マネキンは重労働です。
結果、「フェルディナント商会の真珠姫」は予想以上の大当たりを見せた。
梨亜は朝から晩まで店頭に立って、マネキンのように微笑み続け、足だけでなく顔まで筋肉痛になる日々が続いたが、「自力で借金返済」が念頭にある以上、弱音を吐くわけにいかない。
来る日も来る日も会釈をし続け、日替わりで豪華なドレスを身にまとい、新しいアクセサリーをつけて、にっこりと微笑む日々が続く。
たとえばこんな具合に。
「おばあちゃん!あれよ!あれ!噂の真珠姫さまよ!」
「いらっしゃいませ。」(にっこり&会釈)
「まあまあ、これは本当にうるわしい。お姫様、ごきげんよう。あら、ミランダ、あんたの欲しがってた『真珠姫のネックレス』はこれかい?お姫様、これはいくらするんだい?」
「ああ、お客様、これは………ほどでして。」(しゃしゃり出る横の売り子)
「そうかい……若い子のアクセサリーにしちゃ、結構なお値段だねえ。」
「ねえ!いいでしょ?おばあちゃん。……だって、ナタリアもペネロペも買ってもらったって言うのよ!」
「みんながみんな、おんなじアクセサリーっていうのはどうだろうねえ、ねえ、真珠姫さん、もっと他にはないのかい?」
「お客様、良いものがございます!デザインは同じなのですが、周りの石の半分をサファイアに変えたものでして、お嬢さまの爽やかな印象にぴったりでございます。」(再びしゃしゃり出る店員)
「あら、これもいいわねえ…。」
「ええ、さらにこれには揃いのブレスレットもございまして、これはいま、真珠姫さまがつけていらっしゃるものです。」(梨亜はにっこりと微笑んで、左腕に付けたブレスレットを客に見せる)
「すごくきれい!ねえおばあちゃん!これにしよう!ナタリアもペネロペもブレスレットまでは持ってなかったもの!」
「……あんたはつくづく、物入りな娘だねえ。しょうがない、店員さん、両方包んでちょうだい。」
「ありがとうございます!」(店員深々とお辞儀)
「それじゃあね、お姫様、ごきげんよう。」
「またいらしてくださいね。お待ちしていますわ。」(ここでやっと梨亜は声を発する。)
……正直、普通にしゃべって、働いているほうがずっとマシなんじゃないか、と思う。梨亜のやっていることはまさに生けるマネキンで、人形と変わりがない。
「いい、リアナ、どんなに疲れていても、あなたはお姫様、とにかく、優雅に、たおやかに。余裕をもって微笑んで。そして、できるだけ口を開かない。」
鬼監督、もといフェルディナント男爵夫人によくよく言い含められている。姫は姫でも、地上に上がって声を失った人魚姫だな、と思いながら、梨亜が店頭に立つこと、一か月。
「すごい……こんな売り上げは、商会始まって以来だ。特にアクセサリー売り場の売り上げが突出しているけれど、来店客数が増えることで、全体の売り場の売り上げも上がっている!」
「真珠姫効果ね!さすがだわ!リアナ。」
男爵夫妻は手放しで喜び、梨亜を褒めちぎってくれた。そして、給料の出た次の休みの日、双子へのお土産を手にして、うきうきと梨亜は医師の家に向かった。




