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ブルーノは腕のいい庭師

「リアナ!そこにいたかと思ったら、もういなくなってる!もう商会に行く時間だよ。」


「ごめんごめん、もうちょっとブルーノと話があるの。」


 ブルーノはフェルディナント家の腕のいいベテラン庭師だ。


「お嬢さま、ここはオーキッドの中でも一番あったかい土地ですからねぇ。北の山にしか咲かない花を育てようったって、なかなか無理がありますぜ。第一に日差しが強すぎる。」


「そうねえ。なにか強い日差しを遮るようなものがあったほうがいいのかしら。」


「そうすね。紗の布のような……いや、そんな上等なものじゃなくてもいいんですが、とにかく、日差しを通しすぎないような、そんなもので畑全体に屋根をこさえてやるとかそういうことが必要ですね。」


「でも、布が雨に濡れたりしたら大変よね。」


「そうですね、雨が来そうになったら取り払うかどうかしねえと、重みで垂れさがって花に当たったりしたら、なんにもならねえ。……あとは土でがすね。」


「土……、土壌改良ってこと?」


「はい、あっしの想像でしかねえですが、山の上ってことは斜面に咲いてることが多いんでしょうかねえ、その花は。ということは、雨が降って、水たまりができるような水はけでは、その植物はしっかり根を張らねえかもしれえねえ。ものすごく水はけをよくしてやるような工夫が、必要になるかもしれねえですね。……あと、肥しのやりすぎもよくねえと思います。……まあ、あっしがその花を見たわけじゃないから、なんとも言えねえでがすがね。」


「そうね、……じゃあ一度、そこの畑に行ってみてくださる?私も畑の土の状態まではしっかり確認してなかったから、自分でも見てみたいわ。」


「……お嬢さんが土いじりですかい?」


「ええ!そこの畑に行ったら、いつも手伝うのよ。」


「へえ……。」


 ブルーノは豪華なドレスを身にまとい、じゃらじゃらと重そうなアクセサリーを身に付けた梨亜の姿を一瞥してあきれた声を出す。

 ブルーノは小声で言った。


「お嬢さん、あんまり土いじりしてるとか、若旦那や屋敷のひとにあんまり言わねえほうがいいですよ。」


「もちろんよ、誰にも内緒ね。……で、協力してくれる?」


「いいでがすよ、女神さまの頼みとあっちゃ、断れねえ。」


「ありがとう!恩に着るわ。じゃあ、また声をかけるわね。本当にありがとう。助かるわ。」


 梨亜が思わずブルーノの泥だらけの手を取って礼を言うと、ブルーノの顔が心なしか赤くなる。そこへセリオの焦った声が再び聞こえる。


「早く!リアナなにしてるの!馬車に乗って!」


「しまった、遅刻だ。じゃあ、ブルーノ、またね。」


 ひらひらと手を振って、ブルーノに挨拶をすると、梨亜は急いで馬車に飛び乗った。セリオにぶつぶつ言われる。


「何してたの、リアナ。ブルーノの手を取ったりして。ブルーノもみっともない。娘ほどの年のリアナに年甲斐もなく顔を赤らめて。」


「そんなんじゃないわよ。ちょっと先生のところの畑の薬草が育ちにくいから、ブルーノに相談してただけ。協力してくれるって言うから、そのお礼を言っただけよ。」


 梨亜が言うと、セリオはため息をつく。


「リアナは年下だろうが年上だろうが関係なく男を惹きつけちゃうんだね。猫殺しのところの坊やといい、ブルーノといい、みんな梨亜の言うことならはいはいってなんでも聞きそうだ。僕の女神には恐れ入るよ。」


「そんなおかしな勘繰りしないでよ。みんな私の大事な友達よ。それ以上言うと、セリオのこと軽蔑しちゃう。」


 梨亜がぷりぷりしながらそう言うと、セリオは眉を寄せて、不機嫌そうにむっと黙り込んでしまった。商会に近づくと梨亜は自然に背筋が伸び、気合が入っていく。優雅に、優美に美しく。あでやかに微笑み、口元は扇で隠して言葉を発せず、アクセサリーを上品に魅せる「真珠姫」を演じる女優になる時間は、梨亜の戦闘タイムのはじまりでもある。

  

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