあるのだから、罰せられることはないと思うわよ?物語の真珠姫がリアナだなんてことも、ひとことも言わないしね。ただ似ている、っていうだけで。」


「……まあ、母さんの馬鹿話は置いておいて、リアナを社交界に出すっていうのはどういう理由だい?」


 男爵はおとぎ話には取り合わず、話を先に進める。


「ええ、社交シーズンに先駆けて、新しいデザインのアクセサリーを用意するのだけど、その中でもより品質のよい石を使ったものをリアナに付けさせて社交の場に出すの。当然、それをみんな欲しがるでしょうから、それをエスコート役のセリオが直接商談に持ち込んで、ご婦人方にご購入いただくの。これと同じものは商会の売り場には出さない。つまりは社交界限定商品ってわけね。どう?これだったら簡単には真似はしにくいでしょう。リアナは華麗に、たおやかに、この国最高の貴婦人となって、優雅にステップを踏み、美しい所作で微笑んで見せる。」


「それだけだったら、母さんの与太話なんかを本にして配らなくったって別にいいじゃないか。」


 セリオが眉を寄せて口を出す。


「あら、これも『真珠姫』の価値を高めるための戦略よ。……なに、あなた英雄アダルベルト様に嫉妬?架空の話にまでやきもちを焼くなんて男としてみっともないわよ?」


「そうじゃないよ!肝心のリアナの意見はどうなの?『英雄の花嫁』なんてホラ話に乗っかりたい?」


 梨亜としては英雄の花嫁にされるのはどうかとは思うが、商会に出る時間が減り、それがダンスなどのレッスンに当てられるというなら、それはそれでいい。黙って微笑むだけのマネキンはなかなかストレスのたまる仕事なので。その分、「真珠姫」としての仕事の時間が社交の場に移るということだろうが、笑って立っているだけよりも、好きなダンスを仕事と称してたくさん踊ることができるのも悪くないかもしれない。


「『真珠姫』の仕事場が商会の売り場から、社交場に移るということであれば、私の見た目も少し今までと変えていきたいですし、アクセサリーもガラリと変えていきたいですね。デザインなどもいろいろ考えてみます。『異国の姫』という感じをもうちょっと強調するのであれば、私もやってみたいことがあります。少し練ってからデザインの案は持ってきます。……物語のほうは、恥ずかしいので、できればやめていただきたいです。」


「そうお?」


 男爵夫人は子どもっぽく口をとがらせる。自分の案がみんなに却下を食らったのが見るからに不満そうだが、梨亜が社交場を職場に変えることには賛成したので、頭を切り替えたようだ。


「じゃあ、明日からダンスと礼儀作法のレッスン、週に一度は政治経済のお勉強もしましょう。ダンスのお相手は南都一流の財界人ばかりだから、これまでみたいに黙って微笑むだけではなくて、きちんと一流の男たちと会話できるだけの教養も身に付けなくてはね。……講師の先生は南都で一番の先生を用意したから大丈夫よ。リアナの新しいアクセサリーも楽しみにしているわね。」


 夫人の目が生き生きと輝いた。ちょっとだけ夫人の勢いに気おされながらも、二万バニー越えの借金を返済しなくてはいけない梨亜はしっかりとうなずいた。


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