38.オリカンテの街
マリーたちの乗った船はそれから数日してオリカンテの港に着いた。港ではこの地を預かるオリカンテ公爵の出迎えを受けた。
「今日は遠路はるばるようこそこのオリカンテにお越しいただきました」
するとアントニオが
「公爵の出迎え、感謝します。今回依頼を受けたのは妻のマリアですが、私も同行しました」
「お初にお目にかかります。アントニオの妻のマリアです。今後ともよろしくお願いします」
挨拶の後、随行してきた王宮の事務官とともに公爵の住む城に行くことになった。私たちを乗せた馬車は通りを進んで行く。通りには多くの人々が行き交っている。それに通りに面したところには多くの商店が並んでいる。店先にはこの地方で取れた果実も並んでいる。馬車でなければ手に取ってみるのだが、馬車を止めるわけにもいかない。それにそんな事をしたら護衛が慌てる。眺めるだけにした。それに通りを行く人の顔がすべて違って見える、ここはいろいろな人々が集う人種のるつぼのようだ。
オリカンテ公爵の居城は港を見下ろす丘の上にあった。岩山の上に肌色の垂直の壁がそびえている。この辺りは雨が少ないのか、その岩の色が目立つ。それに今は8月、太陽の光を反射して眩しいくらいだ。
城の上から港を見下ろすと絶景である。青い水平線、その間に浮かぶ島々。そこを白波を立てて船が進む。視線を下の港に向けると幾つも船が整然と係留されている。船の荷物を積み下ろしたり積み込んだりして人が行き来している。ここは海上交易の要衝のようだ。
外の景色計に見とれていると、館の中に入るように促された。玄関を入ると大理石の石像が目に飛び込んできた。公爵はこのような石像を集めるのが趣味のようだ。
「公爵は美術品に造詣があるのですか」
すると公爵が嬉しそうに
「これは有名な彫刻家のアルミロの作なのですよ。中々製作してもらえないのですが、今回は王家を通じて依頼してもらったら快く了解してもらえました」
今回の遊牧民受け入れは王家も気を使っているようである。
その後客間で歓談となった。
「アントニオさんとマリアさんは、この前のアーデシラ王国軍との戦争ではともに参加されたそうですが、遊牧民とは一般的どうなのですか。今回この西の地域は遊牧民の一族が入植しています。
王宮からはその動向に気を使うように言われておりますが、正直言って私は遊牧民と接するのは初めてです。どう接すればいいのか分かりません。その辺りは、何かよい手立てはないのですか」
これに対してアントニオが
「どうと言われましても、私も戦っているだけで、実際に接したわけではないので、詳しいことは知りません。ただ、彼らは強さがすべてだそうです。強さを示せば付き従ってくれるそうです」
「なかなか難しい注文ですな。『権威とか家柄ではだめ』ということですか」
その後も公爵との会話が進んだが、中々遊牧民の扱いに苦慮しているようだ。随行した事務官には少し嫌味も言っていた。さすがに夫と私は公爵家の人間ということで嫌みは言えないようだが、事務官にはストレートに言えるようだ。
次の日は公爵にお礼を言って館を出た。馬車を用意してあったようだが、馬車では時間がかかる。私としては早く行きたかったので、馬をお願いした。公爵はすぐに馬を用意してくれた。
随行の事務官はいやそうな顔をしていたが、私が強引に馬を主張して譲らなかったので事務官が折れた。これだと盗賊が現れてもすぐに対応できる。この先の荒野が安全とは限らない。保険は掛けた方がいい。
オリカンテを出てしばらく行くと、もう木々が少なくなってくる。もう半砂漠地帯である。その遊牧民の一族が押し込められたのは、この先、馬で3日ぐらい西に行った所だそうだ。ここよりひどくなると思うと遊牧民が可哀そうになってくる。
遊牧民の悲惨な生活に思いをはせるマリーであった。




