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私が支払います!

「そんなにおおごとなのか!すぐに痛みを取ってやるとかできないのか?」


 エミリオが叫ぶように言うと、医師は冷静に返答する。


「じゃあ、三日間、眠りにつく眠り薬を使われますか?寝ている間に縫合の処置は済みますが、この薬は三千バニーいたします。」


「……なんとかする。」


 蒼ざめた顔のエミリオが言うと、だめよ!とマルシアが叫んだ。


「エミリオ……そんなことに大金使っちゃダメ。それに、明後日はお姉ちゃんの結婚式なのよ!三日間も眠ってなんていられない。」


「そんな怪我して、結婚式になんて出られるわけないだろ?おれはお前の体のほうが大事だ。姉ちゃんの結婚式はあきらめろ。いいから薬を飲ませてもらえ。」


「いや!結婚式には絶対出るの!お姉ちゃんを祝ってあげないと、私、気が済まない。先生、いいです。私、どんなに痛くても我慢しますから、このまんま縫ってください!」


「そうですか。じゃあ、まず消毒しますよ。」


 医師はそう言うと、ためらいもなく消毒薬を傷口に流しかけた。


「ぎゃあああああ!」


 激しい痛みで娘の背がのけぞろうとするのを、四人は必死で押さえつける。自分よりも軽傷とはいえ、似たような怪我を負って治療してもらった梨亜には人ごとに思えない。


「先生!もういいです!ヤコニートのお薬を使ってあげてください!費用は私が負担します!」


 とうとう梨亜は耐えきれなくなってそう叫ぶ。医師はぴたりと手を止めた。


「……リアナさん、本気ですか?」


「本気です。」


 梨亜は目を怒らせながら答えた。若い女の子に、こんな非人道的な治療なんてあり得ない。梨亜の胸はわけのわからない怒りでいっぱいになっていた。医師は身を起こした。


「……あなた、運が良かったですね。麻痺薬を使います。」


 医師は手早く薬を用意する。ペペは何か言いたげな顔をしていたけれど、何も言わなかった。若い恋人たちは、何が起こったのかわからず、戸惑っている様子だった。

 医師は梨亜の時と同じく、スプレーのような器械で娘の傷口に薬を吹き付ける。


「すごい!先生!もう痛くありません。」


 間もなくマルシアが目を丸くしてそう言い、医師はうなずいた。


「ほんとうはこの程度の軽傷で使う薬じゃないんですが、あなたは運が良かったですね。」


 医師は真面目な顔をして言い、手早く傷口を縫合しはじめた。


 怪我をした娘が医師とリアナにぺこぺこと頭を下げて帰って行ったあと、医師は治療の後片付けをてきぱきと終え、そのまま自室にこもった。双子もなぜか無言になり、部屋の掃除をはじめた。


  梨亜もピアの暗い顔が気になりながらも、食卓の片づけを手伝う。ピアは少し乱暴な手つきで、一言も発さずに皿を洗う。ペペはため息をつきながら、床をモップで拭いている。

「どうしたの?二人とも。」

 とうとう気になって、梨亜はピアに聞いてみる。

「だって……先生行っちゃうから。」

 そう言って、ピアはぽろっと涙をこぼして、急いでエプロンで目をぬぐう。

「どこに?」

「旅に。今度は北のほうだから、少なくとも四か月。今回は時期が早すぎるから、半年はいないかも。」

「そうなの?」

「なんで、あそこでおねえちゃん、あの薬使うって言っちゃうかなあ……。あのひとぐらいの傷だったら、眠り薬使うのも贅沢ぐらいだって、私は思ってたのに。あれが今年最後の薬だったって言うのに。」

「やめろ、ピア。ねえちゃん責めてもしょうがねえだろ?知らなかったんだから。」

 うしろからペペがたしなめるような声を出す。

「……それに、俺も悪いんだ。いつまでたっても、ヤコニートの花を咲かせられないから。」

 ペペの苦し気な声ではっと梨亜は思い当たる。

「もしかして、ヤコニートの薬がなくなったから、先生はそれを手に入れに行くの?北のほうの高い山の上でしか取れないんだったよね?」

「……そう、さっきの患者に使ったのが最後の一つだった。俺がうまく栽培できないから、先生は北の山にあがって、山の番人に交渉して、少しだけ花の咲いたヤコニートの根を分けてもらう。……あんまりたくさんは取れないらしい。種はいくらでも持って帰っていいけど、花を掘り起こすことは山を荒すことになるから番人がいい顔をしないんだって。花の時期は長いけど、種が取れるのはあと二か月ぐらいかかる。もう二か月ぐらい先に旅立ったら、花の時期の終わりごろで、花の根も種も同時に手に入るから、先生が北にいる時間が短くて済む。……だからせめて、最後の薬が残っている間に、俺がヤコニートの花を咲かせられたらな、って思ってたんだけど……。」

 ペペは悔しげな顔をして、梨亜はしょんぼりとする。

「ごめんね。私が余計なことを言っちゃったから。」

「いいんだよ、ねえちゃんはなんも悪くない。……それよりも大変だな。せっかく支払いほとんど終わってたのに、いくら真珠姫さまだって、また二万バニーも一から返すの、大変だろ?」

「それは自分で言い出したんだから、私のことは気にしないで。」

 梨亜も沈んだ声で言う。ペペはため息をついた。

「センセ、完璧主義者だからな。自分のカバンから、薬や道具が一つでも欠けてると、治療する気になれないって言って、すぐに旅に出ちゃうからな。……ねえちゃんも気にすんなよ。」

「ありがとう。でも、ごめんね。」


 梨亜は二人に心から詫びを言った。医師にも詫びを言いたいところだが、なぜか言ってはいけないような気がした。

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