39.マリーの山賊退治
オリカンテを出てからは馬の旅である。事務官がいやそうな顔をしている。たぶんお尻が痛くなったのだろうがマリーは知らん顔をした。今から遊牧民のところへ行こうというのに馬も乗れないでどうするのだと思う。夫のアントニオもつらそうである。しかし夫の方はたまに馬に乗ることもあるようで何とかなりそうである。
マリーは最近は馬に乗ることが多くなって問題ない。平然としている。それにつらくなれは密かに回復魔法をかける。ついでに馬にも回復魔法をかけるので馬も元気である。先頭を平然と進んで行く。遅れぎみになる事務官は無視である。護衛は当然マリーとアントニオに付いてくる。事務官の護衛ではないのである。そうすると事務官は取り残されまいとして猛然と追いかけてくる。こんな荒野に取り残されたら狼の餌食である。
休憩の時、事務官が憮然としている。そして、
「もう少しゆっくり行ってくれませんか」
「そんなことをしていたら今日中に今日の目的地に着けませんよ。暗くなると狼が出てきます」
そう言われると、黙った。
そんなマリーをアントニオは何も言わない。公爵令息が何も言わないのに事務官が文句を言う筋合いではないのだ。それにそんな荒野に遊牧民の一族を押し込めたのは王宮なのだから、この地の状況を事務官も理解すべきである。
たぶんそう言えば「これは国王の決定だ」と言うのだろう。しかし、その決定に至る資料を作ったのはこの事務官のはず。たぶん遊牧民を下に見ているのだろう。しかし、その遊牧民の力はこの国では侮れない状況である。今遊牧民が反乱を起こせばこの国はつぶれる。たぶんアーデシラ王国が動く。そうしたらこの前の戦争の二の舞いである。
次の日は宿を出ると、夫が
「事務官に配慮してもう少しゆっくり進んでくれ」
と言ってきた、昨日の夜事務官が何か言ったのだろうか。
そこでマリーは
「今日は少しスピードをとしますが、暗くなって盗賊や狼が出たら対処してくださいよ」
とわざと事務官に聞こえるように大きな声で返事をした。
今日はスピードを落とした。それでも事務官はつらそうである。この事務官どれだけ軟弱なのだろう。そして夕方になったが当然今日泊まる予定の街には着かない。遠くで狼の遠吠えがする。すると事務官がおびえだした。
空を見ると今日は満月。それもスーパームーンである。マリーの気が高ぶる。そんなマリーを恐れて狼は襲ってこない。襲ってくれば返り討ちだと気を研ぎ澄ますと、山影で何かが動いた。狼でない。「魔獣かな」と思ったがそうでもない。いくつも塊が動いたように思った。
「あの山影で動いているの、盗賊じゃないかしら」
そう叫ぶとアントニオが
「どこだ」
「あそこ。あの丘の向こう。ほら動いた。こちらに向かってくるみたい。数は分からない。たぶん10よりは多い。20ぐらいかもしれない」
「俺には分からない。マリアは目がいいな、あんな遠くまでよく見えるな」
こんな会話をすると、護衛がマリーとアントニオの周りに集まってきた。すると事務官が取り残されまいと必死に私たちのところに駆け寄ってきた。
すると遠くから馬を駆る音が聞こえてくる。護衛が前に出て臨戦体制に移行する。マリーは事務官の方を向いて
「どうします。走って逃げますか。たぶん全力で駆ければ盗賊を振り切れると思いますが。それとも戦いますか」
「俺を守れ。そのための護衛だろう。俺はそんなに早く走れない」
「この護衛は私のための護衛であって事務官様の護衛ではありませんよ。今後私の言うことに逆らわないなら。あの盗賊を蹴散らせて見せますがどうします」
「分かった。言うことを聞く」
「その言葉に嘘偽りはありませんよね」
「ない。神に誓う」
「分かりました」
交渉成立である。この事務官うっとうしかったのである。これで遊牧民の入植地に行ってもこの事務官はマリーの言うことに逆らないだろう。
マリーはマジックバッグから弓を取り出すと、向ってくる盗賊に向けて弓矢を放った。一度に10本ずつそれを3回、計30本の矢を放った。その矢は風を切って飛んでいった。
それをマリーは風魔法で誘導していく。今日はスーパームーン、マリーの魔力はいつもの3割増し。遠くまで魔法を飛ばすことができる。そしてしばらくすると「キャー」とか「ウワー」と言った声が聞こえてくる。
しばらくすると、数頭の馬が駆けて来たが、乗り手は乗っていなかった。護衛が
「早くこの場を立ち去った方がいい。たぶん血の匂いで狼がやって来る」
この話に事務官が震え出した。
マリーたちは急いでその場を離れた。そして今日の予定の街について宿に入った。事務官は何も言わなかった。




