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医師の家の双子

 ピアがお昼の準備をしている間に、ペペが畑のあちこちを案内してくれる。最初の黄色い花畑を梨亜が褒めちぎったことで、ずいぶん心証が良くなったらしい。得意げにペペがいろいろと説明してくれる。

「この花はアマリーラなんとかって、腹下しに効く薬草だよ。葉っぱのまんまでも効果はあるらしいけど、花が咲いたら成分が高まるから、薬屋が割高に引き取ってくれる。」

「へえ。」

「あっちは皮膚のぶつぶつに効く薬草、この木の皮は、胃痛に効くらしい。それから、こっちは神経痛に効くやつ…。」

 見慣れない植物ばかりだと思っていたら、薬草ばかりのようだ。もっとも、畑の一角にはちゃんと普通の野菜なんかも植えてあって、これは双子と医師の食糧用らしい。どれも青々と茂っていたけれど、一か所だけ、ひどく植物が元気のないところがあった。

「これはなあに、ペペ?」

 梨亜が訊くと、ペペはため息をついた。

「これはさ、ものすごーく栽培が難しいんだよ。なんでも北都の山の上でしか咲かない花で、アコニートって言うんだけど、根がしびれ薬になるんだよ。でも、花が咲かないと、その効果は出ないんだって、先生は言う。でも、もともと寒い北都の山の上の花だろ?ここ南都でじゃ全然気候が合わないのか、ほとんど咲いてくれないんだ。毎年、先生は北都まで旅をして、種を持って帰ってくる。でも、種が300ぐらいあっても、花が咲くのは一年にひとつふたつでさ…せめて、五つは無いと、一人分の薬にならないって先生は言うんだ。」

 その名前に、梨亜は聞き覚えがあった。梨亜が海に落ちて大けがをしたときに、麻酔薬として使用された植物。……そして、二万バニーもするというものすごく高価な薬だ。

「そっか、そんなに栽培が難しいんだ…。」

 梨亜はため息をついた。正直、あまりに高価なので、不当な値段を請求されているのでは?という思いもあったのだが、それほど希少で、栽培の難しい植物が原料ならば、仕方ないのかもしれない。

 そのとき、ごはんよお!というピアの大声が建物のほうから聞こえてきた。


 ペペとピアに手を引かれるようにして、診察所の中に入り、食卓に着かされる。メニューは野菜と肉のスープ、全粒粉のパンというシンプルなメニューだった。素朴な味わいが美味しい。

「この野菜も全部ペペとピアが作ったの?」

「ああ、そうだよ!」

 ペペは得意そうに言う。

「ピアの味付けも上手よ。きっといいお嫁さんになるね。」

 梨亜がそう言うと、ピアは嬉しそうに顔をほころばせて笑った。

「このパンはうちの母ちゃんが焼いたパンを毎日家から持ってきてるんだ!これが無いと、先生飢え死にしちまうかもな。」

「へえ……。」

 食卓で双子といろいろと話をする。双子は十三歳ということで、学校を卒業した二年前から、ここに働きに来ているということだった。正直、もっと幼いのかと思っていたが、双子と言うことで小さく生まれたらしく、二人とも年齢のわりに小柄だということだった。

「俺はさ、もっと上の学校に行きたかったんだけど、母ちゃんが、上の学校に行きたきゃ、自分で稼いで来いってさ、そう言うんだよ。」

 南都の小学校は三年で過程を終える。そこまではたいていの家庭が学校に通わせるらしいが、そこから先はその家ごとの事情によるらしい。

「そんで、ここで先生の手伝いに来た。最初は猫殺しってあだ名にビビったけどさ、先生ちょっと変わってるけど悪い人じゃないし、上の学校で習うような勉強も時々教えてくれるしさ!畑仕事も嫌いじゃないし、ここに来て良かったよ。」

「そうなのね。」

「私はペペみたいに上の学校なんて行きたくないから、ここでしっかり稼いで、料理をたくさん覚えて、いいとこにお嫁に行くんだ!」

 ピアは嬉々として言う。

「今みたいに野菜スープばっかりじゃ『料理覚えた』ってことにはなんねえぞ。」

 ペペがからかうと、ピアはふくれる。

「今にもっと、たくさんいろいろできるようになるもん!」

「そう言って、ここに来ておまえスープしか作ってるのしか俺見てねえぞ。」

「それは先生が、それさえあれば十分、ほかはいらないっていうからさ…。」

「おまえが甘えてるだけじゃねえか。」

「なによ!」

 双子の喧嘩が始まりそうだったそのとき、勝手口のドアがカリカリと引っかかれる音がして、ニャア。という鳴き声が聞こえた。

「あ!ブランコが来た。」

 口喧嘩をやめて、ピアがさっと戸口に行った。扉を細く開けると、優雅な所作で、するりと白猫が部屋の中に入り込んできた。

 「待ってねブランコ、いまスープ分けてあげるから。」

 ピアはスープにミルクのようなものを足し、中に肉をひとつ入れて平皿に入れ、猫に出してやると、猫はピチャピチャと嬉しそうに舌を出してスープをなめ始めた。

「わあ!猫!」

 梨亜も嬉しくなってブランコと呼ばれた白猫のそばに行って、背を撫でてみる。猫はふわふわとした手触りで、食事中を邪魔されるのが迷惑なのか、しっぽを一度ぱたり、と振ったけれど、そのまま梨亜に撫でさすられながら、スープをなめるのを続行した。

「ねえちゃん猫平気なの?町中の人間は猫嫌いだと思ってたけどな。」

 ペペがその様子を見て、梨亜に声をかける。

「ううん、私は猫大好き!だって可愛いじゃない!なんで南都の人はあんなに猫を毛嫌いするのか、私、不思議に思ってるのよね。」

「町中の猫は食い物無いから、人間の食うもんかっぱらってばっかりだからだ、って聞いたことあるけどな。」

「そう……。」

 そう言いながら、梨亜ははっとする。

「そういえば、この猫、先生の家に来ても大丈夫なの?だって、先生は……あの。」

「ああ、『猫殺し』のことねえちゃん心配してんの?大丈夫、先生は生きた猫には興味ねえよ。」

「どういうこと?」

 梨亜は不思議そうにペペに尋ねたそのとき、診察室の玄関の扉が開く音がした。

「先生が帰ってきた!」

 双子は医師を出迎えるために玄関に走り出していった。梨亜もそのあとに続いた。



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