6.アントニオとの会食2
最初に出てきたのは、野菜をオリーブオイルで味付けしたサラダだった。前世のトリエスタント王国の王都で、一度だけマリーも食べたことがある。しかし、前世のことを言うわけにもいかない。
「始めて食べる料理ですね。このオリーブオイルの味つけが絶妙ですね」
すると、アントニオが驚いた顔をした。
「マリアさんはこのサラダ、食べたことが有るのですか。これはこの地方の郷土料理で、この地方以外だとあまり食されていないと聞いているのですが。それにこの料理の味付けがオリーブオイルだと、どこで知ったのですか」
いけない。しゃべるとぼろが出る。「初めて食べる」と言いながら、その料理にコメントしてはいけない。まして隠し味など絶対に言及してはいけない。
次に出てきたのは、薄く切った牛肉とチーズの炒め物だった。これもソースが隠し味になっている。しかし、今回は自重することにした。
「この牛肉とても美味しいですね。うすく切ってあるのでとても食べやすい」
「そうですね、私もこの料理はとても好きなのですよ」
今度は無難にこなしたようである。マリーは「これも前世で食べた」とも言えずに、優雅にそして上品にその料理を食べた。するとアントニオが
「マリアさんは食べ方も上品ですね。とても下賤の生まれには見えませんね」
「そんなことはありませんよ。私はこの店がとても上品なので、店の雰囲気を壊さないようにしているだけです」
「とでもそんな風には見えませんね。自然とこなしているように見えます」
喋れば喋るほどぼろが出るように思う。マリーはあまり喋らないことにした。
次に出来来たのはやっと本命魚料理だった。新鮮な魚や貝をニンニクとオリーブオイルで味付けしさらにワインで煮込んであった。さすが、ロイマーナ王国の代表的な料理、オリーブオイルの味付けも絶妙ならワインの煮込み具合も完璧であった。何より魚が白身で美味しい。
「この魚、鯛ですか。それに使ってあるワインはこの地方の名産ですか」
「マリアさんは、本当にこの料理を食べるのは初めてなのですか。使ってある魚の種類からワインの銘柄までわかるのですか」
ダメだ。もう完全にマリーを貴族と疑っている。この際前世の記憶は封印しないといけないと思った。
「ロイマーナ王国は魚料理が有名だと聞いていた物ですから」
「そんな言い方するまるでマリアさんは外国の生まれのように聞こえますけど」
「いえ、そんな事は有りません。この国の生まれです」
「そうですか」
「私は下賤の生まれです。それにあまり人に知られたくない事情もあるので、この件はご容赦願います」
「分かりました。マリアさんも何か事情を抱えているということですね。私も命を助けてくれた人の秘密を暴こうとは思いません。しかし、もし困ったことがあたら言って来てください。私でよければ力になります」
「ありがとうございます。お心使い感謝します」
そのようにして会食は過ぎていった。この会食でマリーはかなりぼろを出したようで、最後にはアントニオはマリアを貴族認定してしまった。そして次の約束を取ろうと必死である。
「マリアさんもこの町に居るのだし、これからも今日みたいに食事に行きませんか」
しかし、密かにひっそり暮らしたいマリーはその申し出を受けるわけにはいかない。貴族と付き合っていると町の人に知られると目立ってしまう。
そして、それを遊牧民に知られると暗殺者を差し向けられるかもしれない。ここで死ぬわけにはいかない。それに胸に抱えた爆弾を何とか処理しないといけない。これを後世に伝えていかないとマリーは死ぬこともできないのだ。
「私のような下賤の者に声をかけてくれるのはうれしいのですが、アントニオ様と私では身分が違いします。お付き合いはご遠慮します」
「お付き合いだなんて、ただ食事に行くだけですけど」
「それも貴族と一緒に行くのは気が引けます。もしこれをほかの者に知られるときっとよくないことが起こります」
そうやって固く辞退するのであった。最後はアントニオも根負けして、
「また機会が有ったら」
ということになった。
そしてマリーが常宿にしている宿に送ってもらって、アントニオとの会食は終わりとなった。




