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黄色い花畑と双子たち

 先ほど、像の前で教えてくれた女性の言う通りのくぐり戸を抜けると、目の前は一面の畑だった。

折しも、畑の一角には黄色い小さな花が盛りを迎えていて、わあ、と梨亜は足を止める。

「へえ、こりゃ、見事なもんですね。」

 ホアキンも足を止めて畑の様子を眺める。梨亜は黄色い花畑のほうへ近づき、花の香りを嗅いでみる。だが、見た目は綺麗な花のように見えたけれど、香りは独特のつんとくるもので、良い香りとは言えなかった。

「見たことがない…何の花かしら。」

 梨亜がつぶやくと、「あれっ?」と後ろから声をかけられた。振り向くと、男女の子どもが二人並んで、梨亜とホアキンの前に立っていた。


「お兄さんとお姉さん、なにか先生の家にご用?」

 二人は見るからに双子とわかるような同じくすんだ茶の髪色、同じ背丈、おなじそばかす顔だった。

「私はリアナよ。あなたたちは?」

「俺はペペ。こっちは妹のピア。俺ら、先生の畑の番を任されてるんだ。」

 男の子は得意げな顔をして梨亜に言い放った。

「そうなの!まだ子どもなのに、こんなにきれいに花を咲かせてすごいわねえ!」

「そうだろ!苦労してんだぜ!先生は旅に出てばっかで、全然畑はほったらかしのことが多いからな。」

 ぺぺに言われて梨亜は何をしに来たか思い出した。

「そうそう、先生、いらっしゃるかしら。」

「先生はいま、いないよ。」

「そう……。」

 無駄足だったか、と梨亜は思ったが、ぺぺは、いや、と言った。

「今日はちょっとばかり遠くに往診に行ってるだけで、今日のうちには戻ると思うよ。お姉さん急患?には見えないな。ゆっくりして行ってよ。」

「そうそう、ゆっくりして行きなよ。私がおひるごはんご馳走するからさ。」

 ぺぺに続き、ピアも口を出した。

「え、突然来て、お昼ご馳走になるなんて悪いよ…。」

 梨亜は遠慮したが、ペペはにやりと笑った。

「大丈夫だって!たいしたもんは出せないけどさ!俺らが作った野菜とかうまいよ!食ってみてよ。」

「そうよ!食べて行ってよ!女神のお姉ちゃん!わたし、こんな綺麗な目の人初めて見た。いいなあ…私もこんな髪と目の色だったらよかったのに。」

 ピアは梨亜の手を触りながら、梨亜の顔をうっとりと眺める。どうやら南都での黒目黒髪信仰は、子どもにもしっかりと浸透しているようである。梨亜は苦笑いした。

「じゃあ、お言葉に甘えて、そうさせてもらおうかしら。ここ、うちから少し遠いし、これから忙しくなるから、めったに来れなくなるかもしれないしね。」

 梨亜がここに来たのは、昨日、公爵家から手紙と金が送られてきたからである。おじいさまは、アンナを領地に返した梨亜を気遣って、手紙を寄越してくれたのだ。婚約者のいる侍女を、遠くにやるような心無いことをして申し訳なかった、梨亜の心遣いに感謝する、と手紙には書き綴ってあり、アンナの代わりに、そちらで信頼できる侍女を紹介してもらって、雇うように、と一万バニーもの大金を送ってくれたのだ。おじいさまの暖かい心遣いに感謝しつつも、梨亜はさっそくその一万バニーを握りしめて、残り治療費のの支払いのために梨亜はここへやってきた。もちろん、侍女など雇うつもりはない。まずは借金返済がすべてである。この一万バニーがあれば、残りは五千バニー。男爵夫人は梨亜に月々700バニーの基本給を約束してくれた。そう考えると一年足らず、がんばれば半年で完済できる計算になる。


 ここで昼を食べていく、という梨亜にホアキンは呆れた目を向けた。

「お嬢さん、そんなに長居してどうするんですか。若旦那心配しますよ。」

「大丈夫!わたし、この子たちとここで畑の話聞きながら、先生を待つから。ちょっとお礼の品を渡したいのよ。あしたから商会で働くし、そうすると忙しくなって時間も取れないから、今日だけ、お願い。」

 梨亜は両手を合わせてホアキンに懇願した。

「……わかりましたよ。こんなこともあろうかと、馬車に伝書鳩乗せておいて良かった。俺、仕事あるんで戻りますけど、ご用が済んだら、鳩を飛ばしてください。すぐに迎えにまいりますから。」

「ありがとう!ホアキン!」

 話の分かる用心棒に梨亜は心からお礼を言った。ホアキンは、医師の診療所で危ないこともないだろう、と判断したらしく、鳩の入った鳥かごだけ残して馬車を御して帰って行った。


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