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確かに受け取りました、が……。

 梨亜は医師の言葉通り、夢かうつつかわからない三日間を過ごした。たくさんの夢を見た気もする。夢に冨美が出てきてうなされたりもしたし、アンナやセリオの顔もたびたび見えたが、夢に見ているのか、現実だったのかこれははっきりしない。唯一はっきりしているのは猫殺し、と呼ばれている医師に抱き起こされ、「栄養剤です。」と何か飲まされたことだ。それは一瞬眠りから覚醒するほど苦かった。……一度だけ、ヒュペリオン神の夢も見た。「…なんでこんなことに。でも、僕が来たから、もう大丈夫だよ。」などと言われて、光に包まれた……ような気がした。ともかく、梨亜の頭がはっきりとした四日目の朝には、部屋の中には心配そうな顔をしたアンナしかいなかった。


「お嬢さま!お目覚めですか。」


 ベッドの上で身を起こすと、アンナが心配そうな顔をして駆け寄ってきたので、


「ええ、大丈夫。それよりよく眠ったみたいで、おなかが空いたの。」


 と梨亜はアンナに笑って見せると、アンナは明らかにほっとした顔で、


「すぐにお食事のご用意しますね!」


 と走り去っていった。


 食事をとりながら、この三日間のことを聞いてみると、梨亜はただ眠っていただけではなく、次の日の夜には高い熱を出して、かなり危険な状態であったらしい。医師も呼ばれ、熱冷ましを処方されたが、それでもなかなか下がらなかった。感染症を疑われたが、次の日、不思議なことにすうっと熱が下がり、危険な状態を脱したとのことだった。


「ロレンソ先生も毎日診察にいらっしゃいましたし、何よりも若旦那さまが気が気じゃない様子で、日に何度も顔を見せていらっしゃいました。」


 アンナのいう若旦那さま、というのはセリオのことである。


「そう、みんなに心配かけて申し訳なかったわ。でも、もう大丈夫よ。……ロレンソ先生っていうのは、あの、私を助けてくださったお医者様のことよね?」


「そうです。とても腕の良いお医者さまだということですが……みょうな二つ名がございまして、少し変わった方のようでございます。」


 アンナは口を濁したが、例の「猫殺し」という名のことだろう、と梨亜は漁師小屋で聞いた言葉を思い返す。


「若旦那さまが何度も治療費の支払いを先生におっしゃってましたが、『患者さん本人からいただくように固く言いつかっております』といつもきっぱりおっしゃっていて……。私にすら請求書を見せていただけないのです。」


「いいのよ、それでいいわ。」


 梨亜はほっとしてアンナに言った。あの医師は、梨亜との約束を誠実に守ってくれたと見える。もらえるところからもらっておこう、みたいないい加減なお医者さんじゃなくて良かった、と梨亜は胸をなでおろした。ちょっと高くつくという話だったけど、おじいさまから十分なお小遣いを持たされているはずだから、それで間に合うだろう、梨亜は楽観的にそう思っていた。


 ……だが、その翌日、約束通り梨亜の前に請求書を携えて現れた医師が示した金額を見て、梨亜は愕然とした。


「二万五千バニー……。」


 おじいさまに持たされたお小遣いは一万二千バニー。フェルディナント家の好意で衣食住タダでここに住まわせてもらっている梨亜だから、ほとんど手つかずで残っていたが、全額はたいても、まだ半分にもいかないという事実に、梨亜は言葉を失った。

「いちおうざっくりと申しますと、眠り薬、栄養剤、解熱剤の処方と、消毒薬および縫合の処置が五千バニー。ただ、あの痛み止めのしびれ薬が高価でして、あれだけで二万バニーいたします。」


 医師は丁寧な口調で内訳を説明してくれた。でも、あの薬がそんなに高価だなんて、梨亜は想像もしていなかった。ちょうどアンナが医師にお茶を入れるため、席を外している隙に、梨亜は一万バニーを引き出しから出して医師に渡す。


「今は手持ちがこれだけしかありませんが、残りは必ず責任を持ってお支払いします。」


「わかりました。……まあ、足りなければあの鷹揚な婚約者候補のかたにお願いいたしましょうかね。」


「それだけはやめてください!」


 梨亜は蒼ざめて医師に頼むと、医師はにっこりと梨亜に笑って見せて、


「では、後日、必ず。私の家は、英雄の丘近くの海辺の崖の上です。あの近くに行って『猫殺しの家』と尋ねてくださったら、誰でも教えてくれますよ。」


 医師はそんなことを言って、最後の診察を終えて帰って行った。

 

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