8.アデーレ嬢の訪問
マリーが刺客に襲われて数日がした。そうしたら宿に1人の令嬢が訪ねてきた。マリーがこの宿に居ることは調査済みのようである。別にこの女性を無視してもよかったのだが、付きまとわれても面倒である。それに相手はどう見てもロイマーナ王国人それも貴族のように見える。マリーは宿の食堂でこの女性と相対した。本当はどこか個室がよかったが、女性の後ろには護衛もいる。人目のないところだと反って危険である。
「初めましてマリアさん。私はアデーレ・フォルリム、伯爵家の長女です。マリアさんはアントニオ・クレベンナ様と食事に行ったと聞いたのですが、お付き合いをしているのですか」
「私はアントニオ様とはお付き合いはしていません。食事も1回だけです。その後はお断りしました」
「そうですか。それはよかった。今後アントニオ様に付きまとうことがあれば、どのようなことになるか分かっていますよね」
「それは脅しですか」
「その様なことはありません。単なる忠告です」
「そうですか。私からアントニオ様に付きまとうようなことはございません」
「その言い方だと、まるでアントニオ様から声をかけたように聞こえるのですが」
「はい、食事の話はアントニオ様からいただきました。森で命を助けたお礼だそうです。父親の公爵様からも進められました。『命を助けられたのに何もしないのであれば公爵家の名折れだ』と言われました」
「そ、そうなのですか。公爵様もご存じなのですか」
「そうです。お疑いならアントニオ様にご確認願います」
公爵様の名前を出すとアデーレ様はすごすごと引き下がっていった。
先日の暗殺者はアデーレ様が仕掛けたのかなと思ったが、今の会話の状況からは、そこまでするようには思えない。すると先日の暗殺者は遊牧民の放った刺客の可能性が高い。この町は気に入っていたのだが、そろそろ他の町へ行った方がいいのかなと思い始めた。
そんなある日、宿の食堂にアントニオ様がやって来た。今日は貴族の服装ではなく平民、それも冒険者の服装である。服装自体は違和感がないのだが、仕草が上品である。貴族とバレバレである。最もマリーも似たようなものである。服装は町娘風の服装だが食事を食べる仕草は上品でとても平民には見えない。
マリーが食事をしていると、マントニオ様が
「この席いいかい」
「はい、別にかましません。お久し振りです、アントニオ様」
「久しぶりだね。元気にしていた」
「私はいつも通りです」
「そうか、それはよかった。先日アデーレ嬢が訪ねてきてマリアさんのことを聞くから、『森で命を助けられたから食事に誘った』と答えた。その後も何か言っていたが無視した。アデーレ嬢のことは気にしなくていいから。『マリアさんの事は何もするな』と言っておいたから」
そんな事を言えば油に火を注ぐようなものだと思った。
「アデーレ様とはどのような方なのですか」
「公爵家の寄り子の伯爵家の長女だ」
「そうですか。婚約者とかではないのですか」
「アデーレ嬢とは何もない。俺に婚約者はいない」
「そうですか。それは失礼しました」
「それより、マリアさんこそ1人なのか。恋人はいないのか」
「私は1人です。恋人もいません。下賤の身ですから身分はわきまえています」
「そうか、それはよかった」
なぜか難しいことになってきた。ほんとにどこかへ行った方がよさそうである。遊牧民の暗殺者にアデーレ様にアントニオ様、何かトラブルが起きそうである。
「今度一緒に森へ魔獣討伐に行かないか。俺1人では不安なのだよ。マリアがいてくれると安心だ」
「護衛だと、公爵家の護衛を連れて行ったらどうなのですか」
「公爵家の護衛を連れて行くと、護衛が前に出て俺に戦わせてくれない。だから冒険者活動をする時はいつも1人だ」
「そうですか。でも遠慮しておきます。アデーレ様にもくぎを刺されていますし」
「アデーレ嬢は関係ない。どうしても無理か」
「はい」
その後食事を終えると、アントニオは食堂を出て行った。今回はやけに素直に諦めてくれた。ほっとするマリーであった。




