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息抜きはやっぱりこれですよね?

 医師はまた往診で不在だったが、双子が大喜びで出迎えてくれた。特にピアのほうが跳ね上がるように喜んでくれる。


「すごいねえ!おねえちゃん。私、友だち連れて、お休みの日に三回も「真珠姫」の看板見に行ったのよ!わたし、この人と友だちなの!って言っても誰も信じてくれなかったけどさ。でも、いいの!またここに来てくれたんだから。」


「ありがとう。でもね、顔が知られすぎて、ますます外が歩きづらくなっちゃった。」


 梨亜がこぼすと、ペペがくっくっと笑った。


「だからってそんな格好なのかよ、ねえちゃん。まるで男だな。」


「だってこうでもしないと、街を歩けないのよ。」


 梨亜はすねた口調で言う。今日の梨亜の格好は、目立つ黒髪を三つ編みにしてぐるぐると頭の周りに巻き付け、大きめのベレー帽をすっぽりとかぶって隠し、大きなサングラスをかけている。服装は男物のシャツにスラックス、パッと見、ペペと同じ年頃ぐらいの少年にも見える。


「それに、この服だと気兼ねなく畑仕事手伝えるでしょ?よーし、今日も働くわよ!」


 梨亜は細腕で力こぶを作って見せるとペペは爆笑した。


「真珠姫がこんなところで野良仕事かよ!街の人間が知ったら腰抜かすぞ。」


「いいのいいの!ストレス解消よ。」


「連日働いてるんだろうに、姉ちゃん元気だな。」


「仕事の労働とこれとは別よ、さ、ペペ、今日は何を手伝えばいい?」


「日に焼けても知らねえぞ…。」


 ペペのあきれる声にかまわず、梨亜は思う存分、鍬をふるい、肥しをやったり、芋を掘り起こしたりの農作業に熱中した。ペペは先輩よろしく、楽し気に梨亜にあれこれ指図する。

 二人が汗と泥まみれになったお昼頃、医師の声が不意に聞こえてきた。


「おや、ペペ、今日はお友達に手伝ってもらっているのですか?」


 梨亜がそちらに目をやると、今日はいつもの飄々とした表情の医師が畑のそばにカバンを持って立っていた。……良かった、今日は猫の死体は抱いていない。梨亜は内心、安堵する。


「何言ってんだよ、先生。ねえちゃんのこと、わかんねえの?」


「こんな格好で失礼します。リアナ・セルバンテスです。」


 梨亜は名を名乗って会釈する。と、医師は首を傾げた。どうやら梨亜の名前を覚えていないようだ、梨亜はむっとするが、


「海に落ちた時にできた二の腕の怪我を治療してもらった娘です。」


 と説明すると、医師はやっと、ああ、という納得顔をして見せた。……つくづく、変わった医師だ、と梨亜はあきれる。


「先生帰ったし、お兄ちゃんも、おねえちゃんも、そろそろ昼ご飯にするから、きれいにしてきなよ。」


「おう。」


「うん、ありがとう。」


 ピアに言われたので、井戸端で顔と手を綺麗にした後、梨亜は空き部屋を借りて、持ってきた着替えの服を身に付ける。……もっとも、今度も最初と似たような男装であるが、さすがにサングラスは外す。


「やっとおねえちゃんの綺麗な目が見えた。……もう、おねえちゃんたら、ペペの仕事手伝ってばっかりで、全然私と話してくれないんだもの。どうせ手伝うんなら、私の仕事手伝ってくれたらいいのに。」


 ピアはふくれ顔をして見せる。


「……ごめん、私、家事とか全然できなくって、かえってピアの邪魔しちゃいそうだったから。」


 梨亜は謝る。家事は日本にいるときは、完璧主義者の冨美にまったくさせてもらえなかったし、公爵令嬢となったこの世界では言わずもがな、すべて使用人がしてしまう。フェルディナント家でも同様である。


「ったりまえだろ、ねえちゃんお貴族さまなんだから、料理洗濯なんかできるわけねえじゃん。」


「お貴族さまは野良仕事なんかもっとしないわよ?」


「そりゃねえちゃんのストレス解消だ。文句つけてやんなよ。」


 梨亜のことで双子がケンカを始めそうだったので、梨亜はごめんごめん、と謝る。


「お昼からはピアの仕事を手伝ってみるね。いろいろ教えてね。」


 そう言うとピアは機嫌を直した。


「ねえちゃん、一日中ここにいて大丈夫なのかよ、あのフィアンセがまた心配するんじゃねえか?」


 ペペがいらない気を回してくれるが、梨亜はにっこりと笑って見せる。


「大丈夫、今日はちゃんと夕方までここにいるって最初からフェルディナントの家の人間には言ってあるし、……一か月働きづめだったんだもの、今日の一日ぐらい自由にさせてもらうわ。」


 商会の休みは十日に一度あるものの、その日は職人と新デザインの打ち合わせなど、なにやかにやでつぶれてしまうことも多く、実際、「真珠姫プロジェクト」が発動して一か月、梨亜はほぼ休みなく働き続けてきた。


「ほう、商会ではあなたはどんなお仕事を?」


 医師がスープを食べながら口をはさんできた。ペペはあきれた目で医師を見やる。


「センセ、ねえちゃんのこと知らねえのか?町中で大評判じゃねえか。『ポロネーシュの真珠姫』って聞いたことねえの?」


「……さあ?」


 医師は首をかしげる。


「ほんと、先生は、仕事のことと猫の死体のこと、さっぱり興味がねえもんなあ。やってらんねえよ。」


 ペペは両手を上げて嘆く。


「こんどフェルディナント商会の前を通りかかったとき、ちゃんと目を上げて看板見てみなよ。たまげるぞ、センセ。……いっつも猫の死体が落ちてねえかばっか考えて、下ばっか見てんじゃねえよ。」


「わかりました。覚えていたら見てみます。」


 年下の使用人に神妙に答える医師がおかしくて、梨亜はピアと二人、声を立てて笑った。


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