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リアナの提案

「ええ?」


 セリオの父であるフェルディナント男爵は、梨亜の提案に目を剥いて驚いた。


「いや、子爵令嬢であるリアナが働く必要がいったいどこに?」

「社会勉強や、後学のためです。」

 梨亜はしれっとした顔で言った。

「いや、しかしだね、ソーニャからきみのことは丁重に扱うようによくよく頼まれているし…、それに。」

 と、男爵は梨亜に思いを寄せる息子、セリオの顔をちらっと見た。しかし、フェルディナント夫人のほうは目を輝かせた。

「いいじゃないの!セリオと一緒になるってことは、セリオと商会をいずれ経営してもらわないといけないのだから、そのために働こうって言うのね!なんて情熱的で賢い娘さんなの!我が息子ながら目が高いわ!」

 夫人のあまりの誤解に、梨亜は頭がくらっとしたが、気を取り直して、

「では、私を雇い入れていただけますか?」

 と畳みかけるように夫妻にお願いした。それらのやりとりを黙って聞いていたセリオは、

「じゃあ、僕の秘書ってことでどうかな?」

 と言い出した。

「そうしたら、リアナも商会の経営についていろいろ学べるし、……ずっとリアナと一緒にいることができるし。」

 ……どうも、セリオの狙いは後者に集約される気がするのだが。しかし、梨亜は首を横に振った。

「私はまず、現場から経験したいの。売り子をイチからはじめて、実際に商品が動くさまを見ていきたいのよ。だから、売り子として私を働かせてください。できれば、アクセサリー売り場で。」


 じっくりと売り場を見て回った梨亜が出した結論は、一番マージンが多そうな売り場は、アクセサリー部門だということだった。何カラットもあるような原石から切り出したばかりの宝石や、金の延べ棒のような、アクセサリーよりも高価なものは商会にも売られているが、そう言ったものは一朝一夕には売れない上に、売り子が客に与える影響は少なそうな気がする。しかし、小さめの宝石を加工したアクセサリーは高価である上に、デザインや売り子の腕次第で、もっと売れそうな気がする。つまり、がんばれば頑張ったぶんだけ、売り上げを上げられそうなのが、アクセサリー部門、というわけだ。


「私、今日商会のほうを隅々まで見せていただきましたが、アクセサリー部門は、これからもっと伸びそうな気がします。フェルディナント商会のアクセサリーは高級感があって素敵ですが、すこし年配向けのデザインが多そうな気がします。それよりも、小さめの石を使って、軽やかで、若者に受けそうなデザインのものを多く作って置けば、若い女性が殺到し、商会ももっと伸びるのではないかと。」


 生意気かな、と思われるかと思いながらも、梨亜は果敢に口にした。


「なるほど……しかし、値段をあまり安くすることは考えものだな。フェルディナント商会で買った、ということに価値を置いてくださる昔ながらのお客さまも多い。安価なものをたくさん置くようになると、それだけ商会の価値が下がったと見られかねない。」


 男爵が商人の顔をして、梨亜の言葉に意見を挟む。


「いえ、あくまでも、値段は現在のままで良いと思います。石を小さくする分、原価は下がりますが、それを斬新で若者向けのデザインにすることで、価値を高め、今あるアクセサリーと変わらない程度の値をつけていくのです。…例えば、ポロネーシュ原産のパールの周りに、リング状にぐるりと小粒のダイヤモンドを配置していきます。」


 梨亜はペンと紙を借りて、アクセサリーのデザインを描いていった。もともとアクセサリーは好きだったのだが、公爵家でも、この男爵家でも見るアクセサリーは石のそのものの大きさ、つややかさを誇るような古めかしいデザインばかりで、あまり好ましい形のものが見受けられなかった。それに梨亜は前々から不満を覚えていたのだ。


「……こういった小さめの石をたくさん使うことで、石の大きさそのものはたいしたことは無くても、若々しく、しかも豪奢に見えるデザインに仕上げることができます。それを、今までのお客様の娘さんや孫娘さんに、という形で販売を促進していくのです。可愛い娘さんや孫娘さんのためでしたら、少々高くても、お客さまも満足して購入していただけるのではないでしょうか。」

 



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