真珠姫、デビューいたします。
それからは怒涛の日々だった。看板用の肖像画は、急に決まったということで、デビュタントの日のドレスを着たけれど、それから店頭に立つために、何枚ものドレスが梨亜のために作られた。
それから、職人たちとの打ち合わせ。これまでとまったく違う意匠に、職人たちも戸惑ったようだが、逆に新しいものを作る、という刺激がおおいに職人心を刺激したようで、梨亜のつたないデザイン画をもとに、想像以上に斬新で美しいアクセサリーが出来上がった。
しずく型の大粒のパールの周りに、小粒のパールがぐるりと取り囲み、さらにその周りには台座に埋め込まれた小粒のダイヤが連なる。いままでに見たこともないペンダント型ネックレスに、フェルディナント家の人々は歓声をあげた。
「すごい、これほどのものになるとはね!」
男爵夫人は感じ入る。
「これ、本当にいままでのものの半値でできたのかい?」
男爵がうなると、工房の職人が得意そうに言う。
「はい!手間がかかるので倍の手間賃をいただいても、それでも半値でできます。けれど、けしてそうは見えないでしょう?我々も新しいものを一番に作らせてもらって、名誉の限りです。」
「きっと梨亜がつけると、すごく似合うんだろうねえ。」
セリオはうっとりとして言う。
「さ!つけてみなよ。」
セリオは身を乗り出して、梨亜に勧める。
「……こんな豪華なもの、私がつけていいのかなあ。」
想像以上の出来栄えに、梨亜はしり込みするけど、セリオの手によって強引につけられる。
「おお!」
「素晴らしいわリアナ!」
「さすが僕の真珠姫……。」
……とりあえず好評のようである。
すでに書かれていた肖像画に、新たにこのアクセサリーも描き加えられ、店頭用のドレスが出来上がるまでに、梨亜はまたいろいろなアクセサリーのデザイン画を案として描いていった。
たくさんのドレスの仮縫い、試着、職人との打ち合わせ。怒涛の二週間を過ごした後、いよいよ梨亜はフェルディナント商会のアクセサリー売り場の店頭に立つ日を迎えた。
男爵夫人は、あくまでも梨亜を「売り子」ではなく、広告塔の「真珠姫」として売り出したいために、売り子たちとは一線を画すように、客を出迎える際には、梨亜には貴族の礼を取ってほしい、と言った。ほかのお仕着せの売り子たちが両手を前で揃えて、頭を下げてお辞儀をするのに対して、梨亜はあくまでもドレスのすそを持ち上げて、膝を心なし折り、「いらっしゃいませ」とにっこりと微笑む流儀のものである。また、梨亜自身が直接アクセサリーを客に勧めるのも避けてほしい、とも言われた。
梨亜としては、ほかの売り子たちのように、「これはものすごくお勧めですよ!きっとお客様に似合うと思います!」
と、どんどん売り込んでいくつもりだったため、夫人の提案には戸惑ったが、雇用主の言うことなので、しかたなく了承した。
店頭に立つ前日、劇場の総監督さながらに、男爵夫人は売り子と梨亜に檄を飛ばす。
「いい?けしてリアナにたくさんしゃべらせてはダメよ。リアナに話しかける客は、横についた売り子が話を引き受けて、進めていくの。リアナは、ひたすらに微笑み、アクセサリーを多方面に見せつける。いかにアクセサリーが魅力的で、『欲しい』と思わせるか、リアナは言葉ではなく、所作でアピールなさい!」
「はい!奥さま!」
売り子たちは背筋をピンと伸ばして、声を揃えて夫人に答える。梨亜もうなずきながら、難しい注文だ、と内心頭を抱える。そして、ショーのモデルさんはただ綺麗に歩いて、笑っているだけの仕事だと思っていたけれど、実はかなり難しい仕事だったのだなあ、と思った。
最後の打ち合わせのあと、セリオに手を引かれて商会の前に連れていかれると、そこには大きな梨亜の絵姿の看板が出ていて、「ポロネーシュの真珠姫の輝きをあなたに」という宣伝文句も描かれていて、梨亜は頭がくらくらする。こんな街の目抜き通りで、自分の肖像画が一番目立つところに置かれて、この先、自分は町中を大手を振って歩ける気がしない。梨亜はこっそりと商会の衣装売り場で変装用の服装と帽子、サングラスを購入しておいた。




